飛び立つ
タツキは、シムの顔も見ないで飛び立った。
タツキは翼のある竜人の少年だ。
タツキは天に浮かぶ自分の故郷――天空岩を目指していた。
その顔はいつしか、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
やがて、天空岩が見えた頃、タツキの涙をふいた。いつまでも泣いてられない。
下から見る天空岩はごつごつしていた。
上に住んでいた時は、イメージとしてお盆のような形状の上にいるような気がしていたが、角度を変えて下から見るといかにも『岩』という形だった。
タツキは岩肌に触ってみた。
ちょうどつかめるところがあったので、そこをつかんだ。
右手で岩をつかみ、ちょうど左足を乗せれる場所があった。
なんとか、右足を乗せれる岩場を見つけ、そのまま登ろうと思っていた。
本当なら岩をよじ登るより飛んだ方がラクなのだが、飛び疲れたというのもある。
水平方向に長い距離をに飛ぶよりも上に向かって高く飛ぶ方が疲れるんだな、とタツキは思った。
登る前に、岩にしがみついて小休止。
息を大きく吸い込む。
地上にくらべ、空気がきれいなことに気づいた。
火山が盛んなためか、地上では火山灰やススみたいなものが空気中に混ざっていた。
それに慣れきっていたが、こうやって天空岩にくればこんなにも空気が違うのがと驚いていた。
ふと地上の方に目をやる。
竜の大地の居住区ははるか小さかった。
――シムは笑顔で自分を見送ったのだろうか? それとも泣きながら……? どうして最後にシムの方を振り返らなかったのだろう?
そう思うと、また泣きそう……
「やば…い」
タツキは鼻をすすりながら、左手で上のほうの岩をつかむ。
岩肌を登るつもりだったが、登るという行為は想像以上に難しかった。
登るのはあきらめてここでもう少し休もう。回復したらまたはばたいて上に行こうと思った。