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10 成人の儀式(1)


 

 「可哀想にフィオレンツァ…。怖かったでしょう?」

 「スカーレット様ぁ」

 「殿下、フィオレンツァは純粋なのです。殿下の薄汚い欲望で汚さないで下さいませ」

 「そこまで言うことなくない?」

 半泣きになったフィオレンツァを慰めつつ、スカーレットはアレクシスを諫めていた。アレクシスはやり過ぎたという自覚があったのだろう、最初こそ神妙に説教されていたが…。

 「フィオレンツァ、もう大丈夫よ。私がしっかりあなたを守りますからね」

 「スカーレット様…、はあぁ、至福…」

 「…」

 「むふふふ…むちプリン…」

 「女公爵…僕の婚約者を誘惑しないでくれない?フィオレンツァがそこまであなたの胸にうずもれる必要はどこにもないよね?」

 「まあ!フィオレンツァにやましい心があると!?」

 えぐえぐと泣いていたはずのフィオレンツァは、いつの間にかスカーレットのむっちりボディを堪能していた。

 「フィオレンツァーー?」

 「はっ!!?…この弾力プリンの魅力につい…!」

 慌ててスカーレットから体を離し、居住まいを正す。

 「し、失礼しました!」

 「構わなくてよ。私の胸でよければいつでも貸すわ」

 「い、いえ…。ブレイク様と決闘しなければならなくなりそうなので、今回限りにします」

 スカーレットは少し残念そうにしていたが、それ以上は何も言わなかった。


 「バーンスタイン夫人から聞いたそうだけれど、アレクシス殿下と式を挙げて、領地に向かうまではこの屋敷で過ごしてもらうわ」

 「はい。お世話になります」

 まだフィオレンツァとの婚約と成人の儀の発表しかされていないが、アレクシスは成人と同時に公爵位を賜り、領地を与えられることが決まっていた。フィオレンツァは王子妃ではなく、公爵夫人になるのだ。

 「領地はブレッシン地方になりそうだ」

 「豊かな良い土地ですね」

 「少し王都からは離れるけれど…」

 「構いませんわ。むしろ実家とは近くなって私は嬉しいです」

 ブレッシン地方は気候が温暖で国内最大の湖を有している。農産も海産も豊富な恵まれた土地だが、王都との道の最中には大きな山脈が横たわっていた。移り住んでしまえば、気軽に王都に足を運ぶのは難しくなるだろう。王都育ちの令嬢であれば難色を示すだろうが、領地経営で父が苦労していたのを見てきたフィオレンツァは、資源が豊富な土地を本気で有難がっている。

 アレクシスは分かってはいたもののほっとしていた。王都から離れた土地を賜ったのは意図してのことだ。兄のユージーン王太子が即位すれば、アレクシスは大公になり、王都に住むことになるだろう。この国では、大公になれば基本的に領地は与えられず、決まった額支給される公費を受け取りながら王都に居を構えることになる。それまでの数年の間だけでも王都の騒がしい喧騒から離れて、二人で心穏やかに過ごしたかった。

 「殿下、鼻の下が伸びておりますわ」

 スカーレットの容赦ない言葉に、アレクシスは唇を引き結ぶのだった。



 それから二ヵ月の間、フィオレンツァはスカーレットに王宮女官としての仕事を引き継いだ。スカーレットは女公爵という立場のまま王宮に入るので、女官とは一線を画す扱いになる。女公爵が王宮に勤めた例はまだないが、おそらくは女官を監修する女官長補佐、ゆくゆくは女官長になるだろう。しかしフィオレンツァのような一般の女官の仕事を把握しておくのは無駄なことではない。

 時には王宮に直接出向きながら引継ぎをこなし、あっという間にその日はやって来た。



 アレクシスとの婚約が発表されてから二ヵ月後。とうとうアレクシスの成人の儀が執り行われる。フィオレンツァも婚約者として参加することになった。

 「まあ素敵。似合っていてよ、フィオレンツァ」

 メイクアップし終わったフィオレンツァの姿に、スカーレットは満足そうに微笑んだ。

 フィオレンツァがまとっているドレスは、アレクシスからの花以外で初めての贈り物だ。形はプリンセスラインの良くあるものだが、色は上から下へ、白から青へと綺麗なグラデーションで染められていた。全体的にシンプルだが、トップの縁は水色の糸で丁寧に刺繍されており、決して貧相な感じはしない。紺青の髪は未婚の女性らしく緩く結われ、そして胸元にはペリドットの宝石があしらわれたネックレスが輝いていた。

 「アレクシス殿下の瞳の色ね」

 「殿下も堂々とプレゼントできるようになったから、随分と張り切ったみたいだ」

 のほほんと会話をするスカーレットとブレイクをよそに、フィオレンツァはかなり緊張していた。豪華なドレスとネックレスに身が竦む思いだ。

 「派手過ぎではないでしょうか?」

 「何言っているの?もう少し豪華でもいいくらいよ」

 「でも…こんなすごいドレスも宝石も着けたことがなくて…姉達にはいつも地味だと言われていましたし」

 「姉って…プライド辺境伯の奥様?」

 「え、ええ。あとは子爵に嫁いだすぐ上の姉も。私の髪がこの色なので、明るい色は似合わないと」

 「あらあら、しっかり締め上げておかなきゃならないわね」

 「はい?」

 「いいえ、何でもないのよ」

 フィオレンツァの紺青の髪は、亡き母からのものだ。五人姉弟の中ではシャノンとフィオレンツァしか受け継いでおらず、あとの姉弟は父方の亜麻色かライトブラウンの髪色だった。

 フィオレンツァは同じ髪色の長姉の手前決して口には出さなかったが、自分の紺青の髪はずっとコンプレックスだった。しかしそんなフィオレンツァを笑い飛ばしたのはブレイクだ。

 「そんなことないよ、フィオレンツァ嬢。それを言うなら、黒髪の僕はもっと地味じゃないか」

 「…あ、そんなつもりは…」

 「僕は明るい服だって似合うだろう?君だってそうさ。大丈夫、今日の君は綺麗だよ。…もちろん、僕の奥さんの次にだけど」

 そう言って、ブレイクは愛しい妻と笑い合う。フィオレンツァもようやく肩の力を抜いた。

 「そうですわね。…ありがとうございます、ブレイク様」



 フィオレンツァたちはテルフォード家の馬車で儀式が行われる教会へと向かった。

 本来ならばアレクシスが迎えに来るべきところだが、さすがに今回の主役が動き回るのは難しかったようだ。寄り添って座るテルフォード夫妻と向かい合って座ると、まもなく馬車が走り出す。するとブレイクが口を開いた。

 「フィオレンツァ嬢、今日の儀式にはクラーラ嬢も来るだろう…彼女はスピネット家の跡取りだからね」

 「は、はい…」

 「僕たちは今夜はずっとあなたのそばにはいられない。十分周囲には気を付けるんだ…護衛から決して離れてはいけないよ。敵はクラーラ嬢だけではないのだから」

 何事もなければいいけどね、とつぶやくブレイク。フィオレンツァとスカーレットも同じことを願わずにはいられなかった。



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[気になる点] 王族じゃなくなる事を発表すればクラークも諦めるのでは?
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