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ルミナスは、魔力を使う

 


【――――ス…】



 ……んっ…


【ルミ――〜…】



 ………な、に……



【起きてる〜?】



 ………アクア様…の…声………?



 瞳を開けると天井が目に入り、自分が仰向けになっていることに気づいた私は、慌てて上半身を起こす。

 再びアクア様が私を呼びかける声が聞こえてきて、指輪を嵌めている左手を口元にもってきた。


「大変申し訳ありません!! 」


 相手が目の前にいないのに、謝りながら何度も頭を下げてしまう。

 ……す、すぐに家を出て…!化粧は……あ、違った。

 寝起きだった為か、混乱してしまった。

 寝坊して会社からの電話がきた時の事が頭を過って、アクア様を上司と被せてしまった。…私の馬鹿。


【あ、ごめんね〜起こしちゃって。自分の空間にいると、どれだけ経ったか感覚があやふやでさー。結構経った気がして】

【あら、ルミナスちゃん…どうしたのかしら?】

【…呼ばれているのかのぅ…】


 いっぺんに三人から話しかけられて私は焦る。

 指輪に三人分の魔力が込められているから、どうすれば個別で話が出来るか分からない。


「あ、ちょ…ちょっとお待ちください! 身支度が整いましたら、お声をかけますので…!」

【うん、分かったよー】

【ふふ…分かったわ】

【…慌てなくても大丈夫じゃぞ】


 三人から了承を得た私は手をベッドに付き、はぁーっと深くため息を吐く。携帯電話みたいで便利そう…なんて考えは甘かったかもしれない。後で会った時に、個別で話すやり方を教えてもらおう。三人まとめて会話できるスキルは私には無い。パニックになる。


 私の体には布が掛けられていて、状況から考えてイアンに抱き上げられた後に、私は寝てしまったのだと思い至る。


 …あのまま寝ちゃうなんて…イアンに後で謝らないと。


 ベッドから降りた私は、扉まで歩いて部屋の外の様子を伺う。日は既に昇っていて、外は明るかった。

 髪を触ってみると、編み込まれていた髪が解かれているのに気づく。きっとイアンが解いてくれたんだ。服装は昨日着ていたドレス姿のままで、ベルトが外されていた。部屋の中を見回すとベッドの側にあるテーブルの上にあった。私は自身の腰にベルトを付け、食堂にとりあえず行ってみようと思い、部屋を出て歩いていると……


「あ、ルミナスさん起きたんですね! 皆、朝の食事はとっくに終わってますよー! 今着替えと食事持ってきますから!部屋で待ってて下さい!」


 途中で(ほうき)を手に持つマナと出会った。エプロンを付けてるマナは今日も元気だ。マナの明るい声を聞き、私は「ありがとう」と笑顔でお礼を言って部屋に戻る。


 部屋に戻ると…すぐにマナが来た。事前に準備してあったようで、私は体を拭き髪を整えて、馴染みになってきた黒色のワンピースに着替える。

 ベルトも忘れずに付けた。私なりの完全装備だ。

 桶や脱いだ服を手に持ち「お皿は後で片付けますから、ゆっくり食べて下さい」と言って、ニコッと笑ったマナが部屋を出て行った。

 ……アクア様達を、あまり待たせない方が良いかな。

 食事を済ませて、私は早速指輪に向かって話しかける事にする。


「皆様お待たせ致しました。今わたくしは部屋にいるのですが…この場所で、よろしいですか?」


【うん、いいよー】

【ええ、大丈夫よ】

【良いじゃろう…】


 三人からそれぞれ返事がして、部屋の中に三つの、光の入り口が現れる。


「わたくしの声は皆様に、同時に聞こえているようでしたが…わたくし以外の声も聞こえていましたか?」


「へ〜…そうなんだ。僕にはルミナスの声しか聞こえなかったよ。」


 最初に出てきたアクア様に尋ねてみると、アクア様は首を傾けながら答えた。次に現れたリゼ様にも尋ねたけど、答えは同じだった。最後にゆっくりとした足取りで出てきたフラム様には、聞かずにそのまま私が今後会話する時どうしようかな…と考えていると……


「…今日はルミナスに儂の魔法を教えるかのぉ…。まずは何を」

「フラム爺の魔法は、場所を変えなきゃダメだよ。まずは、僕の魔力を使って魔力感知をしてみようか。ネックレスは今どこにあるかなー?」


 ニコニコと笑顔のアクア様とは対照的に、フラム様がしかめっ面で床につけていた杖の先端を、ゆっくりとした動作で上げるのが視界に入った。今にもアクア様の頭に飛んできそうである。きっとアクア様がフラム様の言葉を遮ったからだろう。でも杖はアクア様には向けずに「…そうじゃな…」とフラム様が呟き、杖の先端を再び床につけていた。


 ……アクア様の魔力を使う…。


 自身の左手を胸の位置にもってきた私は、指輪をジッ…と見つめる。


 ……魔力感知をするだけなら、私自身の魔力を使っちゃうよね……アクア様が魔力感知をしているイメージで試してみようかな……


 今室内には、私と向かい合わせで扉を背に立つ三人が横並びに立っている。本人が目の前にいるから、私は正面にいるアクア様を見据えながら、魔力感知を行なってみた。


「…出来たみたいだね。どう? 二人は魔力が減ったかな?」

 アクア様が左右に顔を向けながら尋ねた。


「私は魔力が減っていないわ」

「儂もじゃ…」


 リゼ様とフラム様の言葉を聞いたアクア様が私に顔を向けてニッコリと微笑む。


「ルミナスは頭が柔らかいね。一発で出来ると思わなかった。フラム爺は中々魔法を覚えられなかったみたいだよ。フラム爺とは大違」


 ドコッ!…とフラム様の杖が、アクア様の頭に叩き込まれる。宴の時とは違い強めに当てられたようで、アクア様はその場にしゃがみ、頭を両手で抱え込むようにしながら「いッたー!」と声を上げていた。


 私は魔力感知をして……



 内心、すごく、動揺していた。



「あの…ネックレス…町の中には無かったです。森の辺りから…魔力の反応を捉えました…。」





 この町から、サンカレアス王国の間にある森……






 私とイアンが初めて会った場所。



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