白金の王子 3.
本日連続投稿です。
【あらすじ】
セルヴィア、葬儀より帰還
「……ん?お父様?」
夜会—―もとい葬式の挨拶に疲れた私は、休憩室に向かっていた。
いや、ほんとにあった怖い話。挨拶だけなら貴族として教育を受けた私、余裕でこなせるんだけど、明らかに下心を持って近づいてくる方がいるんだよ。そう、つまりロリコンが。
こわい。すっごく怖い。セルヴィス連れて来なくてよかった。あの子、多分夫人や令嬢、殿方にも絡まれる。お父様はこうなることがわかってて来させなかったの?お父様も美形だし、昔はさぞモテモテだったんだろうなぁ。ちょっと気になるかもしれない。あとで調べよう。
私が気になったのは、お父様に激似の男性が描かれた肖像画。一瞬お父様かと思ったけど、第23代ラングラシュ公爵って書いてあるし、お亡くなりになった公爵閣下なのか。
それにしても、お父様そっくり。さすがは兄弟。双子みたい。確か三歳違いだったはずだから、双子では無いのよね。
少しだけ気にはなりながらも、私は会場に戻った。早くしないと、お父様が激おこよ。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「うん。ただいま~」
お出迎えしてくれたのは、執事長のセバス。私も最近名前を知ったばかりで、反射神経が凄いおじいちゃんである。
常に穏やかな表情をしている彼は、私にとって祖父のような存在だ。セルヴィアの実のおじいちゃんは領地に住んでるけど。
「セバス、お母様とセルヴィスはどうだった?」
「はい。特に問題はありませんでした」
「ならよかった。……あっ、そうだ」
セバスから報告を聞いた後、私はあることを思い出す。
「お父様とラングラシュの伯父様、お顔立ちはほとんど似ているの?」
例の肖像画だ。長年クライン家で執事長を務めてきた、セバスならわかるだろう。そう思い、聞いてみることにしたのだ。
彼は、その穏やかな瞳を思い出すように細め、話しだした。
「はい。お二人は瓜二つでした。見分けることができたのは、お二人の実母で、セルヴィア様のおばあ様ぐらいでした。私もすぐには分かりませんでしたし。身長で見分けようにも、本当にすべてが似ていたので」
そこまで似てたのか、二人は。顔は同じ、身長もほぼ同じ……見分けられないのは当然か。
「18年前、ジルベールさまがラングラシュ公爵家に養子として引き取られ、やっと見分けがつくようになったのです。その当時の使用人は既に私しかおりませんが、呼び間違いがなくなり、多少は楽に、仕事ができるようになった者が多かったと思います。
10年前あの方がクライン領にいらっしゃったとき、変わらぬそのお顔をみて、私がどれだけ安心したことか……」
クライン家の使用人は、お年寄りがとても少ない。セバスぐらいである。当時を知る者は、もう退職してしまったのだろう。
それにしても、10年前、か。少しだけ気になるわね。
「ねぇ、セバス」
「……何でしょうか」
「ちょっとだけ、気になることがあるのだけど、手伝ってくれる?」
「危険なことでなければ」
私が何を考えているのか、セバスは分かっているかもしれない。
果たしてこれが危険なことかどうかは分からないが、手伝ってくれるだろう。
「お父様の執務室に入りたいの」
セバスは快く了承してくれた。
むしろノリノリ。扉のみではなく、全ての棚を開けてくれた。
—―私がお父様の実の娘とはいえ、こんなことして大丈夫なの?
その疑問を投げかけると、「バレなければOK」という大変雑な返事が返された。
お父様にバレたら、怒るだろうなぁ。だけど、私の好奇心を満たすため。そして家族の真実を突き止めるためである。
私が見たいのは、クライン家の家系図。
なぜかというと、少しだけ気になったのだ。セバスは言っていた。10年前、伯父さまがクライン領に来た、と。
10年前と言えば、セルヴィスの生まれる少し前だ。
もしその時、テレーゼお母様のいた娼館に、伯父さまが行ったことがあるなら。
セルヴィスという子供が出来たとしても、おかしくない。
もし、ジルベール・クライン――またはジルベール・ラングラシュとテレーゼお母様の間にセルヴィスの名があれば、この説は当たり。なければハズレ。
—―あっ、これか。やっぱりクライン家って、かなり続いているのね……。
とても大きな紙が、額縁の中に入れられ、壁に飾られている。
少しだけ触ると、強い魔力が感じられた。
これが、家系図だ。
急がなければ、お父様が帰ってくる。早くしなければならない。
「セルヴィス、セルヴィス……あった」
結果。一番下に記載されていたそれは、……ジルヴェスターお父様とテレーゼお母様の子とあった。
—―じゃあ、本当に、セルヴィスは、お父様の不義の子……?
信じたくない。
クライン男爵は、愛妻家。それは、ずっと聞いていたこと。
なのに。
本当に、セルヴィスはお父様の実子なの?
家系図の隣にある、私の実母—―シェリーお母様の肖像画。美しかったあの人は、つい最近亡くなってしまった。
貴方のシェリーお母様への愛は、本物ではなかったのですか?
本物と、信じていいのですか?
有り難うございました!