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ルミナスは、まったりする

 指輪に付いた宝石を、私はジッ…と見つめる。三人の魔力の色は混ざることはなく、自身の色を主張するように、それぞれが光を帯びていた。


「……あ、あのっ! こ、これっ…」

「ふふ…落ち着いてルミナスちゃん、まず座りましょう。」


 アクア様達にお礼を言おうとして、顔を横に向けたけど…興奮していた私に、隣に座るリゼ様から声をかけられ、イアンと私は椅子に腰を下ろす。


「アクア様、フラム様、リゼ様…ありがとうございます。」

 背筋を伸ばして、私は三人にお礼を言って頭を下げた。


「この指輪は…水晶を使って作られたのですか?」

「そうだよ〜。リゼが提案してきたんだ。」


 アクア様がリゼ様に視線を向けながら、私の質問に答えてくれた。


 ……あの場に残ったのは、指輪を作るためだったんだ。魔法で作ったのかな?…私が受け取って本当に良いのだろうか。


 贈り物をもらえて素直に嬉しい。けど…もう魔力を抑えるわけではないのに何故…そう疑問に思った私は隣に顔を向けて「ありがとうございます、リゼ様…。でも…何故わたくしに?」と尋ねた。

 リゼ様は優しげな表情をしていて「あなたに力を貸したくなったのよ」と答えて、薄く笑みを浮かべた。


「守りと癒しの魔法…あなたは、私達が教えなくても独自で様々な魔法を行使していたわ。」


 リゼ様の言葉にギクリとする。私は魔法を行使する際、前世の知識にあるものを頭に浮かべている。瞬間移動やバリアーが正にそうだ。リゼ様達からすれば、すぐに魔法を使えてる私に、疑念を抱いたのかもしれない。


「アクアも魔法を覚えるのは早かったみたいだけど、ルミナスちゃんはアクア以上の才能があるのね。」


 口元に手を当て、ふふ…っと笑うリゼ様に、私はホッとする。どうして?と聞かれたら、想像力が豊かなんです!と答えるつもりだったけど…


「魔法は人間にとって魅力的な力よ。特にルミナスちゃんの魔法は…欲深い人間にとって、喉から手が出るほどの力だわ。ルミナスちゃんが魔法を行使すれば、周りや自分の身を守れると思うけど……」


 リゼ様は言葉を切り、私に手招きしてきたのでリゼ様に顔を近づける。


「これからは、自分の魔力を使わない方が良いわ。魔法を行使する時は、私達の魔力を使いなさい。あなたは…まだ人間かもしれないのよ? イアン君を好きなのでしょう? 」


 私の耳元で、囁くような声でリゼ様が話すけど……

 リゼ様! イアンに絶対聞こえてますよ!

 猫の聴覚を甘くみてませんか!?

 私はリゼ様から離れ、黙ったままニコリと微笑む。

 佇まいを直した私は、横目でイアンの様子を伺ってみた。イアンは私とは反対の方に、顔を横に向けてるけど…頭の耳がピクピクと動いている。


「…儂等は、暫く外に出てるのぉ…。ルミナスに魔法の手ほどきをしてやらんとな…」


 ゴトっ…と何かが倒れる音が鳴り、隣のテーブルを見ると陛下がコップを倒していた。フラム様の言葉を聞いて動揺したのだろう。もしかしたら今頭の中で、部屋をどうするかとか、色々と考えてるのかもしれない。


「ルミナスなら、すぐに僕達の魔法を使えるようになるよ。フラム爺はルミナスと一緒にいたいだけでしょ〜?」


 アクア様がからかうような口調で話、フラム様に無言のまま杖で頭を叩かれていた。はははっ…と頭を抑えながら笑うアクア様を見て私もつられて、くすりと笑ってしまう。


「失礼致します。…ルミナス嬢、少し良いかな?」

「?…はい」


 陛下が私達のテーブルまで来て尋ねた。「こちらに来てほしい」と言われた私は立ち上がり、広場の方に顔を向けると……

 テーブルが設置されている場所の近くに、広場にいる内の数十人の民達が、ズラリと横並びになって立っている事に私は目を丸くする。


「この者達は各村の村長で、広場にいるのは村長と、その家族だけを集めていたのだ。」


 村長達と向かい合うように、私と陛下が横並びに立つと…一斉に「助けていただき、ありがとうございます!」と声を揃えて頭を下げてきた。

「皆さんが無事でなによりです」と私が頭を上げた村長達に微笑みかけると…村長達が一歩後退し、並んでいた内の兎獣人の人と奥さんらしき人が二人で私の前まで来た。


「ルミナスさん…サリシア様から聞きました。娘のラナだけじゃなく、夫を救っていただき…ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」


『娘』と聞いた事で、この二人が誰か察しがついた。ラナちゃんのお母さん…カルメラさんが私に頭を下げて、隣に立つラナちゃんのお父さんも、私にお礼を言って頭を下げてる。…傷だらけの姿しか見てなかったから、気づかなかった。


 ……良かった。欠けた耳も治ってる。


 兎耳を見て、安堵していると……

「ラナ、いらっしゃい」とカルメラさんが後ろを振り向きながら声をかける。ラナちゃんが一人の子供と手を繋いで歩いてきて、カルメラさん達が避けて私の前に立った。その子は…膝に布を巻いている。


「ルミナスさん! あのね、チル君がルミナスさんに謝りたいんだって!」


「……い、石をぶつけてっ…ご、ごめんなさいっ…!」


 ラナちゃんが隣の子の背中をポンと軽く押した。その子…チル君は、ラナちゃんよりも少し背が高い。年は5、6歳位だろうか。小さな丸い形の耳が頭にあり、狸獣人と思ったけど…長い尻尾が見えなかったから、熊獣人だと私は推測する。こげ茶色の癖っ毛の髪で、私をしっかりと見つめる瞳には、涙が溜まっていた。


「大丈夫だよ。チル君は謝ることが出来て偉いね。」


 ずっと気にしてたのかな…と思った私は、しゃがんでチル君の頭を優しく撫でる。チル君の顔を見ると…顔を真っ赤にして、目元を自身の腕でゴシゴシと擦っていた。


「――――っルミナス、さん! ぼ…僕っ! 強くなるっ! 今度はみんなを…僕が守るんだっ!!」


 小さな瞳に宿った強い意志……それを見た私は、チル君の可愛さも相まって「うん!頑張ってね!」と言って、ギュッと抱きしめた。「ラナも!ルミナスさんと、ぎゅーする!!」ラナちゃんが横から私に抱きついてきたので、ラナちゃんとチル君を、一緒に抱きしめる。チル君は固まっていたけど…ラナちゃんは嬉しそうに笑っていた。


 ……子供の体温って、凄く温かいなぁ〜。


 私がまったりしていると…


「ルミナス嬢…そろそろ子供達を…」

 陛下が遠慮がちに声をかけてきたため、私は腕の力を緩め、二人を解放する。

 私が立ち上がると、ラナちゃんが「またねー!」と言って手を振り、チル君が軽く頭を下げてきて、並んでいた村長達も広場内に散っていった。



「皆さん!お酒のお代わりは、いりますかー?」


 私と陛下が席に座ると…マナが両手で小さな桶を持って、こちらにタタッと小走りでやってきた。タプンタプンと波打つような水音が聞こえる。桶の中にはコップが入っていたようで、コップで汲みながらお酒のお代わりがいる人に注いでいた。

 私もマナに頼み、フラム様は「むぅ…桶ごともらえんかのう…」と唸るような声でマナに頼んでいた。

「皆で飲むんですからダメですよー」とマナが言って「フラム爺、我儘言ったらダメだよ」とアクア様に言われたフラム様は口を結び、チビチビとコップのお酒を口にしていた。

 マナは相手が誰でも、態度を変えないようだ。そこが好ましいと感じるけど…。陛下は内心ヒヤヒヤだろう。それでも大人数いるし、お酒を皆に行き渡るようにと考えれば仕方のない事だ。


「父上、私は隊の者達の元へ行って参ります。ハクヤには私が戦っていた間、門の守りや隊の者達の指示を任せていたので、労いの言葉をかけて来ます。」


 サリシア王女が席を立ち、アクア様達に頭を下げると広場から去っていった。ミルフィー王妃もライラ王女と共に席を立ち、城に戻るようだ。ライラ王女が、自身の手で目元を擦っている。子供は寝る時間なのだろう。私も油断すると睡魔が襲ってきそうになるけど…。

 隣のテーブルが陛下一人になったため、アクア様が手招きして、陛下はフラム様の隣に座った。


「我が国では、代々王の代替わりに魔人様にお声をかけさせていただいておりましたが…お二方も国では、そうだったのでしょうか?」


 陛下が正面に座るリゼ様と、隣に座るフラム様を交互に見て尋ねた。


「サンカレアス王国でも代々そうじゃったが…数十年前かのう…ファブール王国の事を、しつこく聞いてくる王が煩わしくて、二度と話しかけるなと告げたきりじゃな…」


「ニルジール王国では、代替わりの時に私が外に出ることなんてしなかったわ。私から王に話しかけた時だけね。」


 フラム様はサンカレアス王国、リゼ様はニルジール王国にある指輪と繋がりがある。二人の話を聞いて、国によっても魔人との関わり方は、違うようだと分かった。そして…オスクリタ王国の指輪は、この場にいないリヒト様だと分かった。



 私はコップを手に持ち果実酒を飲むと、食事中には聞けたなかった事…リヒト様に関する事を、尋ねてみることにする。


「アクア様…リヒト様が人間と結ばれた…初代女王の父親なのですか?」


 アクア様は『愛した人間を亡くして以降、自分の空間から出てきていない』と話していた。リヒト様の話になると教えてもらえないかと思ったけど…


「……そうだよ。初代女王を育てたのは、僕達三人だけどね。」

 アクア様がニコッと笑みを浮かべ、フラム様とリゼ様が相槌を打っていた。


 ……え? リヒト様や母親は……?


 私はアクア様の言葉を聞いて、更に疑問を抱くようになった。

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