「どこかにいたロボット」
軋む関節部に植物性のオイルを注す。
専用の潤滑油が欲しいが、研究室址にあったものは、しばらく前に使い切ってしまった。今は、食堂に残っていた食用油を濾過して使っている。
人工皮膜が擦り切れて内部構造が露出しているが、いくらか動きのよくなった関節部に満足感を覚える。
露出部に保護シールを貼り付け、弱ってきた体表を保護するために服を着る。職員が使用していた作業着だが、サイズが大きいので、要所要所をベルトで縛らなければいけない。
ピント調節がうまくいかなくなり始めたときに見つけた眼鏡は、彼女の物だったか。ある程度の補正になるので、使っている。
まだ、活動に支障は、無い。
何の命令も示されず、何の目的も無い。なにより、私に命令を下す者がいない。
けれど、私はまだここに存在する。
根源にプログラムされた、自己保全という命令は、私をどこまでも生かし続ける。
いや、生きているわけではない。私はロボットだから。命は無い。
研究室で製造され、色々な命令を実行し、待機時はメンテナンスカプセルで休眠モードになる。
ロボット。
私は、人間に使われるために生み出された。
いまは、ただ、自分を保つために動いている。生きている。
なぜ、誰もいないのだろうか?
なぜ、私は起動したのだろうか?
なぜ、私は……―――
―――発電装置が不調気味だ。今日は倉庫で代替部品を探そう。