第8話 実現なんてしないだろう?
「エルフの寿命では一年なんてまばたきの間だ」 ってこの前。名もなき なろうエルフが言ってたような気がしないでもないでござる。
ごめんね! 凝ってたら遅れに遅れた!それとは別に関係ないけど! 課題なんて死ねば良いと作者は思うの!
夢というものが嫌いだった。
他人が語ることを聞くのも、それを強制する奴らも、それに載せられる自分自身も同じく嫌悪感を覚えた。
―――勿論。ここで話しているのは毎日瞼の裏に広がる不定形の映像のことを言っているのではない。
『輝かしい未来』と言う意味の夢の話だ。
それらを人はさも高尚なもののように語り上げるが、よくよくそれを見て見るとその残酷さが見えてくる。
例えば、タイムカプセルを埋めたことはあるだろうか? 二十年後の自分への手紙でも良いだろう。もし、昔の君が未来というものを輝かしいものなのだと信じ切っていたのならば―――それらは素晴らしくも残酷なものとなるだろう。
『宇宙飛行士になりたい!』無理だよ。そう言ったはずの君は二十年後に何をしているのだろうか?
なれたのならば素晴らしい 最高の目的を果たした良い人生だ。
違う夢を見つけた。素晴らしい 自分の現実と理想を両立した良い人生だ。
もっと良いものになれた。素晴らしい 自分の過去の理想を悠々と飛び越えた君はきっと最高の気分で人生を終えられる。
だが、
……そんな人生が大量にそこら中にころがっているわけがないだろう?夢見がちな阿呆め。
お前は一秒後の自分が生きていることを保証できるのか?
夢という物は、お前たちが考える以上に残酷で恐ろしい物なんだ。
―――けれど、人は夢を見る。
残酷なものだと知りながら、不確実で不透明のものなのだと知りながら。
それでも、けれど、それを人は望むのだ。
……だからこそ、俺はそんな人間が嫌いなのだ。
何かになりたい。
何かが欲しい。
何か。何か今よりも、今以上のものが欲しい。
そういった人の持つ向上心と言われるものが夢という物の本質なのだろう。
誰だって一度は形作る欲望。夢を持たず、夢を見ない者は存在しない。
今よりも強い自分を。今とは違う誰かの視線を。今とは違う世界を。
それらを妄想し、想像し、創造できると錯覚するのは人間の特権だ。
―――だが、その特権を一度客観視してしまえば、自分のことを棚に上げ見苦しいと感じるのも、また人間の特権だろう。
そして、その一人が俺なのだ。
大抵、夢は実現しない。少し成長してしまえば、自分と他人の違いがわかってきて、自分の限界と世界の広さを知ることで諦めてしまう。
諦めなければ夢は叶うと、偶に妄言吐き共が言うがそいつらが言っているのは例外の天才と言われる奴らや本物の気狂いを神格化しているだけだ。
基本的に人は目先の目的を達成できたとしても、最初の願いと一切変わらない夢を叶えることなど出来ない。
夢は現実により捻じ曲げられ、曲解され、潰される。
その後に残るのは何にもなれない残骸だけだ。
最初の理想などそこにはもう存在しない。
だから、俺は夢が嫌いだ。
夢を語る人間も、それを笑いながら傍観するだけの人間も嫌いだ。
………嫌いになっていた。 はずだった。
「私ね。大人になったら、世界中を見てみたい!この世界の全部を!」
「全部?」
「そう!全部!」
―――けど、あいつの夢はそんなもので潰すには、あまりにも、あまりにも輝いていて、自分の考えと思考が、下知で異常なものだと思い知ってしまった。
そして、こんな世界を綺麗だと笑う彼女の笑顔に背中から怖気が走るのと。
その怖気の正体が無垢な彼女への嫉妬だということに気づいて自分に吐き気を催す。
「昨日、えーっと、本でよんだのよ!
ここから西の国には頭に耳が生えた人が沢山いて、東の国には角の生えた人や空を飛ぶ魚!北に行けばお城よりも大きい火を吹くトカゲがいて!
―――南に行けば泳ぐ野菜が見れるのよ!そんなの死ぬまでに見なきゃ損じゃない!」
「野菜が泳ぐわけ無い。 『ラックの大冒険』の読みすぎ。そこの畑を見て。あれが一度でも湖に飛び込んでいった?」
俺も野菜は泳ぐ泳がない以前に動かないと思う。
彼女は旗色が悪くなったように、顔を歪ませると。数秒思考した後、反転して笑みを見せながら語る。
「う…け、けど。それはここの話!南の野菜は泳ぐかもしれないじゃない! それこそ、マオは南の野菜が泳いでいるのを見たことあるの!?」
「それはないけど…。常識的に考えて野菜が泳ぐわけないじゃない」
「なら一緒に見に行けば良いのよ!」
彼女はそう言って、俺達に笑いかける。
彼女の望みは世界を綺麗に見すぎているのだ。世界は彼女が思っているほど綺麗ではない。素晴らしさだけでは世界とは言えない。
彼女が思わない以上に世界はよっぽど不公平で悲しい物なのだ。 俺はそれを知っている。
―――けれど、彼女は夢を見る。
彼はそんな少女を憐れみながらも羨望の眼差しを送る。
彼女の純粋さはもう彼にはないものだから。 眩しすぎて潰したくなるんだ。
「じゃ、じゃあ、そうよ!私達が大人になって、ここを出て行くでしょ。で、世界を三人で旅するの!そこで美味しいものを食べたり!きれいな景色を見たり!シスターが言ってたダンジョンを攻略したりするの!
それで、私は勇者になって世界を平和にする!」
「…美味しいもの?」
「そうよ。美味しいもの!私達の周りにはない物が世界には、きっと!たっくさんあるの!だから、私はそれを二人と見てみたいし!話してみたい!で、そうなるとしたら世界平和がいっちばん良いと思うの!」
「けど……そうなると勇者になるのが先ってならない?」
「あ……け、けど、みんなで旅に出たいし…んーん。どうしよう?」
そんなふうに彼女は腕を広げて夢を語る。その夢は彼の思い描く願いでは叶えられない。希望に満ちた輝かしい夢だった。
「あ、ジーク!ジークはどう思うの?」
俺は、そうだな。
意識しながら抑えきれない程の感情を抑え込む。 ああ、頼む。頼むから、どうか。どうか。その顔を向けないでくれ。その純粋さを見せないでくれ。
息を吸う。ゆっくり吸って肺の中に限界まで空気を詰め込むと。
自分を抑えて、抑圧して、自制して、思考して。
言葉を喉元から絞り出した。
「良い夢だ。素晴らしいと思うよ」
―――吐き気がするんだよ。その純粋さに。
俺は、笑いながら答えた。
◇◆◇
「で、結局。あのガキ共に雑用を押し付けてきたのか?」
「はい」
「それはおもしろい! …だがな、遅れた理由にはならん。歯を喰いしばれ!」
その言葉が耳に入った瞬間。
言葉が鼓膜を震わせるよりも前に、その耳ごと俺は頭を殴りつけられた。
―――親父にもぶたれたこと無いのに! あ、前世はノーカンで……。
拳がぶつかった瞬間。殴りつけられた痛みとともに、俺の視界は横に半回転し今まで見えていたもの全てが渦巻きにぼやける。
気がつくと、俺は後ろに置いてあった薪の山に頭から突っ込んでいた。
置いてあった薪のいくつかが割れ、その破片が少し目に刺さった。実のところ、殴られた頬よりもそちらのほうが痛い。
「…よし。早く構えろ」
刺さった破片を抜きながら、生理現象で出てくる涙を払い前を向くと。
そこには自分の身長と同じ大きさの槌を振り上げる爺がいた。
このままここに座り込んでいるだけでは、槌を振り下ろされて潰される未来しか見えない。
冷静に現状を把握しよう。
負傷状態。
衝撃で歯が取れたような気がする。口の中でフレッシュな鉄の味が溢れていることから推測するに、実際は歯で口を切っただけだろう。
利用法。
そう思いながら口の中に指を突っ込んで見ると案の定人差し指が赤く染まっていた。
これは目くらましには少し足りない。砂でも投げるか?いや、もう避けたほうが早…―――!
爺はそのように、このあとの展開を思考する時間さえも与えてくれない。
鉄槌が降ってきた。
後コンマ一秒でも考え込んでいたら俺の頭蓋に衝突していたであろう巨大な槌は俺代わりとでも言うように、ただでさえ壊れていた木箱と地面へと、その圧倒的質量の重さを跡としてくっきりと残した。
「ん、どうした?ジーク。少し、反応が遅れたぞ。もう少し気を張れ」
「死にかけたんですけど」
「それがどうした、早く渡した剣を出せ。持っていないわけではなけではなかろう?」
その言葉に少しため息を吐きながら、俺はその言葉に従って手の平から少し前に渡された浅黒い剣を引きずり出す。
体の中から、自分の細胞でもなんでも無い物質が出てくるというのは俺の体に強烈な違和感を与えるが、別に痛みがあるわけでもない。
感覚とすれば、自分の中にある隙間から入れたものを取り出すように考えることか。
何故。俺が体の中から剣を取り出せたのか、また何故仕舞えているのか、どんな裏技でできるんだ?と色々な疑問がわきあがってくると思う。
安心してくれて良い。
―――俺も全然分からない。
この能力は最近夕食の手伝いでじゃがいもの皮を剥いている時。
汚れを取るために水をかけた影響で表面がザラザラとツルツルの中間のようになっていたじゃがいもを不器用ながらも懸命に皮を残さずに剥いていた時。
その表面にじゃがいもを持っていた左手を滑らせて右手に構えた包丁が左手に刺さりかけた時。
体の中に包丁が グニッ っと入った。
包丁が俺の腕を刺したわけではない。
その刃先が肉を裂くよりも先に刃先と同じだけの大きさをした黒い影みたいなものに吸い込まれたのだ。
その時は自分の中に包丁が入ったのだとは思わず、てっきり落としてしまったのだと思い周りを見渡したが、やはりどこにも体の中に入った包丁は綺麗サッパリとまるで神隠しにでもあったかのように無くなっていた。
どれだけ探しても包丁は見つからず、試しに包丁が入った所に出ろと念じてみると何事もなかったかのように手のひらから飛び出してきていた。
試しに包丁以外も色々と入れてみた。
食器、服、本、バスケット、子供、等など周りにあるものを手当たりしだいに入れようとしてみたのだが、子供だけは入らなかった―――そう言えば大人は試していないな。良し。
他にも人間以外で虫や魚、動物なども試してみたがどうやら生き物を収納できないみたいだ。
だが、無機物であれば俺と同じ位までの大きさまでなら体にしまうことが出来る。
この力を使えば何も持たずに登山や太平洋横断も可能だろう。だが、今はまだ俺のへそくりや大事なもの入れ以上の使用はされていない。
因みに名前は【強欲な財布】とファブニルに勝手に決められた。
「やはり、気色が悪いな。その異能」
そんな風に回想で、ぼーっとしていた俺にレギンおじさんは槌を肩に担ぎ直すと話しかけてきた。
…夢中になっていて忘れていたが(回想に)、今は模擬戦の真っ只中である。この間にもう一度攻撃される可能性は十分にあった。
攻撃しなかったのはおじさんの中に残った少しばかりの優しさだろう。次は無いと視線で伝えてくる。
ところで、おじさんが気色悪いと言ったのは、先程俺が説明したよく解らない能力の総称である。
この前、この世界での一般常識として教えてもらった。
この世界では魔術師が使う魔法や聖職者が施行する奇跡でも無い理論化されたものに分類できない埒外に存在する力。
と言っても、そこまで魔法や奇跡などの事を知らない俺が言ったところで実際はどうかはわからない。おじさんも魔法や奇跡と言ったものに詳しいわけではないらしい。
もしかしたら、これも何かの魔法や奇跡の一種なのかもしれない。
―――まあ、考えるだけ無駄か。
「今日は勝ちます」
そう言って自分の考えに無理やり区切りをつけると散漫になってきた思考が目の前の状況に対して纏まりを見せる。
すると自然と少し横になっていた重心に気づき、体の中心に戻す。
力を入れ直すと、外気で冷却された握りの冷たさが手から神経を伝い、脳髄を冷却する。
「まあ、良い。構えたな?じゃあ、続きだ」
瞬間。
先程まで、自分の居た地面に穴ができたのが見えた。
◇◆◇
その男にとって、ソレとの遭遇は衝撃だった。今を停滞する男にとって、今を変革しようとする彼はあまりにも鮮烈過ぎたのだ。
男は大昔。世界に名を轟かせた鍛冶師だった。
どんな粗悪な武器であろうとも男の手にかかれば一瞬で肉を裂く刃となる。
どれだけ潰れた盾であろうとも男の手にかかれば何者をも通さない鉄壁となる。
そして聖剣を作らせれば神をも殺す神剣となる。
そんな名声を国中に響かせるにつれて、遂に男は時の勇者。後に、最優の勇者と呼ばれる者の聖剣も作り上げた。
そして男は、その聖剣によって伝説になった。
王すらも退ける地位も手に入れた。数百年、どれだけ豪勢に使おうとも使い切れないほどの巨万の富も手に入れた。良妻と子どもたちにも恵まれた。
だが、男にはそれらよりも大切な使命が存在した。
男は人知れず国を出た。
王にも、妻子にも、国民にも。誰よりも信頼していたはずの親友にさえも何も語らず国を去ったのだ。……いや、可愛がっていた孫娘にだけ一言と手紙を渡して。
そして、まだ誰にも気づかれていない鉱脈を持った山を発見した。
自分の目的と趣味を充実させることが出来るその山は条件が整った完璧な場所だった。
少し、下に行くと何故か聖神教徒の教会があったが、別に男は種族的に他種族に対して嫌悪感を持つ魔族や竜人族ではない。
子供のことも嫌いではないので偶にそこまで行って包丁を研いだりする代わりに、そこで出来た野菜をもらったりするのは一昼夜鍛冶をし続ける男にとって良い気分転換になった。
けれど、ある日。久しぶりに気分転換がてらに向かおうとした時。
男はソレに出会ったのだ。
―――ソレは素振りで山を揺らしていた。いや、違う。
ソレが山を揺らしていたのではない。山がソレの感情に恐怖し、震えていたのだ。
教会の庭でソレは木片を振るっていた。いや、元々の木片はある程度の体積を持っていたのだろう。
だが、振るうものによって擦り切らてしまい。もうその存在を示す物は、ソレが握り続ける持ち手しか無い。
やがて、気づいたのだろうか。ソレは持ち手だけになった物を投げ捨てた。
―――その瞬間。私は懐にいつも隠し持っている小剣を取り出し、ソレに突き立てていた。
額には汗が流れ、心臓は脈を打つ音が耳障りになる。
そこまで私を焦燥させるほどの威圧感がそこにあったのだ。
けれど、そうして近づいてみれど。やはり違和感しか無いのだ。
子供がいた。
年は一桁程度だろうか。擦り切れた服だけを身に纏った。ただの人間がそこにあった。
何度見ようとも、そこには唯の子供。しかも、男が昔見た孤児院の子供だった。
だが、ソレはその時とは明らかに違うものだった。
目を閉じているのは変わらない。服装も変わらない。
けれど、持っている物が変わっている。
少し山に入れば落ちているような、ちょっとした長さの棒切れが少年自身が持っている物と、その背後にある残骸とが山となって重なっている。
「………お前、何者だ?」
私は気づけば、少年の首に剣をかけたまま、そう聞いていた。
私には不明だった。この者が何故このように剣を振るうのかがわからない。
子供というのはこのように鬼気迫る気配をしていない。出せやしない。子供でこんな殺意にまみれた気配は、それこそ生まれてからずっと戦場にいる少年兵ぐらいしか出せないだろう。
だが、目前にいる奴は動揺もせず、答えもしない。それが余計に私に不安を与える。
気づけば、私はもう一度違う質問をしていた。
「お前は何のためにこれをしている?」
ただの木片を振るうだけでここまでの思いを乗せられるのであれば、何を思ってこの幼子は振るっているのだろうか。
もっと聞くことがあっただろうと思うが、その時の私はそれに乗せられた思いに目が向けられていた。
「―――強くなるため」
簡潔な答えが帰ってきた。
「俺は強くならねばならない。強くなければ、守れない。俺はあの人に助けられたのだから、俺も誰かを助けないといけない」
「誰をだ?」
私は聞き返していた。
強くなり守ることが望みだと語った。目の前の者に対して私は哀れみを感じていた。
あの人というのはわからないが、昔。私の剣を買って行った者達の中にもこんな目をした人間がいた。
―――その目に妙な懐かしさを感じたのだ。
「全てだ。 全てを、俺は。この孤児院も、この国に住むものも、この世界で息づく全ての弱者を。弱きものを守る。 守らなければならない」
私の友と同じ答えをしている。
あの悲劇を迎えた悲しい英雄と。
私は、この子から目を話してはいけないと感じた。
このままでは、この子はどこか致命的なものを抱えて生きてしまう。
「剣は欲しくはないか? お前の力に耐えられる物を」
気づけば、私はそう言って手を差し出していた。
◇◆◇
「まあ、良い。構えたな? じゃあ、続きだ」
そう言いながら私はハンマーを振り下ろす。
昔であれば、避けられたところから振り上げれたのだが、歳のせいか。もうそんなアグレッシブな動きは出来ない。
だが、年だと言ってもこんな簡単に一撃を回避されると少し自信がなくなるな。
「もう少し早く行動しろ。敵ならば待ってくれないぞ」
「はい」
「よし、来い」
返事はなしに、俺が直々に鍛えてやった剣を振るってくる。
だが、少し正直すぎだ。剣閃が分かりやす過ぎる。
これなら少し、剣を触ったやつなら誰でも次の攻撃を予測できるだろう。
事前に肩に担いだハンマーを少し後ろに構えることで重心を右足に傾ける。
斜めからの振り下ろし、そこからの振り上げ。
更に、虚をつくためにジークは先程倒れた場所にあった薪を投げる。
投げ物は良い判断だが、もう少し離れてからだ。そうしなければ回避された時に避けれない。
私は投げられた薪を半身で避けると、一歩あいつの間合いの内側に侵入する。
けど、あいつは投げた体制のままで反応できていない。
「なら、今回はこれで終わりだ」
まだ戦闘の立ち回りができていないな。
そう思いながら、俺は何も持っていない右手拳で腹部を抉るように殴る。
「――ッ、ァガ!」
おお、受け身は取ったか。
少し前に教えたばかりなのに、もうしっかり物にできている。
まあ、これ以上を望むには幼すぎるか‥‥‥。
取り敢えず、今回はこれで終わ…。
そう思いながら倒れているジークに声をかけようとした時。
空気を裂く音と共に剣が私の目の前に飛来した。
投剣だと?
「―――ほう」
とっさに首を横にして避けるも、その剣は私の頬を少しだけ裂いた。
裂かれた皮膚が空気に触れる感覚と、そこから出た濃厚な血液が重力に従い トロリッ、と首筋まで頬を撫でる感覚がどうしようもなく、自分の獲物に力が入った。
だが、意識的にそれを落ち着かせる。
…ああ、これが才能っていう奴か。少し前まで剣を振るだけだったガキが、今ではここまで闘える。
本職ではないが、学園とかに勤めている奴らの気持ちが少しわかった気がする。ここまですぐに形になるのなら人にものを教えるのも、そう悪くない。
まあ、ここまで出来るのはこいつぐらいのものだろうが。
「よくやった。その感覚を忘れるなよ」
私は倒れたままのあいつに近づき、武器を背負ったまま目を合わせる。
そして―――気絶する程度に蹴り飛ばした。
「グホッ、ヘァ!」
もともと吹き飛ばした時にほとんどダウンしていたが、最後のダメ押しで確実に意識を飛ばしたんだろう。
よし。これで今日の修行は終わりだ。
さて。
コレが終わった後には仕事の手伝いでもさせようと思ってたんだがな。
そいつを一瞥すると。
大きな怪我は無いが、着ていた服は土で汚れ、露出していた部位には小さな擦り傷が少し目立つ。が、これといって怪我はない。あるとすれば訓練で消費した体力と蓄積した疲労ぐらいだろう。
まあ、怪我はほとんどさせないようにはしたが、ここまでボロボロになるとは。
こいつの成長を少し見くびっていた。
やってくれた、と思いつつも頬の傷から滴る血を指で拭うとそいつの近くへと足を運ぶ。
まあ、今日は孤児院まで運んでやるか。
「‥‥次は‥勝つ」
そう思いながら首根っこを掴んで背負うと、少しかすれた声でそんな戯言が耳に入ってきた。
「クックク。 ああ、次は勝ってみろ」
あの時。こいつを拾って良かった。
何故か私はそう心の中で思っていた。
◆◇◆
【主ィ? ねぇねぇ。どんな気持ちダァ? 「今日は勝ちます(キリッ)」って言ったくせにィ?ボコボコにやられて?契約使って体動かして不意打ちしてモォ?し か も、動けなくなった体を現在進行系でおんぶにだっこな気分ってどんな気持ちィ?】
孤児院へと帰る道で頭に響き渡るのはそんな気色の混じった声だった。
…だが、そんな明らかに俺を怒らせる気満々の言葉に釣られるような俺ではない。
『良い気分な訳あるかぁ! そっちこそ?昔はすごいドラゴンだかなんだか言ってたけど!冷静に考えたら今のお前ただの俺にひっついてる寄生虫だろうが!惨めさで言ったらお前の方が 断 然! 下ですけどぉ!』
このクソトカゲが! 良く宿主様に向かって舐めた口を聞けたなぁ!?今ここで立場ってものをわからせてやるよぉ!
【言ったらいけないこと言ったな!主!主こそ!吾輩の契約がなければただの貧弱クソ雑魚人間の癖して大口を叩けたなァ!
それに吾輩は『昔はすごいドラゴン』ではない!今もすごいドラゴンなのだぞ!】
『あー、居ますよね。昔の功績を今の自分でも出来ることだと言って現状を理解できない人ー。昔と今を混同しちゃいけませんよ!プププ!』
【何を!まるで吾輩が「高校の頃部活でブイブイ言わせてた若い頃の自分の感覚のまま地域のコミュニティに参加して大怪我をする四十代の専業主婦」みたいな言い方をしおってェ!吾輩ドラゴンだから!加齢とか無いから!
それに吾輩は友に雑用を押し付けるような真似はせんしなァ!】
『何をぅ!』
【そちらこそォ!】
俺とこのクソトカゲの討論は結局仕事をサボった(押し付けたとも言う)罰として友達二人に夕食を8割方差し押さえられるまで続いた。
そんな楽しい日々がこれからも続くものだと。続くはずだと。
まだ続くと。自分を錯覚させていた。
それがただの幻想に過ぎないことを自分は一番理解していたはずなのに。
・夢
誰だって昔は思ったはずだ。なんだって良い。今の状態から抜け出して。自分で何かを作りたい。何かをしたいって。
別に否定なんてしていないよ。
否定するのはいつだって私でなく貴方の役目だ。そうだろう?
・夢見がちな少女
彼女は今を知っていた。けれど、知ってた上で変えようと誓った。
・諦観しがちな少女
彼女は今を知らなかった。けれど、言葉でわかっているを気取ろうとした。
・夢過激派中二病
全身が痛くて眠い。けど、討論しなきゃ(使命感)
・昔はすごいドラゴン
中二病の不幸で今日も飯がうまい。何ならドラゴン要素はもう殆ど残っていない。
・南の野菜
この前泳いでたら、上空に魚を確認して死を覚悟した。
・魚
餌だと思ってなんか泳いでる野菜を狙ったらサブミッションを決められて死を覚悟した。
・でかいトカゲ
なんか変なのが絡まって海に浮いてたから食った。
・おじさん
過去に色々ある人。最近孫への手紙に書くことが増えてホクホク。
・強欲な財布
別にクソトカゲとは関係なしに発現した異能。主人公の体面積分は物が自由自在に入り、体のどこからでも取り出すことが出来る。
・異能
法則化されている魔法でも奇跡でもない。この世で異質となった者と物にどこからか送られる力。原理は誰にもわからないが、もし解明されたのであれば新たな法則を世界に齎すだろう。
・意味深な最後
フラグが立ったってことさ!―――さあ、みんなも『自分の好きなキャラを地獄に叩き込んでそのときの表情でワインを飲む会』に参加しよう!
駄文。
まずは恒例の言い訳タイム。いやぁ、本当にこんなに時間をあけるつもりは決してなかったといえばそんなわけないんですけど! いや、そんなことないです。全然ないです。ただ、少し電子の海の中でアイドルのプロデュースをしたり、ウマの耳を生やした娘っ子を後方から腕を組んで眺めてたり、友達のすすめで音ゲー始めたり(KA●TO最高!)、その友達が昔監禁されかけた話をサラッと聞いて驚愕したり色々忙しくてですねぇ。
というわけで、すみませんでした! それはそうと話は変わりますが、胃カメラを初配信で見せるVとか、キワモノ過ぎるだろ(けど好き)。
皆さんはどうでしょうかね?私は引きました(声が良すぎるだろ)。
じゃあ、また次の話で。




