酒場で情報収集...と思ったのだが。
これまで小説を書いたことはないので、技術等々はこれから磨いていこうと思います。応援していただければありがたいです。
「...お兄さん!お兄さん!よかった。起きたみたいだ。ほら!しっかり!」
「お兄さんとは俺のことか?そういう歳でもないのだがな...」
そういって、俺はゆっくりと上半身を起こした。
「何いってんだい。そりゃあたしに対する皮肉かい?ほら、水だよ。飲みな。」
そういって恰幅の良い中年の女性は、俺に陶器のコップを手渡した。
「ありがとう。礼を言う。」
渡された水は常温で、ぬるかったが、飲むと意識がさっぱりとした。
俺は石造りの家屋の一室のベッドの上で寝ていたようだ。目の前にいる中年女性の住居だろうか。
「ここはどこだろうか?」
「ここはマスールの町さ。お兄さん随分体格がいいね?運ぶのが大変だったんだから。あたしはお兄さんが町の外でぶっ倒れてたのを、主人と協力してここまで運んだのさ。お兄さんあれかい?武闘大会に出場するためにこの町に来たのかい?」
「武闘大会?」
「なんだい。知らないのかい。今この町には、鉄仮面をつけた謎の人物が武闘大会を開催するってんで、ほうぼうから腕自慢が集まってんのさ。なんでも、優勝したら300万ゴールド貰えるとかなんとか....お兄さんもその口かと思ったけど、違うのかい?」
ほう。武闘大会か。300万ゴールドがどの程度の価値か知らないが、参加してみる価値はありそうだ。
「それは知らなかったが、参加してみることにする。武闘大会というのはいつ開催されるのだろうか?」
「明後日だね。それまではウチに泊まっていきなよ!あんた加護持ちだろ?優勝だって狙えるんじゃないかい?」
「申し出はありがたいが、なにぶん俺は、今一文無しでな...」
「お金は優勝してくれたらでいいさ!あたしは絶対いけると思うよ!加護持ちなんだろ?」
神に加護持ちは希少だということを聞いたな。...ん?
「どうしてそのことを?」
「見りゃわかるじゃないか。ほら、右手の甲。」
「右手?」
俺の右手の甲から手首のあたりにかけて、怪しげな紋様のタトゥーのようなものが刻まれていた。なるほど。これが加護持ちの証か。
ああ、そういえば。と中年女性
「言い忘れてたね。あたしの名前はマリア。ここは主人とあたしが経営している宿屋さ。今はただで泊めてやってるんだから、優勝した時は、その分よろしく頼んだよ!」
そういってマリアは快活そうに笑った。商魂たくましいものだな...どこの世界でも商売人というのは。
「ああ。すまない。礼を言う。優勝できる保証はないがな。」
「そんときはウチで皿洗いでもしてもらおうかねぇ。じゃ、あたしは仕事があるから。明後日まで時間があるから、ゆっくりくつろぎなよ。これは部屋の鍵だよ。出かける時は戸締りをしっかりね。」
そういってマリアは部屋を出ていった。
俺は部屋の中を観察した。
壁は白く塗られていて、部屋にはベッドと洋服ダンスと、小さなテーブルと、あとはちょっとした小物類が置かれていた。この宿は高台にあるようで窓からは町(確かマスールといったか)が見渡せ、遠くには海が見えた。
この街並みは....どこかで見たことがあるな...かつて世界大会の際訪れた、イタリアの海辺の町にそっくりだ。と言うことは、緯度や地形などの地理的な条件が似ているのか?
とりあえず街を見て回ることにしよう。
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宿から一歩外に出ると、随分と賑やかな通りに出た。どうやらこの宿は人通りの多い場所に立地してあるらしい。
俺が泊まっていた宿は赤い屋根で白い外壁の、石造りの平屋だった。
通りには様々な姿をした大勢の人(には到底見えないものも山ほどいたが)が行き交ったいた。
熊のような姿をした、ゆうに2mを超える獣人。トカゲのようなもの。ほとんど人間と同じ姿をしているものの、耳が獣のようなものになっている者。服装などもバラバラ。共通点は同じ言語を話していることぐらいだろうか。
とりあえず情報を集めることとするか....
街を散策していると酒場らしき店舗が見つかった。
ここで話を聞くとするか......
店に一歩踏み入ると、町中よりもさらに大きくざわめいていた。それなりの大きさがある酒場のようだ。
「ラッシャイ!空いてる席に適当に座ってくれ!」
店員らしき男が威勢良く俺に言った。
店内は盛況で、なかなか空席が見当たらなかったが、店内をウロウロしていると猫と人間のあいの子のような人物(?)が、俺を手招きした。俺はその誘いに応じて、相席させてもらうことにした。
「お兄さん。強そうだね。武闘大会に出るのかにゃ?」
「ああ。そのつもりだ。」
二、三言、俺とその獣人が会話を交わすと、店員がやってきて注文を聞いてきた。
「僕はとりあえずエールで。お兄さんはどうする?」
「ああ、俺はまだ決めてないんだ。あとでまた言う。」
へい。わかりやしたーっ!と言って店員は厨房の方に下がっていった。
俺は周囲の人間に聞かれないよう、ひっそりとした声で獣人に言った。
「実は...俺は今一文無しなんだ。この町に関することや、武闘大会についての情報を得るため、ここに来たのだが....」
「あっきれたにゃあ!普通お金も持たずに酒場に来る?」
「面目無い。」
「まあでもお兄さん。運が良かったにゃあ。ほらあそこ。ご覧よ。」
獣人が指差す方を見ると、大男たちが腕相撲に興じているようだった。
「あれに混じってきて、勝てば酒代を奢ってもらえるにゃ。お兄さんやってみる?」
「負けたらどうなるんだ?」
「そりゃ、逆に奢るしかないにゃあ。」
「俺は一文無しなんだぞ。」
「そんなこと知ったこっちゃないにゃあ。そうなったら自分でなんとかするにゃあ。で、どうする?」
「まぁ。いいだろう。物は試しだ。」
「ああ待つにゃあ。それ、隠していきなよ。君、加護持ちでしょ?」
そういって獣人は二本の細い布を俺に手渡した。
「ここは血の気の多い輩もたくさんいるし、あんまり目立たないほうが得策かもにゃあ。」
「ああ。ありがとう。しかしなぜ二本も?」
「右手だけ隠してたら違和感バリバリだにゃあ。左手にもまくにゃあ。」
「言われてみればそうだな....」
俺は手渡された布を、バンデージを巻く要領で、両手に巻きつけた。
「一本500ゴールドで、しめて1000ゴールドだにゃあ」
「なっ!....」
「冗談だにゃあ。健闘を祈るにゃあ。」
「ああ。」
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俺は、盛り上がっている、いかめしい面をした男たちの間をかいくぐって行った。
ちょうど決着がついたようだ。
「すげえ!またゲイルが勝ちやがった!無敗記録更新だ!」
男たちから、うおーー!!!!と、どよめきが広がる。
「はは!ごっそさん!」
「くそ!また負けた!かみさんに叱られちまう!
「悪く思うなよ!これも勝負だからな!」
はっはっは!と今高笑いをしている男がゲイルだろうか。
なんともまあやかましい。俺が何か喋ろうとしても声がかき消されてしまう。あまり大声を出すのは得意ではないが、しかたあるまい。
「すまない!次は俺と相手してもらえないだろうか!」
今度は聞こえたらしく、周囲のボルテージはさらに上がった。
「いいぞ兄ちゃん!いい体してるな!もしかしたらゲイルにも勝てるかもな!」
「いや、流石に分が悪いんじゃないか?なんたってゲイルはゴブリンのハーフだからな!人間の腕力じゃ太刀打ちできねえよ!」
「ようし!なら俺はバンデージ巻いてる兄ちゃんに800ゴールドだ!」
「なら俺はゲイルに1000ゴールドだぜ!」
「俺もゲイルに賭けるぜ!」
賭けが始まったようだが、どうやらゲイル人気が圧倒的なようだ。かなりのツワモノらしい。
「ほう兄ちゃん!見ない顔だな!わざわざ俺に酒をご馳走しに来てくれたのか!」
とゲイルが自信たっぷりに言った。
「生憎俺は持ち合わせがなくてな。必ず勝たせてもらうぞ。」
「いい度胸してるじゃねえか!負けたらどうするんだ?まぁいい。やろうぜ兄ちゃん。」
そう言ってゲイルは右腕の肘をテーブルにつけ、臨戦態勢に入った。
「ああ。」
俺も肘をついて、ゲイルの手をしっかりと握った。
「こいつは見ものだな!審判は俺がやるぜ!」
そう言って、半裸で痩せぎすの、髭を生やした男が進み出てきた。
男は、堅く握り合った俺たちの手に右手をかぶせた。
「それじゃあいいかぁ?...」
周囲は一瞬にして静まり返った。
「はじめっ!」
そう言った瞬間に、ゲイルは表情をこわばらせ、あらん限りの力を込めた....のか?
ゲイルの表情は必至だが、全くこちらに力が伝わってこない。
丸太のように太い腕にはこれまた太い血管が走っている。ゲイルは顔に汗を書き始めているようだった。
「ふんっ!!!なんだっ!うごかねぇ!!」
周囲が徐々にざわめき出す。
「...一体どうなってやがる?」
「兄ちゃん、何か仕掛けでもつかってるのか?」
観客は、どうやら何が起こっているかわからず、戸惑っているようだ。俺だって何が起こっているかわからない。
「ふんっ!」
俺は軽く力を込めた。
「ぬ、ぬあぁぁ!!!!!」
するとゲイルは大声をあげて、猛烈な勢いで酒場の床に叩きつけられた。
衝撃でテーブルの上に置いてあったものは吹き飛び、テーブルの一部はは破壊された。ゲイルはうずくまって右腕を抑えている。
「や、やりやがったぜ!新顔の兄ちゃんの勝ちだ!」
「くそう!持ってけ俺の1000ゴールド!」
再び酒場は活況を呈した。喜びの声をあげるもの。ちくしょー!と悔しそうな声をあげるもの、また、騒がしくなった。
先ほどまで、自分たちの席で飲んでいたものたちが、何事かと、俺たちの周囲に集まってきた。
さらに騒がしさは増してくる。まずい、これでは目立ってしまう。
「あちゃあ、派手にやったにゃあ。とりあえずここから抜け出すにゃあ。さあ行くにゃあ。」
そう言って獣人は俺の左腕を掴んで引っ張った。
「待ってくれ。ゲイルとかいう男、どうやら怪我をしたよう何だが。」
「んー?どれどれ?」
そう言って獣人はゲイルの側にかがみこんだ。
「うう...いてえ...」
ゲイルは肘のあたりを抑えて、苦悶の表情を浮かべ、唸り声をあげている。
「これならまぁ、大丈夫にゃあ。」
獣人はゲイルに手をかざした。
するとゲイルは淡い光に包まれ、ゲイルの表情は楽になった。
「ん...?痛くねぇ?兄...ちゃんか姉ちゃんか知らんが、ありがとな。」
「礼ならいいにゃ。じゃあねー。」
そう言って、獣人はゲイルに手を振り、俺とともに酒場を抜け出した。
「兄ちゃん、名前はなんていうにゃ。僕はノールっていうにゃ。」
「俺の名はリュウイチだ。しかし困ったな。情報収集をするつもりだったのだが。」
「情報なら僕が教えてあげるにゃ。リュウイチは旅のものだにゃ?とりあえず宿に僕を連れてくにゃ。」
「ああ。ついてきてくれ。」
そうして、俺たちは、どよめきが冷めない酒場を後にし、俺が寝泊まりしている宿に向かった。