「ある事件」
腐ったような臭いが、その部屋には充満していた。
「先生、またですよ」
床に流れ出た血液は完全に乾き、薄っすらと埃が被っている。
「また、だなぁ」
部屋の中央に置かれた椅子に座る人物は、来訪者を微笑で迎えた。
「何がしたいんでしょうね、犯人は」
微笑をたたえた顔は、首の中頃で切り取られ、その人物のヒザの上に置かれていた。
「さあねぇ……これで何件目だっけ」
切断面は、まっすぐで、もともと取り外しできるかのように綺麗だった。
「13件目、いや、〈発見されたのは〉13件目です」
ゴシックなドレスをまとい、流れるような銀髪も、綺麗に整えられた少女の死体。
「この埃の積もり方からして、この子はずいぶん長いこと此処にいたようだ」
まるで人形のように、美しいままに、死んでいる少女。
「時期的には半年くらい……3件目くらいでしょうか?」
一切腐ることなく、乾くこともない、少女の死体。
「だろうね。見つかってる中では、だけど」
いや、死体ではない。少なくとも、法律上は。
「〈連続ロボット誘拐殺害事件〉か。誘拐に殺害、ねぇ……」
少女は、限りなく〈人間〉に近い、自動人形――ロボットである。
「先生はやっぱり〈殺人事件〉とは思いませんか?」
実際、世間でもこの事件については、様々な意見が飛び交っている。
「〈命〉の定義をどう考えるかは、人や状況にも依るからねぇ。でも、まあ」
被害者は、ロボットの少女達。そして、
「なくして悲しむものがいるのは、変わらないさ」
彼女達の〈家族〉である。