一部
登場人物
主人公
名前 藍堂 夏望
ニクネ なつみ、なっちゃん、あいどう
身長 142cm ←成長中?
誕生日 8月24日
性格 泣き虫、寂しがり屋、わがまま、人見知り
夏望の幼なじみ
名前 一之瀬 悠真
ニクネ ゆまくん、ゆま、いちのせ
身長 162cm ←成長中
誕生日 9月7日
性格 面倒みがよく優しい。
一之瀬家の人々
悠真の妹
名前 悠夏
ニクネ ゆうなちゃん、ゆうな
悠真の弟
名前 悠大
ニクネ ゆうだい、ゆうくん、
悠真兄弟の母
亜衣子さん
悠真兄弟の父
旭さん
夏望の母親
名前 藍堂 柚姫子
藍堂は旧姓で、旦那が亡くなった時に娘と共に戸籍を戻した。
旦那の両親は亡くなっている。
性格 とても優しい。でも、厳しい
夏望の母親は事故で身体が不自由になり施設に入所している。
クラスメイト・仲の良い友人
志田 凜空
剛田 翼
大迫 結実花
その他
あの日から夏望世界は一変した。
寝るのも怖くなるくらい毎日 朝になると同じ夢をみてうなされ泣いている。
「……夏望。起きろ」
聞き慣れた優しい声で現実に連れ戻される。その声の主に甘えるように抱きつく。少し落ち着いてからその主に声をかけた。
「悠真くん……おはよう……」
「あぁ、おはよう、夏望」
挨拶と共に彼は落ち着くようにそっと抱き返してくれる。さらに優しく子供をあやすかのように頭を優しく撫でて落ち着かせてくれる。
「今日はどんな夢?」
「……いつもと一緒、お母さんもいなくなっちゃう夢」
「……そっか。でも、大丈夫。夏望のママはちゃんと居るよ。そうだ、今日帰りに会いに行こうか」
彼は優しく声をかけて夢から覚めた彼女からそっと聞きだしてやった。いつも嫌な夢見る彼女を安心させる為に、安心出来ることを毎日している。
「悠真くん、部活じゃないの?」
「いや、今日は無いよ。だから行こう」
「ありがとう、悠真くん」
安心し、落ち着いたところで解放すると下から朝から元気な声が聞こえた。妹や弟の喧嘩する声と母親の怒鳴る声。2人もそっとリビングに降りていくと先程の声が嘘のように穏やかにあいさつされる。
「あら、おはよう。悠真、なっちゃん」
「おはようございます」
「……はよ。悠夏と悠大は朝から何の喧嘩だよ。またくだらねー事か?母さんを朝から怒らすな。」
この家族の温かさが夏望の悲しい暗闇から毎日引き出してくれる。
「……そうだ母さん、柚姫子さんところ行ってくる。」
朝ご飯を食べ学校へ行く準備をしている間に悠真がそう話していた。
「……そう分かったわ。いってらしゃい。」
「…行ってきます。」
挨拶して、差し出された悠真の手をとり仲良く手を繋いで学校へ向かった。周りから見ればカップルに見えるだろうがそんなんではない。
「…… おーい悠真ぁ〜!翼〜!」
「·····どうした凜空」
「なぁ、今日部活ないじゃん? 遊ばねぇ?」
やっと昼休みになったと同時に叫び出した元気いっぱいの凜空は、友人の悠真と翼へ一目散にかけて目を輝かせながら言った。
「あ、いや、ごめん、俺は無理。夏望と朝約束したから」
「……なんだよぉ〜。また先越されてるのか〜! それは邪魔出来ねぇ」
「……え、あの悠真くん、今日じゃなくていいよ……」
友人とのせっかくのお誘いも断ろうとする彼はいつもそうだ。
「いや、夏望。お前行きたいんだろ。だったら行くんだよ」
「……そうだよ、俺らは大丈夫だから行っといでよ。いつものところだろ?」
「……ありがとう凜空くん」
優しい友人達は、いつも誘う時は大概夏望との約束があると断る悠真に対して悪く思うわけでもなく受け入れてくれる。彼らは、夏望の事情も知っている。
「……夏望、よかったね? 凜空達とは私が遊ぶから一之瀬と2人で行っといで。お母さんの所でしょ?」
「! 結実花ちゃん、ありがとう!」
優しい友人達に恵まれている、夏望は感謝をしきれない程良くしてもらっていた。そんな彼女をよく思わないクラスメイトもいるようだが、そんな人達からも彼らが基本的には守ってくれている。
午後の眠たい授業も終わり、友達の誘いを蹴ってまで、朝約束のしてくれた母親の所へ行けると夏望はウキウキだ。
「夏望〜。行くよ」
「うん!」
「凜空、翼、大迫、また明日な!」
友人達と挨拶を交わし、学校を後にした。
手を繋いで通学路とは逆の方向へと歩き学校の様な広い敷地に足を運ぶ。そこからは夏望はコソコソと悠真に隠れるようについて行く。何度も訪れているのに、彼女は人見知りで恥ずかしがっているのだ。
「こんにちは……藍堂です」
「こんにちは、····藍堂さんなら食堂にいたと思うわ」
「ありがとうございます。……ほら夏望行くよ」
施設内に入れば顔は知れ渡っているし、制服姿でよく訪れる2人は印象に残り安く施設内の人は知らない人は居ないであろう。2人が言われた通り食堂へ顔を出すと、職員が直ぐに気が付き呼んでくれた。
「…藍堂さーん! 娘さん来ましたよ」
顔出したのは悠真なのに娘さんというあたりはよくわかっている。
声に振り向き、目が合うとゆっくりこちらへ来てくれる。夏望は母親の姿を見るとさっきまでの隠れようはなんだったのかというくらいの勢いで歩み寄っていく。その目には涙を浮かべながら。
「·····こんにちは、悠真くん。夏望また何かあったの?」
「こんにちは、柚姫子さん。いつものアレです。とくに何も」
「…そう。とりあえず部屋行こうか」
恥ずかしがりな夏望に聞いたところで大勢人がいる場所では答えないことをわかってあえて悠真に聞いた。
抱きついたままの夏望をそっと離し手を繋いで部屋へ向かう為に柚姫子の後をついて行く。
「……夏望。おいで?」
「ママ!」
部屋に入ると同時に、柚姫子が夏望を呼ぶと勢よくまた飛びついた。悠真は近くにある椅子に腰掛けその親子の様子を微笑ましくただ眺めていた。
しばらくして宥められていた彼女から、すやすやと規則正しい寝息が聞こえてくる。
「……悠真くん、いつもありがとうね〜。夏望はどう? 学校でとか·····」
「……うーん。ちょっとわがままとこあるんで、それをよく思わない子とかはいじめようとしてるみたいですけどね。夏望の気がつく前にそう言う人たちは友人が排除してくれてるんで。めちゃくちゃ愛されてます。仲良しの友達には」
寝てしまった夏望を少しだけ母親から離すと、ベットに腰を下ろした柚姫子の膝を枕にさらにスヤスヤと寝ている。
「··········そう。それならよかったわ。悠真くんも愛してくれているでしょう? 」
――もちろん。愛してますよ。むしろ愛しすぎて甘やかしまくるくらいにめちゃくちゃ好きです。友人に夏望との約束だと言っただけで諦めさせてしまうくらい友達も認めるほどに愛してますーー
悠真の心の声はそう思うが、なんだかそこまで親の目の前で告白のようなことを言葉にするのは恥ずかしく、まとめた答えを言った。
「もちろんです。わがままな所とか全部含めて夏望なので」
「·····ふふ。それならよかったわ~」
母親として柚姫子はとても夏望のことを心配している。この先のことや、今現在のこと心配で仕方がない。 彼と彼の家族が優しくしてくれるおかげで安心出来ている。
「いつも思うけどさ、……悠真くんが一緒に寝てくれたら安心するんじゃないの?わざわざここ連れてこないでさ」
「……柚姫子さん、それ本気で言ってます? 例えそうだとしても、俺がもたないんで無理です。寝るまで一緒に居てやって、悪夢から起こしてやるのが限界ですって。襲っちゃいますよ俺」
「あはは。ごめんごめん、悠真くん夏望のことめちゃめちゃ大事にしてくれるならそう言う関係になっても私はいいけどなぁー。でも……ありがとうね」
さて、こんなに甘やかされまくってる夏望とその家族の悲劇で冒頭の“あの日”について話すとしよう。
あの日と言うのは、夏望達が小学生に上がった頃に、起きた事故の事だ。それはかなり悲惨な事故で父親をその事故で亡くしている。
事故の悲劇は悠真もよく知っている。一緒に共働きだった両親の帰りを待つ間、仲良く学童で遊んでいる時だった。突然それは起きた。電話がなり、先生が真っ青な顔で夏望に落ち着いて聞くように言ったんだ。『両親が事故にあった。』と。その後先生の言った話は夏望は聞いていなかったと思う。目には今にも溢れ出しそうなほどに涙を溜めていた。その時は父親は亡くなってしまった話していた。母親は生死の境をさ迷っていると聞いた。その日はひとまず帰る宛てのないので仲の良かった悠真の家へ連れて行ってもらうことになった。その後母親は生還したものの身体に障害が残り、今にいたっている。
障害の状況は幼い夏望を育てられる程のものではなく、自分が生きていくのがやっとだった。そのため夏望を施設に預けることも考えられた。しかし、施設が遠く近くにないこととママっ子で泣き虫、わがままな夏望を母のいる街から離れた地で暮らすことが出来ず、母親同士も仲の良かった悠真の家でそのまま引き取られることになった。
夏望の冒頭の悪夢については、最初生死の境を彷徨う危険な状態だと聞いた事から始まっている。もしかしたら母親もいなくなるかも知れないからはじまり、生還して戻った今でもその事が頭を過り悪夢へと繋がってしまうのだ。
「……いや、柚姫子さん何言ってるんですか……。今はわがままな夏望を甘やかしてしまうことで精一杯なんですよ」
「……ふふふっ。 わがままな原因は悠真くんが甘やかしすぎていることよ?」
「……わかってますよ。けど俺だけじゃないですよ。柚姫子さんも甘やかしてましたよね?」
夏望の甘ったれで、わがままな彼女をこんなふうな性格にさせたのは紛れもなく幼い頃まで育ててた柚姫子であったことは間違えない。それと亡くなってしまった父親。決してその話はしないが。
「……そうだけど。悠真くんが今は夏望に甘すぎるのよ〜。もう少し厳しくしてくれていいのよ?亜衣子ちゃんは厳しく出来なそうだし」
「……無理ですよ。俺、厳しくして悲しい顔する夏望を見ていられないんで。……あ、そろそろ帰りますね、夏望も落ち着いたし、時間も時間ですし」
「ふふふっ。照れちゃって~。……そうよね。亜衣子ちゃんが待ってるわね、ありがとうね·····って夏望起きなさい?」
「……起こさなくて大丈夫ですよ、そのまま連れて帰ります」
長いは出来ないし、少し話したくらいだが夏望ももう安心して寝てしまったので、後にすることにした。ここももう夕飯である。
「……悪いわね、いつも·····」
「大丈夫ですよ。じゃあ、また来ます」
「ありがとう。亜衣子ちゃんによろしくね」
見送られて夏望をおぶったまま施設を後にした。ゆっくり起こさないように歩いて帰宅路に着いた。
「あら、おかえり。 なっちゃん寝ちゃってるのね、手伝って欲しいことあったんだけど……」
「起こすよ·····夏望、起きろ。家ついたぞ」
声をかけると眠い目をこすりながらうっすらと目を開けてボケっとしている。
「·····いや! 眠いの!」
わがまま言うこんな所も可愛くて甘やかしたいところだが、ここは厳しくしてやらないとならない。
「……夏望。だめ、起きて。起きないなら俺もう柚姫子さんとこ一緒に行ってやらねぇぞ」
「嫌だぁ~! 起きるから下ろして」
甘やかしてばかりというわけでもなくたまには厳しくしている。それもほんとこういう時だけだが。
「……なっちゃん、おばさんと一緒に夕飯の準備を手伝ってくれる?」
「……うん! 手伝うよ!」
「ありがとう。悠真は、悠大と悠夏の宿題見てあげてくれる? なんか苦戦してるみたいで、聞いてくるのよ」
お家に帰れば優しい家庭の生活。夏望は血の繋がりは全くないが、既に家族のように暖かく受け入れてくれる。
しばらくして、教え方の上手い悠真に教えられて「わかった!」なんて元気な声が聞こえてきた。その声を耳にしつつ亜衣子さんとともに夕飯の準備に取り掛かった。
「……なっちゃん、ママに会えてすぐまた寝ちゃったんだね?」
「うん……」
「……今度は私もゆきちゃんところ一緒に行こうかなー?」
仲良しの亜衣子さんはそんなこと言って少し元気がない夏望を勇気づける為にそんなふうに言ってくれていた。
「……あ、ダメダメ。ちゃんと丁寧に切って。もう!柚姫子にほんと似て雑なんだから!」
「ごめんなさいー」
「……そんなんじゃ、悠真のお嫁にはまだまだいけないね〜」
亜衣子さんはたまには冗談半分でからかってくることもしばしば。こんなふうに自分の息子の名前を出しては楽しんでいるようだ。
「あ、こら! 危ないよ! 包丁置く時はこんな置き方するなんておしえてないよ!」
「ご、ごめんなさい! ……こうです!」
「そうね。ちゃんと置きましょう。危ないからね」
柚姫子は出来なそうだと言っていたが、亜衣子は自分の子供と同じように夏望を叱ってくれるし、厳しくしてくれる。