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第二章 アンロック-脅迫屋チーム結成前夜- Chap.7

追跡アプリを頼りに、目黒と千川がたどり着いたのは大久保駅近くだった。車は目黒が運転した。

「移動中だ」

 マップを見ながら千川がいう。一方通行の住宅街に入る。

「次の角を右」

 右折して数分、路肩に停まった車が目に飛び込んだ。助手席のドアが開け放たれている。

 目黒はその後方に車を停める。飛び降りて前方の車をチェックした千川は、助手席からバッグを取り出してみせる。

「ユヅキのだ」

 その時、悲鳴が聞こえた。くすんだ午前中の空の下で、一瞬響いてすぐ消える、ユヅキの悲鳴だった。

 目黒と千川は同時に駆けだす。すぐ近くに無人と思しき倉庫があった。悲鳴はその建物内から聞こえていた。

「ユヅキ!」

千川が叫ぶと、「来るな」という男の声が答えた。磯辺だ。ドアを千川が少しだけ開く。束の間、内部が見えた。磯辺がユヅキの首にロープをかけている。千川は小声だがはっきりとした口調でいった。

「裏から回れ。チャンスを俺が作る。頼む」

 目黒はなぜかその言葉を疑うことはなかった。

「了解」

 建物を回り込む。建物後部のドアに手をかけた。鍵がかかっている。目黒はピッキングツールを取り出した。

「磯辺さん、何してんの」

 建物の中から千川の声がした。

「来ないでよ~、脅迫屋の出番じゃないんだからさ!」

 磯辺の興奮した声が響き、「千川さん」という震えたユヅキの声がする。

「今からユヅキちゃんを殺すんだから。見ないでよ」

「磯辺さん。落ち着きなよ。何があった?」

 千川が冷静な声音でいう。

 目黒は鍵穴にツールを通す。慎重にシリンダーの中で、噛みあう上下のピンを浮かす。スプリングが重い。だが力を入れすぎてはいけない。「俺はもう、ヤバいんだって」

 磯辺の声がした。

「もしかして、麻宮を殺したのは」

「俺だけどさ!」

 磯辺の泣いているのか笑っているのかわからない声が答える。ユヅキのすすり泣く声が続く。

「なぜ? 聞いたぞ。磯辺さん、自分で麻宮にユヅキの動画を消させていたんだろ? だったらトラブルは解決していたはずだ。なんで俺に依頼なんてした?」

「麻宮の背後にはヤバいやくざがいた。あいつらはユヅキちゃんを何か理由があって狙ってる。だから千川さんに依頼したけど、やっぱ怖くなってさ、結局自分で殺しちゃった。やられる前にさ」

 ハハハハ、と磯辺が調子外れなトーンで笑う。

「バレなきゃ平気だと思ってたよ~。けど、俺は襲われた。ユヅキちゃんが見つかるまで何度でも来るって脅された……。つーかさ、やくざだけじゃない。ゆうべ俺の家に警察が来たんだ、警察が。俺を探しに」

 防犯カメラに映っていた男は磯辺だった。解析が済んだのだ、と目黒は察する。指先に神経を集中させる。全てのピンが動く手ごたえを感じる。

「でも、なんでユヅキを殺す話になるんだ?」

 穏やかに千川が訊ねた。同時に、鍵が開く。ゆっくりと目黒はドアノブを回す。

「考えりゃわかるでしょ。ユヅキちゃんがこの世からいなくなればやくざは俺んとこに来ない。俺が麻宮を殺す動機も、わからなくなる」

 磯辺の論理は破綻しているが、本人は自覚できていない。ユヅキの絞り出す声が響く。

「店長……私のこと……守るっていってくれたじゃ……好きって……」

 ドアを後ろ手に閉め、目黒は絶望感に打たれる。ユヅキがやけに磯辺を気にかけていたこと、連絡を取りたがっていたことを思い出す。二人は店長とバイトの関係ではなかったのだ。

「好きだよ、ユヅキちゃん。でも俺のことも守ってくれよ。俺は君のために人を殺したんだ。今度はユヅキちゃんが死んで、俺を助けてよ」

 物陰から磯辺の顔が見えた。鼻は昨日よりも腫れあがっていた。目の下には隈ができており、目が血走っている。尋常な精神状態ではなくなっている。ロープが絞めつけられ、ユヅキが苦悶の声を上げた。千川が叫ぶ。

「俺が丸く収めるよ。脅迫屋として!」

「黙れ黙れ黙れ! ユヅキのこと隠してたくせに! 舐めやがって」

「誤解だよ、俺は」

 目黒は壁に沿ってすばやく走る。

 ロープがさらに絞めつけられる。

「俺はユヅキちゃんを守っただけなのに!」

 直線距離に立った目黒と目を合わせてから、千川が磯辺を見据えた。口調が変わる。

「守った? 道具にしてきただけだろ?」

「なんだって?」

 磯辺が怒鳴り返すが、千川は冷徹に続けた。

「今この瞬間もおまえは彼女を、自己欲求を満たす道具にしてる。磯辺、今からおまえを脅迫する。とっとと自分の幼稚でキモい性癖を認めてユヅキを離せ。そうしたら、見逃してやる」

 磯辺が怒りの形相で叫んだ。千川に対し挑みかかる姿勢を取ったと同時に、ロープが緩む。目黒は飛び出した。真横から磯辺の負傷している鼻を殴りつける。絶叫が倉庫内に響いた。磯辺の首を掴んで投げ倒す。引き離したユヅキの身を胸に抱えた。距離を詰めた千川が起き上がった磯辺を組み伏せる。

「畜生! 脅迫屋ぁ」磯辺が怒鳴った。「道具にされてるのはおまえだって同じだろうが!」

 千川は奪ったロープを磯辺の口に容赦なく噛ませ、縛った。

「ユヅキちゃん、大丈夫?」

 千川が問う。ユヅキは泣き腫らした目で、呆然としていた。子猫のように体は震えている。目黒はその頭に手を添えた。

「帰ろう。栃乙女が待っている」


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