氷のように
ポルグ村の端っこの高い崖にたった一人で彼は居た。
彼はまだ気付いていないようだ、
ルークさんとはもう何年も会っていなかった。
いつ見ても、強くて美しく凛々しかった、
白く雪のような髪はゆらゆらと冬風で揺れる。
風で右腕の無い袖が揺れて、何故か僕の心を締め付けた。
「誰か.....居るのか?」
ルークさんは振り返った、
両目には黒い布が巻き当てられて、
いつもの氷のように美しい瞳は見る事は出来なかった。
「ヴァイスか...分かるよ」
「分かるんですか?」
「あぁ......」
僕の瞳は間もなく熱くなり、脈はトクントクンと早くなった。
気付けばルークさんの腕の中に居た。
「よく生きてたな....」
ルークさんは優しく僕の頬に手を当てて微笑んだ
手は冷たく、細く、ボロボロだ。
「強くなるんだ...僕も手伝うから」
鼻水を垂らしながら頷いた、
泣いてばかりだ、
失ってばかりだ、
でももうそれは終わりにしたい。
僕はしばらくこの村でグレイと修行する事になった。
立派で強い騎士になるために、
ルークさんは僕らを見守ってくれた。
両目は無いのに分かるそうだ、
修行中何度も倒れそうになったが
それと同じ回数分“あの出来事”を思い出す。
ポルグ村の崖の上から遠くに見える大きな海はいつも僕を応援するように、 キラキラと光り輝く。
テトラの瞳のようだ、
そんな事を鮮明に思い出す。
剣は慣れてきた頃に騎士達が僕と実戦練習をしてくれた。
みんな僕が父さんの息子だと知って緊張していた、
僕は父さんのようにはなれない。
グレイの方が剣術は上だ、
グレイの剣術は素早く、剣技スキルを持つ、
5連撃技アサルトクロウ。
その一方で僕は何も剣技スキルなど覚えていない
まだ足りないこんな物では駄目だ。
また暗黒騎士には滑稽だと笑われる、
頭の中であの時を思い出し唇を強く噛んだ。
こんな力では何も救えない、
僕は親近感を持って修行を繰り返す。
夜はグレイと何度も流れ星を見ては語り合った。
「あぁー今日も死にそー......」
「いいや、まだまだ足り無いさ」
すぐにグレイには返されてしまった、
その通りだ、こんなものでは騎士になるなど夢のまた夢である。