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僕は魔王の寵愛を受けて復讐する  作者: 神尾瀬 紫
4/7

魔族の王

こんにちは

神尾瀬紫です


優豪の現実はそれなりに平和なようです。


どうぞお楽しみください。


 

「うわ・・・ぁ」

 優豪は空を見上げて思わず声を漏らした。

 空に大地が浮いている。

 逆さに。

 空を覆い尽くそうかという広さにくっきりと森と砂地が見える。

 地球で言うと東から南の空にかけて、板のような大地が覆い被さっているようだ。その大地の向こうに太陽が通っているので日陰になって薄ら暗い。

 月とか言うレベルの大きさではない。

 重力関係とか、どうなってるんだろう。落ちて来ないのだろうか。

 空気を薄く感じながら、まだこのくらいなら息が出来ることを確認しつつそんな感想を抱く。

 今優豪がいるのは、魔王城のテラスだ。

 西洋の城に詳しくないので例えるものもわからないが、言うなればシンデレラ城。それの、赤黒く禍々しい感じ。

 その周りには空を突くような尖塔が伸び、サグラダファミリアっぽくもある。

 ふわっと呼吸が軽くなった。

「あれは、人族の世界だ。人族と、亜人が住んでいる。」

 振り返ると魔王が歩いてきていた。

 キラキラと銀色の髪がなびいている。

 一歩一歩近づくにつれて、呼吸が楽になる。

「そしてこちら側は我々魔族の世界だ。魔力が濃く満ちている。」

 言いながら優豪の隣に並ぶと、スルッと腰に手を回して引き寄せた。

 昨日のことがあるから少し照れくさい。

 しかしそれを気取られるのはなんだか悔しくて、無理矢理に気持ちを引き剥がした。

 空を見上げる。

 紫色の空に浮かぶ緑の大地はとても幻想的だ。

「魔力が濃いこちらの空気は赤い。しかし人族の世界の空気は青い。だからこちら側の空は混ざって紫色に見える。」

 そう言われて後ろの空を振り返ると、西から北にかけては真っ赤な空が広がっていた。

 

 あの後意識を飛ばした優豪は、目を覚したとき魔王の腕の中にいた。

 随分と寝心地のいい寝具で寝ているのがわかる。肌触りがとてもいいし、弾力もいい。

 逞しい腕にがっしりと抱えられて、身動きが取れないながらに首だけで周りを見ると、豪華な天蓋が見えた。

 優豪が出現した部屋は、観察する暇はなかったが、天井が高く格子の枠組みでドームの様になっていたことだけはわかったので、その部屋ではないことは確かだ。

 天蓋の隙間から見えるこの部屋は、薄いグレーの壁にゆりの模様が縦に繋がってストライプに見える。

 意外とシックだ。

 もっと様子を見たくてモゾモゾ体の角度を変えていると、魔王の目が開いた。

「気がついたか。」

 魔王のイメージとは違い、優しい手つきで前髪を払われる。

 昨日より呼吸が楽だ。

 それはどうやら魔王の魔力を体に取り入れたかららしい。

「お前は俺から離れると呼吸も出来なくて死ぬからな。そばにさえいれば死にはしない。」

 ああ、そう・・・

 優豪は若干遠い目で魔王の肩越しに壁を見た。

 確かに呼吸は軽くなっているが、その他の主に下半身の重みや痛みが否応なしに昨日のことを現実だと知らしめる。

 魔王が言うことには、優豪はこの世界に落ちてきたときに一度死んだ。

 すぐに魔王が生き返らせたが、この世界の空気が合わずにもう一度死んだ。

 なので魔王は優豪の体を作り変えるべく、体の中心に魔力の珠を配置し、そこに自分の魔力を込めることでなんとか命をつなぎとめた。

 自分は殺されたのだと、実感するたびに胸に湧き上がるくらい復讐心。

 なぜ、自分は殺されなければならなかったのか。ただの悪ふざけの延長だということがとにかく悔しい。

 魔王が、静かに見つめている。

「復讐したいか?」

 突然そんなことを言われて、優豪が顔を上げた。

 復讐・・・?

 したい。

 出来るものならこの手で思い知らせてやりたい。

 奴らが軽んじたこの命。その代償を支払わせたい。

 優豪の瞳に暗い炎が宿る。

「出来るのなら。」

 償わせたい。

 自分を殺した奴ら。

 笑って囃していた奴ら。

 助けてくれなかった奴ら。

 気づいてもいなかった奴ら。

 父親は負けるなと言った。

 情けない。男だろう。学校へ行かないなんてみっともない真似はするな。逃げるんじゃない。立ち向かえ。こんなことで逃げていたら、社会になんて出られないぞ。

 母は耐えなさいと言った。

 少しぐらい我慢しなさい。情けない。子供が不登校なんて恥をかかせないで。たった三年間じゃないの。ご近所に笑われるから。

 助けてほしかった。

 守ってほしかった。

 家族には理解してほしかったのに、突き放された。

「どうしたら、復讐できますか?」

 そうだ。そのためならなんだってしよう。

 一度ならず二度死んだこの身だ。もう恐れるものはない。

 そんな暗い決意が読めた魔王は、その真っ黒な双眸を細めた。

 どこの世界の人族か分からないが、いい目だ。

 カラダも良い。

 口角を上げて微笑む。

 それは文字通り悪魔の笑み。最強の魔王の笑み。

「お前が落ちて来た空間の穴は、今は閉じているが気配を覚えている。我の魔力で探れば、そのうち繋ぐことができるだろう。」

 優豪の目が開く。

 暗い色を湛えた瞳に、満足そうに魔王は笑う。

「お前のこの体に魔力を溜めて、お前の世界で放出してやれ。世界を壊すほどの魔力を蓄えることなど、我の魔力量なら可能だぞ。」

 耳元に顔を寄せて囁く。

「お前の手で、復讐させてやる。」

 その姿勢のまま魔王の手が優豪の尻を撫でる。

 あまり昨日のことは覚えてないはずなのに、体の奥、へその下がキュッとした。

「我の機嫌をよくしておけば、早く魔力が溜まるだろうな?」

 魔王の唇が重なる。

 長い舌がヌルっと忍び込んで優豪の舌を絡める。

 唾液が混じって水音とリップ音が耳から犯してくる。

 治まっていた下半身に熱がこもる。

 腹の中が熱い。

「は・・・、生きるためにも魔力を溜めないとならないから、更に魔力を溜めるのは時間がかかるだろうな。」

「あむ・・・ふ・・・」

 喋るだけ喋って、優豪には返事もさせないように、その唇を塞ぐ。

 腹に埋め込まれた珠は優豪の気持ちなど汲まない。

 ただ魔王の魔力を求めている。

 優豪の頭の中では待て待て待てと焦っているのに、体が言うことを聞かない。どんどん腰が揺れ下半身を魔王に擦り付けてしまう。

「ユウゴ・・・お前、かわいいな。」

 嬉しそうに囁き、頬にも瞼にもキスをされる。

 優豪の意識は、激しいキスで薄れていく。

 ふざけるな、かわいいわけ無いだろ、誰のせいだと脳内で悪態をついても体は溶け始めている。

 そしてそのまま、流されるように何度目かの魔力を体内に注がれた。

 

 また意識が昨日のことに向かっていて、恥ずかしい。

 地球に生きていた頃には、まさか自分が尻を犯されるなど考えてもいなかった。ましてやそれが気持ちいいなんて。

 珠のせいだ。こちらの世界に体が対応出来ないせいだ。

 いたたまれなくて責任転嫁する。

 そんな優豪が脳内で頭を抱えて悶えていると、ガヤガヤと音がし始めた。

 たくさんの金属が触れ合う音。生物が動く音。

 静かだが無音ではないそれは、ガヤガヤとしか表現出来ない。

 その音の発生源を求めて、優豪がキョロキョロする。

 魔王はそんな優豪の肩を抱き、テラスの縁の手すりから下を示した。

 そこの広場には、たくさんの、とてもたくさんの生き物が整列していた。

 一番左に、裸の褐色の肌に尖った耳、餓鬼のように膨れた腹に異様に細い手足の生物。背中にはコウモリのような羽がワサワサ動いている。彼らは、きれいに整列はしているけれど、落ち着き無く体を揺さぶったり足を踏み鳴らしたりしていて、何かの一つの生き物が胎動しているかのようだ。それがざっと見える感じで五百はいそうだ。

 その隣、かろうじてボロを纏って棍棒を携えた餓鬼が少し少なくて三百くらい。彼らはわずかに羽を蠢かし、体を揺らすくらいの動きをしている。

 そしてその隣には、革鎧のような武装と呼べるものを身に着けて、明らかに金属の剣や槍、弓などを背負っている。こちらは武器ごとに並んでいるが合わせて三百ほど。

 一番右には、立派な甲冑と金属の武器を持つものと、装飾の施された革鎧を着て、大振りな杖を持った者たちが合わせて二百ほど、背中の羽もたたまれていて、微動だにせず立っていた。

 優豪の目が点になる。

 これはまるで戦場に行く軍隊のようではないか。

 驚いて下を覗きこんでいると、何かの影が射した。

 慌てて見上げると、薄暗い紫の空に白からグレーのそれぞれの色をした飛竜らしき動物が十頭ほど旋回して降りてくる。

 そのまま下降して、下の広場でこちらに向いて並んでいる兵士達の前に降り立ち、その背に乗っていた軽武装の褐色の人物達が飛び降り横に並んだ。飛竜は良く調教されてるらしく、羽根をたたみ、しゃがむようにして頭を下げた。

 何だ何だ何だどうしたどういうことだ。

 地球の日本に住んでいた優豪は戦争の体験はない。しかし目の前に広がるのは映画やニュースで見た、軍事行動ではないか。

(え?訓練?)

 そんな気持ちで魔王を見上げるが、彼は感情のない目でそれを見下ろしていた。

 もう一度広場を見下ろす。

 すると、先程降り立った飛竜騎士達よりも更に前列に、二人の豪華な鎧を纏った人物が現れた。

 兜は外されている。こちらを見上げるその顔は、他の餓鬼のような兵士たちとは違い、頭髪が風になびきとてもハンサムだった。褐色の肌とのバランスで、なんとなく中東の人達の顔立ちに近い。

「魔王陛下。御前に揃いましてございます。勅令を。」

 突然背後から聞こえた声に、優豪の体は飛び上がった気がした。

 振り向くと、そこには青と緑のマントを羽織った二人のイケメンが跪いていた。

 うつむいているから顔は見えないけれど、その髪の色とマントの下に見える豪華な刺繍の服装と、跪くその姿がもうイケメン。これで顔を上げたら餓鬼だったとかだったらびっくりする。

 優豪は突然始まった何らかの軍事行動に、咄嗟に対応出来ずに軽く現実逃避してしまった。

 グイッと抱かれていた肩を引かれ、魔王の横に戻される。

 魔王と並んでいるということは、下の広場からも魔王と同じところに見えるということで、そこは当然前日にこちらの世界に現れただけの余所者のいる場所ではない。

 呼吸なら少し離れていても大丈夫だ。こんなに密着する必要はない。

 先程のガヤガヤとした雑音は水を打ったように静かになっている。全員が魔王の言葉を待っているのだ。

 そんな時に言葉は発せられなくて、無言で魔王の手から逃れようとした。

 しかし魔王は離さない。離してくれない。

 それどころか、もっと近づけとばかりにグイッと抱えられてしまった。

 こんな群衆の前で男に抱えられるような状況、今までの長くない人生でもあるわけがない。

 数人の前で裸にされたり、それを写真や動画に撮られたりはしたが、まだ拡散されてないはずだ。そしてそれは多分、クラスメイトが優豪をいじめていた証拠になるので、優豪が死んだ今、証拠隠滅されているだろう。きっと消されている。

 ジタバタする優豪を片腕で閉じ込めた魔王は、決して大きくはないが通る声で、眼下の跪く兵士達に言葉をかけた。

「人族も亜人も、殲滅してこい。」

 何も捻らず飾らず端的に、日本中の校長先生に見習ってほしいような簡潔さで、魔王の御言葉は終わった。

 優豪が疑問の声を上げる間もなく、その場の兵士達がいっせいに雄叫びを上げる。

 わりと理性のありそうな、鎧を着ている人達は人の様な声で。

 餓鬼そのもののような者たちは、身体中を叩きながら足を踏みならしながら獣のような声で吠える。

 その大地を揺るがすような大音量に、優豪が両耳を抑えていると、下から二人の武将のようなハンサムが、赤と紫のマントをはためかせて飛び上がってきた。

 え?飛べるの?

 一瞬見つめた優豪の瞳と、赤いマントをたなびかせたグレーの髪のおかっぱと目が合う。

 その瞬間、彼は怪訝な顔はしたが、特に何も言わず魔王へ視線をやると

「魔王陛下。勝利を御身に。」

「魔王陛下。行って参ります。」

 そう言って、スーパーマンのように飛んで行った。

 その後を追いかけるように飛竜騎士が飛び立ち、その後にコウモリのような羽を羽ばたかせて全ての兵士が続いた。

 まっすぐ、日陰になっている緑の大地へ。

 優豪は目を白黒させた。

 さっきまで魔王と二人で話していただけなのに、なんでこうなった。

 急に現れた千三百人ほどの兵士達は、緑の大地に吸い込まれてもう見えない。

「ま、魔王様?これは一体・・・?」

「今日は人族の世界に侵攻する日だった。時間になったから送り出すためにここへ来てみたら、お前がいたからな。」

 相変わらずガッシリと肩を捕まれ、なんでもないことのように言う。

(じゃぁ俺がこんな所にいなければ巻き込まれなかったんじゃないか)

 運が悪いのは生まれつきだ。そう思っても、いい加減にしてほしい。

 背後のイケメンたちはまだ跪いている。

「あの、このひ・・・この方達は?」

 おそるおそる訊ねる。

「こ奴らは我の片腕だ。紹介しよう。面を上げろ。」

 その言葉でうつむいていた顔が同時に上がる。

 褐色で彫りが深くてやっぱりハンサムだ。黒い眼球はやはり少し怖いが。

 魔王が眉を動かして促す。

 青いマントの、濃いグレーの髪を縦ロールにした男が、立ち上がる。

「私は内政大臣。シーリャンと申します。」

 そしてもう一人、緑のマントの、少し薄いグレーの長髪を後ろでゆるく縛っている男が立ち上がった。

「私は王城と国の整備を担当しております。エンミと申します。」

 なるほど。行軍には関係ない業務の二人か。

 とすると、先程飛んで行ったマントの二人は軍事担当ということで、単純に考えて四天王ということだろうか?

 優豪も自己紹介をしようと二人に体を向ける。

「俺は」

「もういい。下がれ。」

 魔王に遮られた。

 え?と見上げても、まっすぐ部下を見ていて優豪を見ていない。

 彼らは驚かず、頭を下げるとすり足の後ろ歩きみたいな歩き方でテラスから出ていった。

 再び静寂が訪れる。

 優豪は先程の兵士たちの向かった先が気になって、また空に浮かぶ大地に目をやった。

 相変わらず魔王はピッタリとくっついている。

 呼吸が楽になるのはありがたいけど。

 さっきの言葉が気になる。

「あの・・・人族を殲滅って、どういうことですか?」

 瞳全体が虹彩のような真っ黒の目は若干どこを見ているかわからない。それでもわずかに顔が優豪の方に向いたので、きっと見つめられているのだろう。

「殲滅とは、殺し尽くすことだが?」

 違う。言葉の意味じゃない。

 仕切り直す。

「いえ、言葉の意味ではなく、理由です。殲滅する、意味。何か恨みがあるとか・・・」

 しかし魔王は怪訝な顔をした。

「・・・虫がいたら、追い払うだろう?」

「・・・」

 虫と同じか。人族や亜人は。

「あの、都合が悪いとか、何か対立しているとかは・・・」

「特にない。我々魔族に対抗する力もないしな。ただ、頭上に巣があると思うと、鬱陶しい。だから滅ぼすことにした。」

 胸がざわめく。

 確かに、生きていた世界でもだいたい悪魔や魔物は悪い物で、恐れられる存在だった。魔族を勇者が倒す物語やゲームはたくさんあった。

 その魔族の側に、自分がいるという現実。

 こちらの世界で魔王以外には今初めて会った。そして人族や亜人にはまだ会っていない。

 どちらにも情は湧いていないが、やはりざわざわする。

 魔王が見下ろしている。

 優豪の表情をじっと見て、不思議そうな声で言った。

「なぜ人族や亜人の心配をする?お前は人族に復讐したいんだろう?こちらの人族とお前の世界の人族と、何が違うんだ?」

 優豪は考える。

 純粋には全然違うだろう。優豪を苦しめた人物がいない。そして優豪が復讐したい相手は、優豪を蔑ろにした世界の人間だ。

 生物としてもきっと違う。この世界には魔力が当たり前にあり、そして優豪はこの世界の空気にすら対応できなくて一度死んだ。

 あちらの人族の大地に行っても、多分同じことだろう。

 もちろん魔王には、生き返らせてくれた恩を感じている。

 優豪を苦しめた奴ら。

 実際に手を出してきた数人。それを見て哂っていた数人。知っていたのに見ないふりをした数人。

 面倒だと、気付こうともしなかった、知ろうともしなかった教師たち、他のクラスの生徒たち。

 センセーショナルにいじめや暴力を取り上げて、解決しようとしないメディア。

 誠実に考えもしないで、おためごかしに誠意を押し付けてくる国。

 匿名で代理正義をかざして誰かを傷付けることを正当化する人間。

 誰かが傷つくことを喜んで娯楽にする生物。

 そして、優豪を助けてくれなかった親。

 全部だ。

 全部がなくならなければ悲しみの種が生まれる。

 人の苦しみをなくすには、全滅させるのが一番だ。

 魔王が美しい顔に笑みを浮かべる。

「人族なんて、鬱陶しいだけだろう?だったらお前の世界の人族も全て滅ぼしてしまえばいい。そうすればお前を苦しめたものは全て無くなる。」

 優豪は考える。

 人種とか年齢とか性別とか、何も関係ない。

 人間がいればそこに争いが生まれ傷つくものが生まれる。

 生命は平等と言いながら、絶対に格差が生まれる。

 奪われるものが悲しむだけだ。

 苦しめる者には復讐を。

 苦しめられた者には救済を。

 そのために、魔力を貯めなければいけない。

 魔王が協力してくれるならば願ってもない。

 この命の償いをさせると決めた。

 優豪は再び頭上の大地を見上げる。

 この世界の生物がどうなろうと、気にならない。

 大事なのは自分の復讐。そして世界の清浄化。

 優豪が魔王を見上げて笑った。

「確かに、害虫駆除は大切ですね。」

 そして魔王の腰に手を回した。

 

 

 そして次の日。

 なぜか優豪はイケメンに絡まれた。

 緑のマントのエンミ。通路で彼と行き合ったとき、突然壁ドンで抑え込まれた。

「な、何かご用でしょうか、エンミ様。」

 なんとなく、与えられたグレーのマントを掴む。

 白目のない両目がジッと見ている。

 意味がわからずどうしようか悩んでいると、急に顎を掴まれ持ち上げられた。

「昨日は私の番だったのだ。」

「え?」

 間近で見つめられて、つい寄り目になる。

「私が陛下に呼ばれる番だったのだ。」

 あ、そうか。

 いわゆる、夜伽というやつか。

 黒目だけの目の感情は読みにくいが、今はなんとなくわかる。これは嫉妬。

「貴様は何者だ。どこから来た。なぜ陛下のそばにいる?」

 そういえば昨日紹介された時に、自己紹介をしようとしたら遮られてそのままだ。

 優豪は近くから見つめられることに息苦しさを感じながら、答えた。

「俺は喜多川優豪と言う、異世界の人族です。魔王様の目の前に出現して、そのまま魔王様の御加護を頂いてます。」

 御加護というものがどういうものか、多分伝わっている。

 奥歯を噛みしめる音がした。

 優豪の中で、暗い計算が浮かんでいた。

「なぜ陛下がこんな人族など・・・」

「体がイイって言われましたよ。」

 顎を掴まれたまま近い距離で、内緒話のようにさらに顔を近づける。

 息が掛かるくらい近く。

 エンミの目が値踏みするように細められた。

 そのウエスト辺りに両手を添える。

 ベルトより上に向けて手を這わせる。 

「試してみませんか?魔王様が愛でた体を。」

 呼吸のような声で誘う。

 魔王様だけでなく、他の力のある魔族から魔力を得られたら、もしかしたら違う種類の魔力が手に入るのではないか。

 一種類だけではなく多種多様な魔力が手に入るとしたら、とても強くなれるのではないだろうか。

 そう思って、少し挑発してみた。

 エンミの喉が上下する。

 優豪は心の内で驚いていた。

 まさか自分の誘惑が通じるなど。

 ダメ元でやってみて、思いもよらない成果に逆に引いている。

 エンミのどちらかといえば女寄りのきれいな顔が、情欲に歪む。

「それならちょうどいい。お前にどちらが上か教えてやる。」

 そう言って、唇を重ねてきた。

 誘った手前、おとなしく唇を開き、舌を受け入れる。

 その瞬間。

 バチッ!!

 口の中で爆竹が跳ねたような衝撃で、二人の体が弾かれるように離れた。

「!!?」

 お互いに口を抑えながら顔を見合わせる。

 何が起こったかわからない。

 血の味はしないが、ものすごく痛かった。

「・・・言い忘れていた。」

 低い、不機嫌な声に、緑とグレーのマントが跳ねる。

 仁王立ちした魔王は腕を組んで、しゃがみこんだ二人を見下ろしていた。

「ユウゴ。お前の体を支えている魔力は我の魔力だ。他の者の魔力は受け付けない。そして、中の珠は我の魔力そのものだ。他の者の魔力など触れたら、拒否反応で体の中から弾け飛ぶぞ。」

「ひっ!」

 思わず引き攣れるような声が出た。

 まさに体内に別の魔力を取り込もうとしていたところだ。

 知らずにコトに及んでいたら取り返しのつかないことになるところだった。

 さすがに魔王でもバラバラになった体を戻して生き返らせることはできないだろう。

 青ざめる優豪に近づき、髪を掴んで引っ張った。

「うあっ!!」

 痛みに悲鳴を上げて、引っ張り上げられるまま立ち上がる。

 声もなく顔を顰める優豪の唇に噛み付くようにキスをする。

 先程のような爆発したかのような衝撃はなく、長い二股の舌が中を蹂躙するに任せる。

 頭の中がぼうっとする。

 クチュクチュと音を立てながら存分に中を(まさぐ)って、離れる頃には優豪の瞳は熱で溶けていた。

 髪から手を離して、両腕でぐったりした体を抱える。

 エンミはしゃがんだまま固まっていた。

 魔王の瞳が冷たくそれを見下ろす。

「今後、これに手を出すな。引き裂くぞ。」

 そんな低く冷たい声は初めて聴く。

 エンミは立ち上がれないまま、コクコクと縦に首を振った。

 それに鼻で答えると、抱えた優豪に視線を移す。

「まさか別の者の魔力を溜めようとするとはな。油断も隙もない。」

「う・・・ごめ・・・なさ・・・。」

 力なく謝る優豪を抱え歩き出す。

「お仕置きだ。」

 優豪がビクリと体を硬直させる。

 それを見る魔王の目の鋭さは、なぜか消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お読みくださりありがとうございます。


主人公が魔族側にいるからと、悪として設定されている魔族をいいやつにするのは嫌だなと思い、ひたすら討伐される側の魔族を描写していきたいと思います。


また近いうちにお目にかかれるようにがんばりますので、よろしくおねがいします。

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