本当の自分
友人と一緒に、当たると評判の占い師に自分について占ってもらうことにした。
タロット占いというものらしいが、不気味な絵柄をしたカードで原則、なんでもアドバイスができるということだった。
それは、一通り占ってもらった後のことである。
「あの、すいません。周りの人みんな殺すにはどうすればいいか占ってもらうことはできないんですか?」
友人が、真剣な眼差しになって聞いた。
「それはだめですよ。占うことは出来ません。」
「どうしてですか?」
「そういう誰かが不幸せになることは絶対知らない方がいいんですよ。あたしが占うのは簡単だけどね。今まで伝えて良い結果になったことは一度たりともないんですよ。」
「それでも構いません。教えてください。」
友人が、そこまでこだわる理由は僕には分からなかった。
「いや、でも」
占い師も簡単には首を縦には振らなかった。しびれを切らした友人は、急に声色を変えて、
「こっちはお金を払っているんだ、知る権利はあるだろ!」
と言い放った。怒りだした友人を見かねて、さすがの占い師もしぶしぶカードを取り出した。
「ところで、あなたはどうなさいますか?」
占い師は僕の顔を見た。
「さっきから、黙って立っていらっしゃいますが、あなたもお連れの方と一緒で聞きたいですか?」
「あ、いや、いいです。先に外に出て待っています。」
そもそも占いに興味津々だったのは友人だったわけで、僕はといえば付き添いでついでに来たようなものだった。
--周りをみんな殺すって、、、そんなこと知ってどうするんだろう。てかあいつ、大丈夫なのか。
精神が不安定になることが時々あるのは分かっていたが、あの時の友人の目は怖かった。それは、今までの付き合いでは分からなかった、彼の一面である。
それから、かれこれ30分以上経ったが、友人が占いから戻ってくることはなかった。さすがに心配になったので、外から声をかけてみることにした。
「あの、すいません」
すると、黒いカーテンが開き、占い師が顔を出す。
「ハイ、何でしょう。先ほどのお客様。」
「あの、友人がここで占ってもらっているはずなんですが、彼はどこに?」
占い師は、ため息をついた。
「そんな人はいませんよ。あなたは一人で来てたじゃないですか。」
「え、ど、どういうことですか?」
「先ほど、あなたは本当の自分が知りたいと言ったんです。目に映ったのは、友人ではなく本当のあなたです。」
「え、いや、え、、、」
すぐには納得がいかなかった。しかし、よく考えてみると、その友人の名前が浮かんでこない。顔も。いや、でも、そういえば、あの顔は、あの顔は。
確かにあれは、自分だ。
驚く様子の僕に、占い師は諭すように言った。
「その友人を、あなたはどうしようとしましたか?完全に突き放しましたか。少しでも気にかけていれば、それは大丈夫です。『少しでも』というのは、誰も本当の自分なんて見たくはないんです。だから、少しでいいんです。大丈夫です。」
頭を下げて、僕はその場を離れた。
ビルの隙間を縫って吹く、夜の風は冷たい。でも、別に嫌じゃない。
とりあえずは、大丈夫なのだと思った。