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プロローグ

「むうっ...!」


熱いっ!...腹のあたりがまるで炎に焼かれるように熱い。


「きゃ、きゃーーーー!!!!!!!!!」


若い女性の金切り声が傷口にしみる。助けてやってるのだからもう少し静かにしてくれぬものか.....


「かはっ!....」


長く武道家として生きてきたが、ここまで大量の血を吐くのは初めてだな....


視界が白んでいく.....どうやら野次馬が集まってきたようだ....だんだん周囲がざわめいてきた...


「ひぃ!違うんだ!俺はそんなつもりじゃ...!」


俺を刺した男の顔が青ざめてゆく。


先ほど、道端でこの女性と男は別れ話をしていた際に、激昂した男が懐からナイフを取り出し、(どうしてそんなものを持っていたのだろうか....)女性に襲い掛かったのだ。


日課のロードワークをこなしていた際、偶然その現場に出くわしたので、女性を庇って男の前に立ちはだかったのだが....


「俺もここまでか....」


空々しく響くパトカーの音や野次馬たちの発する声。それらはどこか現実味がなかったが、薄れゆく意識の中で、女性の叫び声だけがはっきりと響いていた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ん.....」


ここはどこだろう。


なにもない空間に俺は横たわっていた。見えていたのはどこまでも広がっているようにも見えた真っ白な空間だった。


何度か手と足の指をを閉じたり開いたりした。ちゃんと手足に力が入る。俺は死ななかったのか?


「いいえ?あなたはちゃんと死にましたよ?」


突如俺の視界に長い銀髪の少女が現れた。


その少女は得意げな顔で俺の顔を覗き込んでいる。


「大丈夫ですかー?リュウイチさん?」


少女はそう言って、俺の頬を二、三度ペシペシと軽く叩いた。


俺が上半身をゆっくりと起こすと、その銀髪の少女はなにもない空間には不釣り合いなほど、豪奢な作りの大きな椅子(いや、玉座という方がふさわしいかもしれない)に座って足を組み、なにやら本のようなものをパラパラとめくって眺めていた。



「あ、リュウイチさん。ちょっと待っててくださいね。楽にしていても構いませんよ。」


そう言われたので俺は安座を組み、少女が次になにをいうか、待っていた。


あ、あったあったと少女はつぶやき、こう続けた。



「あなたの名前はカノウリュウイチさん。武道一家に生まれ、幼い頃から柔道漬けの日々を送っていたが、なかなか芽がでなかった。ところが高校生の頃、突然才能が開花し、一挙に世界チャンピオンにまで上り詰め、歴史上最強の武道家と呼ばれるようになった。その圧倒的な強さは衰えを知らず、むしろ強さを増しているともっぱらの評判だったが、あることをきっかけに突然の引退。以降は道場を開き、後進の育成に努めた。ある日、日課のロードワークをこなしていたところ、別れ話を彼女から切り出され、激昂し、女性に斬りかかったところをかばい、刺されて死亡した。あってますか?」


「ああ。そうだ。お嬢さん。随分と俺について詳しいな。ファンなのか?」


「いいえー。ファンだなんてそんな。」


そう言って少女はクスクスと笑った。


「単刀直入に言いますと、私はあなた方の世界を創った神です。リュウイチさんが望むのなら、別の世界に転生させてあげましょう。ということです。」



「ほう?」


訝しげな表情を作り、俺は少女を見つめた。


「あなたはあること、が起こり引退したのちに、人道的行いや、慈善活動に努め、最期は身を呈して女性を守り、命を散らしました。だから、ご褒美としてあなたを別の世界に蘇らせてあげます。いやぁ、いいことってするもんですね。」



神は大げさなほどニコニコと笑みを浮かべている。



「その様子だと、あのことについても詳しく知っているみたいだな。それでもか?」



神はなにも言わず、表情も崩さない。



「リュウイチさん。どうしますか?まだ、やり残したことがあるんでしょう?願ったり叶ったりではないですか?」


「本当に、なんでも知っているんだな。ああ。俺は生前に自分に課した使命がまだ果たせていないまま死んだ。そしてその使命を果たすには、置かれている場所は関係ない。それが異世界であったとしても、問題はない。だから、是非とも頼む。」



「そういうと思っていました!なんと今ならですね!おまけもつけちゃいます!リュウイチさんが生まれ変わる予定の世界では、いわゆる魔法というものが広く使われています。強力な魔法が使えればそれだけ生きていくのに有利です!

リュウイチさんには、特別な魔法が使えるよう、神々の加護を一つ与えましょう。その世界では加護持ちというのは稀少性が高く、重宝されるんですよ!しかもその加護の中でも最上級の、私の側近である神々の加護を与えましょう!流石に私の加護は強力すぎるのでダメですけど.....」


そう言って神は持っている本のページをくり、俺に手渡した。



「その中から選んでください。あ、他のページを見ちゃダメですよ。最悪あなたの存在が消滅しますからね。」



なんて物騒なもの渡すのだ....



俺はさっと見開きのページに目を通した。確かにこれは強力そうだ。ふむふむ...



色々見比べてみる。なるほど、どれも魅力的だ。確かにこれらの加護を手に入れることができれば、大いなる力が得られるだろう。だが.....



「決めたぞ。」



「あら、随分早かったですね。」



「ああ。一目見て決めた。俺はこれにする。」



俺はその加護について書かれてある部分を指差し、神に示した。



「大方の予想はついていましたけど、やはりそれを選びましたか。いいでしょう。では早速ですが」



神がそういって俺に手をかざすと俺の体は光に包まれた。



「もう一つサービスで、あなたの肉体は全盛期のあなたのものにしてあげますよ。思う存分力を振るってください。」


「ああ。礼を言う。」



体が震えてきた。怯えではない。武者震いだ。俺の念願を果たすチャンスが与えられたのだ。是が非でも成し遂げてみせる。



身体中に力がみなぎってくる。この感覚はいつぶりだろうか。年甲斐もなく、ワクワクが込み上げてきた。



俺の視界は白い光で埋め尽くされた。



そうして、俺は異世界に旅立っていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「創造神様。」


闇の神がそう言うと、創造神の周りをとりかこむようにして、側近の神々が虚空から現れた。


「いいのですか?あのような強大な力を与えて。それに、ご褒美だなんて言う嘘までついて....」


闇の神はそう続けた。


「良いのです。あのものは邪悪なものではありません。あの力を善きことに発揮してくれることでしょう。もし乱心を起こせば、私手ずから、消滅させますので安心してください。それと」



創造神はこほんと咳払いをした。



「嘘だなんてとんでもない。あのものは善く生きました。それなりの対価を与えても良いのではないでしょうか。」


「まぁ、それだけでないのも確かですけど。」


そう言うと、創造神は凍てつくような冷たい微笑みを浮かべた。



周りを取り囲んでいた神々は一瞬体を硬直させた。神ともあろう存在が、言い知れぬ恐怖を放つ存在に畏怖した。


創造神は武の神の方を見ていった。


「くれぐれも、あの者を頼みましたよ。」


言い口は柔らかかったものの、発せられる不可視の圧力が武の神の精神を圧迫した。


「はっ!....」



武の神は創造神を前に、跪くほかできなかった。

















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