シズク
実のところ、ヤイノはテッドの舟が地上に着陸していると思っていた。だから、舟を天空岩の淵に行って、見てみようと思っていたのだ。
ところが、テッドの舟は天空岩にドッキングするように停泊していた。ヤイノは興奮して仕方がなかった。
「手伝います。下から押すから登って下さい」
リューオスは鉄柵をつかみ登ろうとする。そのお尻をヤイノは下から押し上げる。
そうして鉄柵の上まで来たはいいが、五メートル下に降りるのは勇気が入った。
リューオスは意を決し、鉄柵の上から地面へと飛び降りる。
足が痛いリューオスの隣にヤイノは降りた。
この時、リューオスはつくづく翼があるっていいなと思った。
* * *
リューオスはテッドの舟ではなく、その手前にある建物へと走った。
茶色くて岩影に同化するのように建てられた建物で、鉄柵の向こうから見えない建物だった。
ヤイノは初めて見る宇宙船の方が気にはなっていたが、一人で行く勇気はなくリューオスの後ろをついて来た。
建物の入り口に手のひらをかざすと、扉はすーっと横開きに開いた。
リューオスはその建物の入り方をなんとなく覚えていた。
中に入るとそこは広いホールのようになっていた。壁際に階段が三つあって、リューオスはその一つを駆け上がる。
そこは壁に沿ってついてる渡り廊下で、ヤイノは飛んでリューオスの後ろをついて行った。
リューオスがたどり着いた扉を開けると、そこはまた廊下だ。
走っていたリューオスだが、廊下の二つ目の扉の前で止まった。
リューオスの記憶が確かなら、そこにあの栗色の髪の少女がいるはずだ。
その子の名前は……
* * *
「シズク」
リューオスは扉をノックする。
いきなり扉を開けるのはためらいがあった。
返事がないのでリューオスは扉を開けた。
そこにファニィが一体。部屋の掃除をしていたようだ。リューオスが扉を開けたタイミングで部屋から出て行った。
部屋の中はテーブルと椅子があって、その奥にベッドがある。
ベッドに近づくとそこに少女が眠っていた。