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第二章 アンロック-脅迫屋チーム結成前夜- Chap.3

「おかえりなさい、千川さん」

 のほほんとした口調でユヅキが会釈をする。やせぎすで、セミロングの髪は黒い。そして耳が大きい。……萬田に似ている。

「初めまして。ええと、千川さんの友達?」

 首を傾げられる。

「俺の依頼人、栃乙女さんとユヅキさんだ。ユヅキってのは店での名前だけど」

 千川の声でハッとし、ユヅキから目を逸らす。

「こいつは協力者の目黒。マグロじゃないぞ、目黒だぞ」

 千川の言葉に「うわぁ」と栃乙女が引いた声を出す。目黒はため息交じりに訊ねる。

「行方不明じゃなかったのか。説明しろ」

「この二人が俺の依頼人だ。ま、座れよ」

「うちの部屋なんだけど!」

 ぞろぞろと四人でソファに座る。

「改めていう。麻宮のスマホを出せ」

 千川がいった。逡巡したが、目黒はいわれた通りにした。スマホを見て、ユヅキが身をこわばらせた。栃乙女がその背をさする。千川は二人に向け静かにいう。

「依頼の半分は達成した。麻宮から動画を奪うこと。ロックはかかっているだろうが、端末ごとぶっ壊してしまえばいい」

「麻宮って奴は死んだんでしょ? じゃあもう心配いらないよね?」

 栃乙女がいうと、千川は首を横に振った。

「しばらくここを出るな。今不用意に外に出ると、麻宮殺しの容疑者にされる可能性がある」

「なんでそうなるの?」

 栃乙女が叫ぶ。千川はスマホを指さした。

「麻宮が動画のコピーを残していないとも限らないからさ」

「……動画が警察とかに見られたら」沈黙していたユヅキが口を開いていた。「私が脅されて、殺したっていう、話になるからですね」

「その通り」

「無茶苦茶じゃん! ユヅキちゃんは被害者なのに」

 憤慨する栃乙女の口に、千川はポテトチップスを咥えさせた。

「辛抱しなさい食いしん坊。もしも動画のコピーが存在しているなら消去する。あるいは、真犯人が捕まれば問題ない」

「動画のコピーの存在が確かめられず、真犯人も捕まらなかったら?」

 目黒は口を出した。

「どちらかは必ず達成する。俺もプロなんで。達成するため、あんたを連れてきた」

 千川の声には自信が溢れていた。が、目の光は暗い。

「だれにも連絡とかしない方がいいですか?」

 ユヅキが訊きにくそうに質問する。

「極力」と千川は答えた。

それから目黒は千川と打ち合わせをした。終わると無意識に煙草を取り出していた。

「うち禁煙。吸うならベランダ」

 栃乙女に手を叩かれ、ため息と共にベランダへ向かう。

 アメリカンスピリットが三分の二の長さになった頃、ユヅキがベランダに下りてきた。ロング丈のパーカーにショートパンツというラフな服装で、細い脚がひょろりと伸びている。目黒をためらいがちに見上げる。

「目黒さん、すいません。私のせいで、働かせちゃって。どうかよろしくお願いします」

 深々と頭を下げる。目黒は千川の仲間だと思われている。

「律儀だな。俺も千川も、まともな人間じゃない。気にするな」

 ユヅキは首を横に激しく振った。

「まともじゃないのは私ですから。無理やりでも、麻宮さんに従っちゃったから」

 自嘲的ではありながら、悲壮な響きのない口調だった。だが児童福祉法、児童買春禁止法を犯した加害者は麻宮だ。

「磯辺店長にも迷惑かけてるし、早く復帰したいんですけど」

 目黒は瞬きし、ユヅキの反対方向に煙を吐く。

「ぴーちぽっぷはやめないのか?」

「やめないです」

 ユヅキはきっぱり答えた。

「自分でやるって決めたのに、逃げたらダメだと思うんで」

「ひどい目にあったのに?」

「麻宮さんに当たっちゃったのは運が悪かったけど、自分の身を守れなかったのって、私の自己責任ですから」

「男と一対一になって、自分を守れると?」

「お客さん、いい人多いですよ」客を庇うような熱を込めてユヅキはいった。「手をつなぐとかぐらいなら、私なんかでよければって思うじゃないですか。あと、磯辺店長や千川さんも守ってくれるから。栃乙女ちゃんもすっごいやさしくて、千川さんのことも探してくれたし」

 紡がれる言葉に、嘘や虚勢は感じられなかった。バイトそのものには、ユヅキは不安を感じていない。トラブルに巻き込まれれば自衛が上手くいかなかった、と落ち込むだけだ。将来に及ぶ危険性も、磯辺や千川がグレーゾーンの人間であるという重みも、理解していない。

「他にもバイトはあるはずだ」

「稼ぎが全然違いますよ。店長も優しいし」

 ユヅキは笑った。

「お母さんが心配するんじゃないか」

 目黒の言葉にユヅキの表情が陰った。

「お金貯めて自立して、ママを楽にさせたいんです。ちっちゃい弟もいて大変なんで、うち。お父さんは家族なんかどうでもいい人だから」

 煙草を深く吸った。

「本当、私、人に迷惑かけてばっか。こんなはずじゃなかったのになぁ」

 ゆっくり煙を吐き、ユヅキに向き直る。

「事件は俺と千川で片づける。今は、余計なことは考えなくていい」

 ユヅキは瞬きをして、頷いた。

「ちょっと目黒川、ユヅキちゃんいじめてないよね?」

 栃乙女がぬっと現れた。

「俺は川ではない」

「はぁ? 目黒っていったら目黒川じゃん。千川とコンビっぽくなるし」

 ユヅキがクスクス笑って、室内に戻った。続こうとする栃乙女を呼び止める。

「ユヅキを助けるのになぜ脅迫屋を選んだ?」

 栃乙女がつかの間、ひどく冷めた目になった。

「うちらみたいなのの頼みを聞いてくれるのは、まともじゃない人だけでしょ?」

 まともな人間は見向きもしないといいたげだった。

「ユヅキちゃんはうちと違って頭もいいし、めっちゃいい子なの。こんな目に遭うような子じゃないんだから」

 そういって室内に戻る。千川が菓子を食べているのを見てパンチをした。

 目黒は彼らに見えないように携帯を取り出した。目黒の依頼人からのメールが届いていた。


 翌日の早朝。依頼人――福住日那子は公園の噴水前で待っていた。

「昨日は失礼しました」

「先にすっぽかしたのは私です。一昨日は夫が早くに帰ってきてしまって。すみません」

 高校生の娘を持つようには見えない、若さと美貌は健在だ。だが、以前会った時よりもやつれ、顔には疲労を滲ませていた。

「手短に状況を話します」

 目黒は麻宮からスマートフォンを奪ったが脅迫屋に絡まれたこと、麻宮殺しの調査を続けることを伝えた。

「満美は?」

 日那子は訊ねた。

「無事です。匿っています」

 ユヅキは店での名前。本名は、福住満美。日那子は母親だ。

「旦那に怪しまれますか?」

 目黒の問いに、日那子は皮肉な笑みを浮かべた。

「あの人は気づきもしないでしょう。今、ちょうど忙しいみたいだから」

「そうですか」目黒は少し躊躇したが、続けた。「満美さんは、耳が、あいつに似ている」

 日那子が口を閉じ、心を閉じるように無表情になった。

「あなたを楽にしたいらしい」

 日那子は静かに息を吸って吐いた。目黒はことさら発言を後悔はしなかった。

「……脅迫屋という男は信頼できるの?」

「満美さんは信頼している」

 再び皮肉な笑みを日那子は浮かべたが、今度は哀しみの色が強かった。目黒は足早に噴水を離れた。


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