四部
想いを打ち明けて初めてを貰った次の日は散々親達にからかわれ、夏望には知ってたの?と少しばかり怒られた。怒る姿はとても可愛いかったので、つい親の前で唇を奪ってやった。するとさらに恥ずかしそうにしているのが可愛くてやはり奪いたくなる。だが、その気持ちは理性で抑えてやった。
その日から決まって親たちは夜の様子を聞いてくるようになったが、特に変わったことはしていない。キスくらいはする。理性を保てるくらい。歯止めが聞かなくなる前に辞めればゆっくり寝られる。一緒に寝始めた頃と違って安心できるのだ。
「……悠真、最近スッキリしてんな?夏望と出来たんか?」
「……お前の思うことまではしてねぇわ。だけどその手前くらいまではかな」
友人で同じ部活仲間の凜空はやたら俺達のことを気にしてくる。
「……凜空、お前このヘタレが最後まですると思うか?」
「……思わないけどさぁ〜。翼、ヘタレは酷いんじゃね笑笑」
吹き出す友人。楽しそうだ。
「おい、ヘタレはねーだろ。なぜ出来ないか教えてやろうか。毎日聞き耳立ててるやつがいるからだ」
「……はぁ!?聞き耳って親か?」
「あぁ。あいつらにとっちゃ、俺よりも夏望のこと娘同然に育ててるからな。俺に取られたくないってのはあるんじゃねーの?」
親たちはやたら俺達両方愛情注いでるが、どちらかというと夏望のほうが大事にされている。毎回の聞き耳たてることも、夏望を心配してのことのようだから。
「……いや、ちげえだろ。親としてはあれだろ、夏望は自分の子供のように育ててるけど一応は他人の子で自分の子である悠真が手を出したりしないか見張ってるってところだろ」
「……確かにそっちの線の方が有効だな。みんなの大事な夏望ちゃんだからな」
「……そうだな。確かにその線は有効。けどそれ聞くと余計俺のものにしたい。俺だけの夏望に」
悠真の欲情は親たちに阻まれてずっと最後までできないままだ。制御できるくらいまではすることは出来て寝ることの問題は解決できた。だが、本当に要求したいことまでは至れてない。
「……独占欲、欲求、、、強いな。てか、さっきから携帯鳴ってる悠真の」
「……あぁ、何?母さんかよ、何の用?学校中に掛けてくるなよ」
『あ、悠真ごめんね!突然なんだけどと言うか前から計画はしてたんだけど。明日から2泊3日でゆきちゃんと旅行なのよ!それでね、旭さんがにその間任せるつもりだったんだけどー、旭さんも明日から1週間出張でいないんだって!』
突然掛かってきた母親の電話。休み時間にかけてくるあたり一応かんがえてるようだが、あと数分しかない。簡潔に話して欲しいが話が長い。
「……で?要するに母さん達は居ないと。悠大達は?」
『それがね!2人にも話したら、今日からその間だけ友達の家で過ごすって!だからあんたとなっちゃんと2人になるわけ!詳しい話は帰ってきてからするわ、じゃ、もう授業でしょ?またね〜』
「……はぁ?!ちょっと待て!!……って切れてるし」
話したいことだけいった母親は終わらそうと交わした声に慌てて大声で、電話に向かって叫んだが時は既に遅し電話は切れていた。
「……一之瀬、授業始まったぞ。うるさいよ、電話しまいなさい」
「……あ、すいません」
叫んだ時にはもう始まっていた授業。先生に言われ慌ててしまった携帯。
授業中も親に言われたことが頭から離れず授業の内容なんで頭に入ってこなかった。終了した後もボーッとその事ばかり考えていて友人に聞かれて無意識にその内容を話してしまっていたことに気がつくのはあとの話。
帰宅後、夏望も含め詳しく聞くと悠大と悠夏はそれぞれもう友人のお家に泊まるようだ。それもそのはず明日から3日ほど連休が続く。そして明日から3日ほど両親は不在になるということだ。ということはだ、夏望と悠真は家に2人っきり。監視が居ない!と悠真の中で喜ぶ気持ちと何考えてんの、と焦る気持ちが混在した。焦る気持ちよりも喜ぶ気持ちが勝ったのは夜いつもの夏望と過ごす時間だった。
「……悠真くん、気になってたんだけど悠真くんの制服のポケットなんか入ってるよ?」
「……ん?……!?あいつら〜!!なんでだよ!いつだ……」
「……どうしたの、なんだった?」
いきなり慌てだした悠真は携帯を開くとどこかへ電話を掛けた。その電話の相手と何やら話、少々顔を赤くし怒鳴っていた。それ故に、何となく電話相手については察しがつく。きっと凜空であろう。翼では無い。怒鳴り散らすように電話を切ると怒ってその入っていたものをポケットにしまい込み夏望の元へ戻ってきた。イライラしているような、少し嬉しそうな。なんとも言えない顔で、夏望とは顔を合わさない。
夏望が様子を伺っていると、携帯が鳴る。夏望の方だ。見れば凜空からである。内容は謝りの文であった。それと同時に「良い週末を♡」なんて文まで添えられて。なんのことか分からないが、とりあえず礼だけ言って悠真に向き直る。
「悠真くん?……悠真くん、」
「…………何だよ」
「悠真くん、ギュッって、して」
顔はそっぽ向いたままに反応を示す。少し甘えるように言ってみると、彼は無言のまま手だけを広げた。その腕に飛び込めばギュッとしてくれた。怒ってる訳では無い。これは少々凜空になにか言われて照れている。
「……悠真くん?どうしたの?凜空くんになんか言われた?」
「……なんで分かった、電話相手が凜空だって」
「悠真くん電話切った後メールきた、ごめんって、怒らせたかもって」
彼女が友人の名前出すだけで少しムカつく。彼女はきっとなんのことか分からないが、ご機嫌斜めになった彼をどうしたら機嫌を直してくれるのかしか考えていていないであろう。
甘えるのはだいたい彼女の方だが、彼もたまには甘えたくなる時だってある。けれど聞いてばかりの彼には甘え方なんてわからない。
「……なぁ、凜空からなんて言われた?」
「「良い週末を♡」だって。これってどういう意味かよくわかんないけど、機嫌直してくれるなら凜空くんの言いたいことに乗ってもいいよ、悠真くんならなんでもいいもん」
「…………ふーん。わかった、明日覚悟しろよ。てことで今日はもう寝ようぜ」
最近恒例になった夜のじゃれ合いもなしに寝ようと言う彼を不思議に思い、いつものようにギュッと抱きつくと彼は応えるように抱き締め返してくれる。だから不思議に思ったことなんてもう忘れて一緒に眠りについた。
朝、彼らが起きていくとちょうど出張に行くという父が出るところであった。
「……行ってらっしゃい」
母親が少し寂しそうに見送っている。幼い子供のような顔をする彼女にそっと微笑んで「行ってくる」と声をかけ出ていった。
「……母さんおはよう」
「…あ、おはよう、なっちゃんと悠真! 母さんも準備しなきゃ、ゆきちゃん迎えに行かなきゃだし!」
明るく振舞ってるが彼女にとって旦那がしばらく居ないと言うことはとても寂しいはず。
あれこれ準備している間に悠真達は自分たちのご飯を用意していると2人を呼ぶ声がした。顔を見せると楽しそうな笑顔で大きな荷物を持ち立っている母親がいた。
「……じゃあ、行ってくるね!2人とも留守番よろしく。……あと、悠真。行き過ぎたことしないようにね?…それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
母親はきっと昨日も聞き耳たてていた。だから彼へ忠告して出ていったのだろう。彼女の方は至って呑気に見送った。…さてここからが2人だけの時間。何しようと見てる人は自分たちだけしか居ない。とりあえずご飯を食べて部屋へ戻った彼ら。
「……夏望」
「……んっ?」
部屋へ戻ったと同時に唇を奪う彼。ちょっと今までとは違う感じに。長く。
「……ぷはっ!? いきなり…な、何?!」
「……言ったろ? 昨日。覚悟しろよって」
その言葉に焦り出す彼女。きっと理解したであろう。恋人同士がやることといったらそれしかないのだから。狼狽え、抵抗する彼女はだんだんと身体の力が抜けていく。
邪魔するものも居ない空間。本当にしたかった要求。彼は彼女への愛で溢れる。求めれば求めるほど溢れてくる。
小さい頃から彼女の隣でずっと彼女を見てきた。とんでもなく我儘だった彼女。自分の思い通りにならなくて泣くわ、先生も呆れるくらい。そんな彼女を唯一止められるのが小さい頃から自分だった。我儘が故に友達のいない彼女の唯一の友人となり、ずっとそばで見守ってきた。そして彼女へ色々教えこみ、今の友人達と巡り会えた。彼女の我儘な言動は友人には言わなくなった。言うのは悠真にだけだということも。それが愛おしい。自分だけに寄せられるその言動、その行動全てが愛おしい。そしてつい甘やかしてしまう。
「……っ……夏望……愛してる」
「……なつみも!……すきっ!」
彼女のたったその「すきっ」の一言で嬉しい。彼女がいるだけでいい。ずっと傍に居て彼女だけ愛して、彼女だけの我儘聞いて。彼にとっての幸せはそれだけだ。なのに決まって邪魔が入る。
鳴り響く携帯。出ないで続けてやろうとするが叶わない。出るまでかけ続けるようだ。
「……はい。」
『あ、悠真〜!なっちゃん見てみて〜!いい所でしょ?!』
よりによってテレビ電話。簡単に服を来た状態の自分たちのことは至って気にしないで景色だけを見せ声だけ聞こえる。あ、いいところだな。ここはどこだろうか。
『見てる?!ここカップルがいっぱいいてさ〜、悠真達も今度2人で来なよ〜!』
「行きたい!」
『でしょ?!なっちゃん来たいみたいだから、悠真、今度連れてきてあげるのよ?!あと他にもこれから行くところもいい所なの、』
電話は切れる様子もなく、察した。この旅行は母親同士の仕組んだ、2人への旅行計画の1つなのだ。きっと新婚旅行…そんな感じなのであろう。呆れる。けど、彼女は楽しそうな顔をしてみている。もうそれだけで彼はどうでも良くなる。彼女をそこに連れて行ってやろう。そう誓う。
それからしばらく夕方になるまでそんなふうな電話はが続いた。途中、切れてまたどちらかからかかってきてそれは続き、という感じに。それでも楽しそうな彼女を見るのが彼は楽しかった。夕方電話の相手の2人もホテルに帰ったようでそこまで紹介してくるかという感じだったが、実はずっと場所をメモしていた悠真。見せてくる場所の全部。気になった夏望に覗かれ慌てて隠した。それに興味津々の彼女に押し倒されるように倒れ込む。そこから始まるラブタイム。それを気にいつの間にか電話は切れて、その後も電話をかけてくることがなかった。
「……悠真くん!連れていってくれるの?!」
「…………あぁ、大人になったらな」
「悠真くん!大好き!」
上に乗る彼女が抱きついてくる。ギュッと抱きしめられ擦り寄ってくる仕草が可愛くて目の前にあった耳にかぶりつく。それがはじまりの合図。
覚悟の週末。果たして2人はどうなったのか。日常へ戻ってみよう。
「悠真ぁー!どうだった?!」
「……お陰様で」
「お?!てことは進展あり?」
週末明け2人は進展があったようだ。
こうして日々成長していく彼女を隣で見守りつづけながら、友人と共にわがままで泣き虫な彼女を守りつづけなが過ごしていくのでした。