「隣にいる君たち」
いわゆる「ロボット」が人権を獲得し、幾世紀か経つ。
人類のコミュニケーションの変化とそれに伴う人口減少が後押しし、いまや「世界人口」の4割はロボットだ。
繁殖は人工的に行われ、生産は機械的に行われ、都市部に限ってみれば、人間と人間が直接会うことすら稀な世界。
人のパートナーは、ロボットだ。
遺伝子レベルで、完全に適合するようデザインされ、学習し、常に最適化されるロボット。
幼き頃は親として、大人になれば伴侶として、老いて旅立つときまでも共にある。
人間が愛を分け合う、すべての対象がロボット。
「というような世界です」
「ふーん」
ここはどこかの街の、どこかの家の、寝室。ベッドの上で、胡坐をかいた幼女と、正座をした女性が向かい合う。
「ふーんって、聞いてました?」
「聞いてたけどさーぁ……もう聞き飽きて逆に忘れた感じやわ」
真面目そうなおかっぱで眼鏡の女性が、ロボット。だるそうに爪をいじってる天然パーマの幼女が、人間。2人は、パートナーである。
「パートナーなのに、何で2人とも女なん?」
「それはあなたが遺伝子レベルで女を求めてるからですが?」
百合である。肉欲よりも、友情を最優先に考えてるタイプである。女同士の。
「まぁええわ。そんなことより、また昔のアニメ見せてんかぁ」
「えぇ……なんか、草創期のアニメを見せだしてから、結構な悪影響を与えてるような気がするんで、嫌なんですけど……」
変な関西訛りも、アニメの影響である。ホルモン屋の少女リスペクトである。
「まぁまぁ、見とる間ひざまくらしたるさかい。イケズせんとってぇなぁ」
「しょーがありませんねぇえ! ほら、早く!」
ポンポンと自分のヒザを叩くロボット。めっちゃ嬉しそうである。ニッコニコしてる。
そして、アーカイブからデータを引き出し、ひざまくらした少女が見やすい位置の壁に映し出す。
ロボットが幼女の頭を優しくなでながら、しばらくアニメの音声だけが部屋に流れる。
「……なぁ、ウチにも、オトンとかオカンって、おるんか?」
「そうですねぇ……遺伝子上の親は存在しますね。バンクに登録されてる、過去200年のどこかには」
「ふーん」
「ふーんって――」
「ま、ウチにはここにちゃんと家族おるし。なぁ?」
「~~~~~っ!」
「ちょ、ちょぉヤメてんか! ワシャワシャされたら見られへんやん!」
「あらあら、ふふふっ。見おわったら、おやつにしましょうねぇ♪」
「ぬぅぅ……あ、ウチ、ホルモン焼き食べたい!」
「いや、おやつにホルモン焼きて。おっさんの酒のつまみか」
「誰がおっさんや」
そして2人で笑いあい、仲良くアニメの続きを見た。おやつに食べたホルモン焼きは、思いのほか美味しかったという。
遠い未来に、あるかもしれない、2人の話。