敗北者の刃
どれだけ走って来たか、
もう覚えてはいない。
重い剣が僕の心を揺さぶる、
涙はもう枯れていた、自分の弱さに絶望感を覚える。
僕は憎んだ、自分と魔物と暗黒騎士を。
そんな僕の心とは裏腹に緑の平原は美しく、見惚れてしまいそうだ。
朝日が木々を照らして、ほんの少し残った雪達を溶かした。
雪なんて降ってたか.....?。
そのまま僕も一緒に何もかも忘れて溶けてしまいたい。
「ウギィィ!」
唸り声が僕の目を覚ました、
振り返ると先に、
“ゴブリン”が短剣を構えてヨダレを垂らしながら僕を睨んでいる。
僕は不慣れに腰にある騎士の直剣を抜いた。
剣を握るとき、
今もまだ脳裏に焼き付いているテトラの顔を思い出す。
負けてはいけない、
強くなるそれが今僕のすべき事。
当然、左腕はまだポックリと折れたままだ
残り僅かな体力を振り絞って僕はゴブリンに向かって剣を振り下ろした。
「ブォンッ!!」
敗北者の刃など届くはずも無く、
僕はゴブリンに攻撃をかわされた。
空気を斬っただけの刃はそのまま僕の身体ごと地面に到達する。
右腕しか使えない今、この鋼鉄の重さを制御する事など不可能に近い。
ゴブリンは短剣を簡単に僕の腹部に突き刺した。
「うぁぁぁぁぁぁ!!!」
咄嗟に僕は騎士の剣など放り投げて傷口を抑えた、
枯れたはずの涙が、痛みのおかげで溢れ出てきた
それと連なるように腹部から出る鮮血は止まる気配は無い。
痛み.....恐怖.....。
また僕は敗北者となるのだろう、
いいや次は死者だろうか?
ゴブリンは地面に横たわっている僕に短剣を突き立てた。
「サッ!!!」
風の如く現れた同年くらいの少年が双剣をゴブリンの首に突き刺す
「ウギャャャャャァ!!!」
淡い色の髪をした少年はそのままゴブリンを絶命させる、あれだけ重い剣を両手に持ち軽そうに扱っていた。
手慣れたように双剣を鞘に収めて、
僕に駆け寄ってきた。
意識はグラっと朦朧としていた。
「君...は....?」
気付けばもう瞼は閉じていた、
死んでいただろう“あの少年”が助けに来なければ、
また僕は負けたのだ。