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イアンは、役目を果たす

88話〜94話までのイアン視点の話になります。

 油断していた…。


 俺は手をしっかりと握ってなかった事を後悔する。

 ルミナスさんが後ろに倒れる時、咄嗟に回り込んだが、ナハト王子が邪魔……いや、倒れた先にはナハト王子がいた。


 ……ナハト王子も俺のように、ルミナスさんが好きなんじゃ……


 アクア様が作り変えた椅子に座り、ナハト王子に対して俺が鋭い視線を向けていると、隣に座る父上に「男の嫉妬は見苦しいぞ」と囁くような声で言われた。…そうなのか……

 俺はクッキーを持ったまま、チラリとルミナスさんを伺う。…ルミナスさんは甘い物が好きなのか? 覚えておこう。もっと笑顔が見たくて、クッキーを差し出した。…動機が不純だろうか。顔をまともに見れなかったが、手にとってくれて良かった。


 アクア様から話を聞いた後、姉上がこちらに来て父上の側に立つ。


「マーカス王子が牢屋の外に出ようとせず…狂ったように頭を壁に打ち付けていました。」

「眠らせて運んだのか?」


 二人の声が俺の耳に入る。マーカス王子が牢屋にいたのは、たった一日だ。軟弱過ぎる…。あんな奴一生牢屋にいれば良いんだ。


『宴』の言葉を聞いて、祝い事をするのは姉上が成人を迎えた時以来だな…と思い、記憶を探る。

 確かその日は隊の人ではなく、住民が姉上に挑戦して手合わせをしたり、広場で食事をしていた。

 町の住民は大体把握してるが、村人達が町に一同に集まっているこの機会に、交流を深めたいと考えていると……


 オルウェン王のいる箇所の異変と、アクア様達が動き出した事に、俺も立ち上がり警戒する。


 ……オルウェン王…?


 獣のような形をしてるが、そうではない。人でも獣でも…どこかに弱点はあるはずだ。姉上の方を見ると、観察するような視線をソレに向けていた。姉上の頭の中は、どう殺すかを考えているのだろう。

 俺や姉上は戦う気満々だったが、邪魔だと言われれば剣を鞘に収めるしかなく、黙ってルミナスさんの側にいることにした。魔人様方の戦いが見れる事に、少し胸を弾ませる。



 目の前で繰り広げられる魔法の数々に、目が離せなくなり、魔獣が魔法を受けても息をしている事に…言葉が出ない。ルミナスさんの手が震えている事に気付き、俺はその震えている手を強く握った。


 ……なんだったんだ、あの化け物は…。魔法まで使おうとした。もし剣で魔獣と戦う事になったら、どう戦えば良いんだ…?


 魔人様方の魔法を受けて、魔獣の姿が無くなった場所を見据えながら、俺は考えを巡らせていた。


 ギル騎士団長の死が近いのは一目見て明らかだった。未だに息をして死に抗おうとする、しぶとさには驚いたが……

 剣を突き立てられて、穴の中に消えていくギル騎士団長の姿を見ながら、俺は肩の力を抜く。

 ルミナスさんがアクア様達と話し始め、俺は口を結び話に耳を傾けていた。


 ……魔獣の心臓……魔石……魔力を混ぜる……魔力は減ったり限界がくると、分かるものなのか…。ルミナスさんの魔力が人間に……


 話を頭の中で整理していると、突然ルミナスさんが俺の側から離れた。俺が魔獣にならないか、心配だったのが理由のようで安心する。


 ……指輪は魔石から作られた物なのか……もしかして、ベリルが持っていた物もそうなのか?


 そう考えた俺は、袋から水晶とブレスレットを取り出す。ブレスレットをルミナスさんに手渡し、成り行きを見守っていたが、どうやら成功したようだ。


 ルミナスさんに問い詰められて、言葉にするのは恥ずかしかったが…正直に告げた。

 姉上が後ろから光っていないと言っていたが、俺から見たらルミナスさんは、常に光り輝く存在だ。


 ルミナスさんからブレスレットを受け取って、自身の手首に付けた。嬉しさのあまり駆け回りたくなる。叫びたくなる。だが…決してしない。ルミナスさんの前で子供じみた行動はしないよう、感情を必死に抑えた。


 グイッ!…と腕を突然引かれて戸惑いを感じる。

 なんだ? 俺に話…?

 ルミナスさん達から離れ……


「ねぇ…ルミナスちゃん、貴方に好意を向けてるみたいだけど…貴方はどうなの?」

「……は? 」


 上手く言葉が飲み込めず、思考が停止する。ギロリと睨まれたため「す、好きですよ。 ルミナスさんに気持ちも俺は伝えました。」正直に答えた。


「そう…水晶を貰うわね。作りたい物が出来たわ。」

「……え?」


 手に持っていた水晶を自然な動作で取られ、質問する暇もなく、ルミナスさん達の元に戻る事になった。

 一体なんだったんだ? さっきの………好意といっても……ルミナスさんが、お、俺を好きかどうかなんて…………


 あああああああっ! だ、ダメだ! 意識するな!

 ルミナスさんの前では冷静でいろっ!!


 内心の動揺を必死に抑えようとしていると、姉上に声をかけられ、すぐに行動した。馬車に乗るならマントは今必要ないように思えたが、もしかしたら俺の異変に気づいたのか……姉上の声が冷たかったしな…。


 フゥ…と息を吐き、ルミナスさんに声をかけて、町に戻った。城に戻ったら宴が始まるまでの間、ルミナスさんと話がしたかった。ルミナスさんの気持ちが知りたくて仕方がなかったが、マナに籠を持たされて厨房に運んだ俺は、ルミナスさんの支度が終わるまで城の外に……


「イアン王子!」「あの人にお礼を…っ!」

「城内にいるんですか!?」


 …出ると数十人ほどの民達が待ち構えていて、質問攻めを食らった。どうやら光がルミナスさんの力によるものではないかと、気づいているようだ。


「…お前たち、城に押しかけてはならんと言った、私の言葉を聞いていなかったのか?」


 民達の後方から、姉上の淡々とした声が聞こえ、俺に詰め寄っていた人達は慌てた様子で去っていった。


「……父上は今どこに…?」

「広場にいる。魔人様方と私達は広場で食事をするからな。村人の多くが、ルミナスの力により皆が助かった事に気づいている。お礼を言いたいと殺到したからな。広場には各方面の村の村長と家族を集めた。」


 姉上が胸の前で腕を組み、城を見上げる。


「ラナの時とは違い…奇跡の力…魔法を目にした者は大勢いる。特に私達がいた方面の壁や塔にいた者達は、魔法の数々を目にしてるしな。ルミナスがお前を抱きしめて光に包まれる所も見ている。ルミナスの話題で盛り上がっているぞ。」


 姉上はフッと笑みを漏らした。


「町の住民はお前が、ルミナスを懇意にしているのを知ってる者も多い…人間と結婚となると民達の説得は難しいと考えていたが…お前とルミナスの結婚は、歓迎されるかもな。」

「けっ……!」


 俺が言葉が出ずにパクパクと口を動かしていると…


「とりあえず門から城までの道なりを通りながら、民達には城と広場に殺到しないよう注意しといた。父上は広場にいる者達に、ルミナスや魔人様方に不用意に近づく事はしないよう説明してるだろう。」


「…魔人様方の事は…どう説明を…?」


「腕の立つ旅人だ。人間だが私より強いと言えば、敵意を向ける者はいないだろう。」


 姉上の強さは、国中の者が知っている。町の住民はもちろん、姉上は各方面の村には隊長に就任後よく訪れていた。村人の中で腕がある者を、隊に入れると連れ帰ってきていたのを覚えている。


「魔人様方は、まだ来ていないな?」


 父上が急ぎ足でこちらに来た。俺も辺りを見回すが、アクア様達の姿はない。


「各方面の壁にいる隊の者達には、白いローブを着た三人が来たら丁重にお連れするように通達して…」

「あ、姉上…壁を越えて来たようです…。」


 東側から土の道が壁を越えて、移動しながらこちら側に向かって来ていた。その上には三人の姿が見えて、その光景を呆然としながら見つめる。


「あれ〜? ルミナスは…あ、城の中にいるね。」


 アクア様がキョロキョロと視線を彷徨わせた後に、城に視線を向けた。


「はい。ルミナス嬢の支度が整いましたら、すぐにこちらに来ますので…」

「ねぇ、席はどうなるのかしら?私はルミナスちゃんの隣が良いわ。」


 父上が話しかけ、それから食事をするときの席を決める話し合いがされていた。食事をする際に食前と食後に挨拶を我々はする…と父上が話した事で、興味を抱かれ、挨拶のやり方を説明している。


「ルミナスさんの様子を見てきます。」


 姉上に声をかけて、俺は城内に入ったが既に近くまで来ていた。母上とライラが外に出て、俺はルミナスさんの姿を見て…息を飲む。


 髪を結い上げて、ドレスを着たルミナスさんは……凄く、大人っぽい。首元はそんなに開いてて大丈夫なのか? 胸が……ってどこ見てるんだ! 俺は! 失礼すぎる!首を左右にブンブンと横に振った後、ルミナスさんに声をかける。


 ルミナスさんを民達に紹介する事になり、父上が語り、ルミナスさんも民達に向かって語りかけた。

 歓声を上げる民達の声に、俺は嬉しく思っていたが……二人きりの状況の今…意を決して、ルミナスさんに尋ねてみることにした。下に降りていってる事には気付いたが、……俺をどう想っているのか……



 結局聞けなかった。


 ん? 何か投げて……


 リゼ様がルミナスさんに抱きついた時に、俺に向かって何か投げてきて咄嗟に受け取る。質問しようとしたらルミナスさんと先に行ってしまったが、隣にアクア様が来て「後でルミナスに渡してよ」と言われた。


「……アクア様達から渡した方が…」

「う〜ん…渡すのはイアンの役目らしいよ。イアンがルミナスの指に嵌めてあげた方が、喜ぶだろうってさ。」


 ………そうなのか…?

 魔人様方の贈り物を預かるなんて、責任重大だ。

 俺は指輪を大切に袋に入れ、隣を一緒に歩くアクア様と会話しながら広場に向かう。


「あの場に残っていたのは、水晶でこの指輪を作るためだったんですか?」

「うん。魔力を込めたのは、さっきだけどね。フラム爺が反対してたけど、ルミナスが皆を対等な立場で扱おうとする姿を見て『良いじゃろう…』って言ってさ。」


 アクア様はフラム様の声色と髭を触る仕草を真似しながら、愉快そうに話していた。



 広場に着き、席に座った俺たちは食事を始める。

 ルミナスさんは、ネックレスとこの場にいない、もう一人の魔人リヒト様を気にしているようだった。

 俺は会話の邪魔をしないように、黙々と食事をする。リゼ様が『贈り物』と言って、俺に視線を向けてきたため、立ち上がって袋から指輪を取り出す。


 ……右手の薬指に指輪を嵌めてるから、反対に嵌めれば良いよな。


 向かい合わせで座る、アクア様とフラム様にも見えやすいようにと思って立ち上がったが…なんだか広場にいる皆の視線が集中しているようだった。

 誤って指輪を落とさないように、ルミナスさんの細い指に、ゆっくりと指輪を嵌める。緊張した。


 俺はルミナスさんに嵌めた指輪を見ながら、自分の役目が果たせた事に安堵する。

お読みいただき、ありがとうございます。

次話はルミナス視点になります。

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