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ルミナスは、贈り物をもらう

 歓声が落ち着いてきて、隣を見ると陛下の姿がいなくなっていることに気づく。下を見下ろすのは怖くて出来ないけど、アクア様が陛下の足元の地面を、元に戻しているんだと思った。周りを囲んでいた火も消えている。私達の足元も下がり出すと思った私は、キツく目を閉じて身構えていると……


「ルミナスさんにとって…俺は友人…?」

「へっ!?」


 ふいに聞こえた声にビクッとする。目を開けたらイアンの顔が近くにあった。いつのまにかイアンは、私と向かい合うように立っている。


「…リゼ様が教えくれた。ルミナスさんは、俺に好意を向けてるって…俺、少しは期待していいのか?」


 イアンが私の両肩に優しく手を添えて、熱い視線を向けてくる。その視線に耐え切れずに、私は俯いてしまった。



「わ、私……は……」

「二人共、広場に行くよ〜。」


 アクア様の声が聞こえて、俯いていた顔を上げる。一気に上がった時とは違って、戻す時はゆっくりだったようだ。イアンの方を向いて俯いていたし、周りを見る余裕が無く、気づかなかった。

 足元の地面が元の位置に戻っていて、私とイアンの前にはニコニコと笑うアクア様。広場に向かおうとしてるのか、サリシア王女や陛下が王妃様とライラ王女と共にフラム様も一緒に……あれ? リゼ様は?


「ルミナスちゃん、行きましょう。」

「わっ!…り、リゼ様…後ろにいたのですね。」


 背後から明るい声が聞こえ、後ろからぎゅーっと抱きしめられた。「ルミナスちゃんは私の隣に座りましょうね」とリゼ様が私の背中に手を添えてきて、二人で広場まで向かう事になった。


 ……イアンに…ちゃんと話さないと……


 さっきは急ですぐに言葉が出なかったけど、イアンと話はしようと思っていた。宴が終わったら…。そう思いながら私は、足を進める。




「ルミナスさーん!」「ルミナスー!」

「ル・ミ・ナ・スー!」


 広場にも人が沢山いた。広場には長い松明の火が入り口近くに二つと、奥に二つ突き立てられている。

 広場に村人が避難してきて集まっていた時は、女性と子供だけだった。けど、今は違う。男女混じっていて年齢もバラバラのようだ。広場の奥に向かって人垣が真っ二つに分かれていて、陛下達が歩く後を私も歩いて行く。私の名を呼ぶ人達を見て、左右に顔を向けながら軽く手を振って呼びかけに答えた。少し照れくさい。人それぞれ私に対する呼び方は違うけど、様付けする人はいないようだ。

『友人』の言葉のおかげだろうか…。

 変に敬われたり、遠巻きにされるより全然こっちの方が嬉しい。



「……あれ? このテーブルと椅子…見覚えが…」

「ああ、それは城内の食堂から運んだ物だからな。」


 私の疑問にサリシア王女が答えてくれた。

 奥まで来るとテーブルに椅子が6脚。それが2セット横並びに設置されている。一つのテーブルがある椅子には、私の両隣にイアンとリゼ様が座り、向かい合わせでフラム様とアクア様が座った。そして、もう一つのテーブルがある椅子には、陛下の隣に王妃様、向かい合わせでサリシア王女とライラ王女が座った。陛下が私達の方に座らない事に、疑問に思ったけど…スムーズに皆が移動したから、事前に席は決めていたのかもしれない。


 テーブルの上には既に食事が用意されていて、私の前には木製の皿の上に、スライスされたパンと肉やフルーツが盛り付けられている。そして木製のフォークと飲み物が入ったコップが置かれていた。


 広場にいる人達に視線を向けると、マナの姿を見つけた。他にもマナと同じように白いエプロンを付けてる人がいるから、きっと城で働く人達だろう。

 大きな籠を持っていて、中にはパンが入っているようだ。「もー! 2個取ったらダメだからね!1人1個!」マナの注意する声が聞こえて、私はくすりと笑ってしまう。

 広場だけじゃなく、道なりにいる大勢の民達の食事の用意は大変な筈だ。ルミナスの記憶にあるパーティーでは、食べ切れないほどの食事が並んでいた。それに比べると宴の食事は質素に見えるけど…地面に座り談笑しながら食事をする民達の表情はとても明るく、私は自然と笑みが零れる。


「いただきます」


 隣のテーブルから声が聞こえてきて、私は顔を横に向ける。陛下達が手を合わせて食前の挨拶をしていた。


「ルミナスちゃん、私達も挨拶して食事をしましょう。」

「……リゼ達も挨拶を…?」

「ルミナスちゃんが考えた挨拶なんでしょう? 食事の前と、後にもするって聞いたから、やってみたかったのよ。」


 リゼ様がフフッ…と笑い、リゼ様…アクア様とフラム様も、既に手を合わせてスタンバイしている光景に目を丸くする。……私が考えたわけじゃないです!そう声を大にして言いたかったけど…上手く説明できないし、待たせるのも悪いと思って、私も手を合わせて皆で「いただきます」と挨拶の言葉を口にした。


 飲み物は果実酒で、私はお酒を気にしていた様子だったフラム様にチラリと視線を向ける。

「果実酒も悪くないのぉ…」

 ゆっくりと口に含んだフラム様の言葉に、きっと陛下は胸をなでおろしてる事だろう。

「食事をするなんて随分と久しぶりだわ」

 隣で綺麗な所作で食事をするリゼ様。私は食事を早く済ませて、ネックレスを探しに行こうと考えてたけど…


「ルミナスちゃん、そんなに急いで食べたら喉を詰まらせるわ。…ネックレスを気にしてるのかしら?」


 リゼ様のため息混じりの声に、私は口に入れたパンを慌てて咀嚼し飲み込む。


 ……リゼ様は人の心が読めるのだろうか?イアンへの気持ちも気づいたみたいだし。私が顔や態度に出ているのかな…。


「…はい。わたくしは、食事の後にネックレスを探しに行って参ります。リヒト様の魔力が込められた、大切な物ですし…。それと、わたくしはもう一度リヒト様に呼びかけてみたいのです。リゼ様達がこの場にいらっしゃるのを知ったら、リヒト様も出てきてくれるかもしれません。…あ、指輪で呼びか」


「リヒトが出てくる事はあり得ないわ。」


 リゼ様の冷たい声に、私は目を見開く。ネックレスが手元にないから、袋の中にある指輪を使ってリヒト様に呼びかけてみようと考えたけど、リゼ様に言葉を遮られてしまった。


「…リヒトは、愛した人間を亡くして以降、自分の空間から出てきていない。僕達も、何度も呼びかけたんだ。…けれど一度も返事が返ってくる事も、外に出てくる事も無かったけどね。…君の名を聞いたら、もしかしてって思ったんだけど…」


 アクア様が手に持っていたパンを皿に置き、ため息を吐いていた。「…話は食事を済ましてからにしましょう。」リゼ様がフォークに刺したフルーツを口に運ぶ。なんとなく気まずい空気を感じた私は、一先ず食事の手を進める。広場にいる民達の笑い声や話し声が私の耳に入る。椅子に座る私や周りは、それ以降食事中は口を閉じたままだった。隣のテーブルからも話し声が聞こえないから、こちらの静けさに何かを察したのかも。




「せっかくのお祝いの席に、暗い空気は良くないわ。」


 食事を済ますと、リゼ様が最初に言葉を発した。優しい笑みを浮かべ「ルミナスちゃん、貴方に私達三人から贈り物があるのよ」リゼ様がそう言って、私の隣に座るイアンと視線を交わしていた。


「ルミナスさん…左手を出して」


 イアンが立ち上がったので、私も椅子から立ち上がり向かい合わせになる。私は左手を、手の平を上にして出したけど…手を取ったイアンがくるりと手の向きを変えた。私の手を取ってない方のイアンの手には、何かが握られている。



 ……あれ? これって…広場に来る前には、イアンから魔力の色は見えなかったのに…。イアンはアクア様と一緒に広場に向かって歩いてたから、その時に渡されたのかな?



 イアンが手に持っている物は、指輪だった。その指輪を、とても真剣な表情で私の左手の薬指に嵌めようとしている。


 心臓の鼓動がうるさく鳴る。まるで結婚指輪のようだと、意識しまったからだ。…前世では左手の薬指に指輪を付けてる人を、羨ましく思っていた。この世界に、そんな習慣はないだろう。リゼ様は『私達三人』と言っていた。アクア様、リゼ様、フラム様の三人からの贈り物だ。

 なぜイアンから私に渡されるのか疑問に思うし、イアンも左手の薬指に付けるのは、別に意図した行為では無いと思うけど……



 ……て、て、手が震える!



 緊張と嬉しさでかすかに震える私の指に、水色、赤、緑の色合いをした宝石が付いた、指輪が嵌められた。

次話は別視点の話になります。

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