03 公爵家の後継ぎは〇〇の義弟
皆さん、こんにちは。今日も元気なフィオレンツァです。
ところで私の視界がゼロなのはどうしてでしょうか?眩しくて何も見えないのだよ。目が…目がぁ!!
「フィオレンツァ嬢、聞いていらっしゃる?」
「は、はひっ。聞いておりまっしゅ」
光源が残酷なことをおっしゃる。
そうです。今私の目の前にいるのは、セレブオーラという後光を背負っていらっしゃるスカーレット様です。ここまでの経緯ですか?聞きたい?本当に?
今日の授業が終了する。
スカーレット様に呼び止められる。
断る度胸なんてあるわけもなく、フィオレンツァの自室へご案内する。
スカーレット様から突然義理の弟君の素行について相談を受ける。
現在に至る。
以上。
相談窓口を開設した覚えはないのだが…。どうして自分に厄介ごとを持ってくるんだとフィオレンツァは内心頭を抱えた。
「…話をまとめると、義弟のデクスター・ティンバーレイク様がスーザン嬢と親しくなり、彼女の嘘を真に受け、スカーレット様を目の敵にしている、と」
またスーザン嬢である。トラブルある所にスーザンあり。いい加減にしてくれよ、もう。
「デクスターは騙されやすいのよ。スーザン嬢が無垢で大人しい令嬢だと信じているわ」
「無垢も大人しいもスーザン嬢と対極にある形容詞ですね」
「スーザン嬢は、自分の実家が一番爵位が低いから馬鹿にされて、いじめを受けているとデクスターに訴えたんですって。私はあなたやパトリシア嬢を取り巻きにして、スーザン嬢を率先していじめている悪役令嬢なんだそうよ」
「…『あくやくれいじょう』ってなんですか?」
「…さあ?邪悪な令嬢ってことじゃないの?」
「なら『邪悪な令嬢』とか『悪い令嬢』でいいのに」
「もう!フィオレンツァ嬢、呼び方は何でもいいのよ。とにかくデクスターの目を覚ましたいの。でも私が窘めても全然話を聞いてくれないのよ。それどころかスーザン嬢からそのまま聞いた私の『悪行』とやらをさも事実かのように周囲に話して回る有様で…」
「念のため聞きますが、どうして私に相談を?」
「パトリシア嬢から聞いたのよ。あなたのおかげでスーザン嬢に骨抜きにされていたお兄様がまともに戻ったって」
パートーリーシーアー!!
この恨みはらさずおくべきか。適当に脚色した事実を、こんな厄介な人に話すなんてやめてくれ。某市のすぐやる課じゃないんですけど。
「急にそんなことを言われても困ります。パトリシア嬢のお兄様が元に戻ったのだって、私は何もしていません」
「お願いよ、フィオレンツァ嬢。何も義弟に直接会って目を覚まさせてくれなんて言うつもりはないわ。でも機転の利くあなたなら何かいい方法を思いつくんじゃないかと思って」
「そんな無茶な…」
「もともとティンバーレイク家には私と歳の離れた妹しか子供がいなくて、デクスターは後を継ぐために養子になった遠縁の子なの。前は真面目を絵にかいたような子で、私を慕ってくれたし年の離れた妹のことも可愛がってくれたわ。でも第二王子の従者見習いを始めてから様子がおかしくなって…。最近はお小遣いを全部スーザン嬢につぎ込んでいるみたいなの。この間とうとう借金をして、取り立てが屋敷にまで来たわ。父は恥をかいたとかんかんよ。このままだとあの子は廃嫡されてしまうわ。生家では虐待に近いことをされていたみたいだし、さすがにあそこに戻すのはかわいそうで…」
そう言うスカーレット様は本気でデクスターを心配しているようだ…顔、見えないけど。デクスターといい、クィンシーといい、この国の貴族男子は女を見る目がないのだろうか。ここに慈愛というキラキラオーラで発光する女神がいるぞ!…見えないからかな?
「お小遣い…。そういえば、最近スーザン嬢はアクセサリーやドレスがより派手になってますね。てっきりご実家の羽振りが良いからだと」
スーザンが最近やたらと機嫌がいいのはそれか。便利な貢君である。
っていうか、そのお小遣いは、惚れた女に貢ぐためのものじゃない。ティンバーレイク領の領民が汗水たらして働いて納めたお金だ。デクスターはそれで自分の身なりを整え、社交と見識を広げ、領政を勉強して、最終的に民に還元できる知識を得なければいけないはずなのだ。本当に腹が立つ。デクスターも、貴族としての自意識が欠けている。
「お小遣いをカットすればいいじゃないですか。金貸しにも手をまわして、借金ができないようにすればスーザン嬢に貢げなくなりますよ。はい、解決!」
「それは、そうかもしれないけど…。解決になるの?」
「金の切れ目が縁の切れ目と言いますよ。貢げなくなったデクスター様にあのスーザン嬢が優しくするとも思えませんし。スーザン嬢のそういった面を見たデクスター様が、それでも彼女に心酔するようなら、手遅れだから廃嫡でいいのでは?実家に戻すのが忍びないのなら、ティンバーレイク家のお屋敷で働かせればいいだけの話です。そんな甘ちゃん、スカーレット様が鞭でお尻を叩いて教育し直せばいいんです」
スカーレット様がぴしりと固まった。まるで、ぴしゃーーんっ!と頭上に雷が落ちたかのようなリアクションだった。
い、嫌な予感が…。
「あの、…スカーレット様?」
「むち…おしり…」
「そこに反応しないで!!たとえだから!!」
そんなやり取りがあってから、僅か三週間後。
「ごきげんよう、フィオレンツァ嬢」
「ご、ごきげんよう。スカーレット様」
資料室に向かう途中で、スカーレット様に声をかけられた。なんだか眩しさが増しているような…。声から判断するに、とてもご機嫌らしい。
「今日はフィオレンツァ嬢に紹介したい子がいるのよ」
そう言ったスカーレット様の後ろから、一人の青年が一歩前に出てきた。銀髪にセピア色の瞳をしている、結構な美形だ。
「もしかして…」
「ええ、先日相談した、義弟のデクスターよ」
「初めまして、ホワイトリー伯爵令嬢。スカーレットの義弟で、デクスター・ティンバーレイクと申します」
「フィオレンツァ・ホワイトリーでございます。初めまして…」
「先日、あなたの提案を父に話して、実行してもらったの。そうしたら義弟はすぐ正気に戻ってくれたわ」
「え?…その…どっちを…」
「本当にありがとう、義弟は廃嫡されずに済んだわ。第二王子の従者の職は辞して、父の元で鍛え直されることになったの」
「そ、そうですか…。ようございました」
どうやら貢ぐお金がなくなったデクスター様を、スーザンは本当にあっさりと捨てたらしい。あからさま過ぎるけど大丈夫なのだろうか。
それにしてもデクスター様は最初に挨拶したあとは一言も発しようとはしない。上機嫌に話す義姉の横で、直立不動で立っている。するとスカーレット様はすっとグレーの瞳を眇め、扇子でデクスター様の腕をとんとんと叩いた。途端に直立不動から角度45度のお辞儀。
最 敬 礼 ! !
「ホワイトリー伯爵令嬢には、私の不始末でお心を騒がせたと伺っております。今後は心を入れ替え、家のため、領民のために身を尽くす所存です」
「あ、はい…。頑張ってください」
不祥事をやらかして、禊選挙を済ませた政治家の決意表明みたいだ。
っていうか、スカーレット様!とんとんって!扇子でとんとんって!!
かと思えば、今度は扇子で顎をくいっとするスカーレット様。もうフィオレンツァは気絶したくなってきた。
「よくできたわね、デクスター。良い子よ」
「はい、義姉上…」
デクスター様の頬が心なしか赤くなっている。目もとろんとしているし…。
なにこれ。
そっと後ろにいる騎士様方に目配せすれば…。
―――どうか見なかったことに。
目を伏せ首を横に振った彼らは、揃って諦めの表情をしていた。
で き る か !
提案を実行って!
お小遣いカットだけだよね?
アレとアレは実行してないよね?
誰かそうだと言ってくれーーー!!




