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ルミナスは、焦る

 城に着いた頃には日が暮れていた。

 それでも今夜は、ここ数日に比べて外がとても明るく見える。月明かりだけじゃなく、長い松明の火が城の付近や道なりに、地面に突き立てられていたからだ。イアンから降りて城に入ってすぐに、マナは私達の後ろから走ってきた。ツインテールの髪を揺らし、腰には白いエプロンを付けている。…もしかしたらマナは、イアンの走る姿を見つけて、後を追いかけてきたのかも。


「ルミナスさん! ミルフィー様が待ってますから、早く行きますよ!イアン、コレ厨房まで持ってって!」


 マナは籠をイアンに手渡して、私の腕を掴みグイグイと引っ張る。……なんでミルフィー王妃が私を?


「なんで母上がルミナスさんを?…俺も一緒に…」


 イアンも私と同じ事を思ったようだ。イアンは籠を両手に持ちながら、マナと私の後に付いてこうとしたけど…


「イアンはダメ。 ルミナスさんは支度があるんだから。…着替えを覗くつもりなの?」

「――なっ!? 覗くわけないだろ! それなら先に言えよ!」


 イアンが狼狽えながら声を上げて「厨房に行ってくる!」と少し怒った口調でマナと私を追い抜かし、走っていった。


 ……支度?


 私はマナの言葉が気になりながらも「ほら、ルミナスさん行きますよ。」とマナに急かされ、足を動かす。


 城内はとても静かだった。城で働く人の殆どが、外に出ているのかもしれない。私の耳に外からの声が僅かに聞こえてくる。それは悲しい泣き声や怒鳴り声ではなく、人々の笑い声や楽しげに話す人の声。流石に何を話しているかは聞こえないけど、争いを前にした時の雰囲気は、もうどこにもないように感じた。


 私が穏やかな気持ちになっていると……


「ルミナスさんは…いつ説明してくれるんですか?」


 歩きを止めないままマナが尋ねてきて、私はギクッとする。マナの所に瞬間移動した時の事を言ってるのが分かったからだ。


「…あの時は驚かせてごめんね。」

「ほんっとーにビックリしましたよ。突然現れるんですから…ルミナスさんの髪色が変わってて、なんだか別人のように見えたし…。」


 マナがチラリと私を見てきて「光って見えたのは気のせいかな…。」と呟いていた。


 ……マナになんて説明しよう。


「周りにいた村人達も、ルミナスさんとイアンが突然現れたり消えたりして、マナに聞いてきたから大変でしたよ。その前に空の異変と傷ついた村人が治っていたから、光り輝くルミナスさんの姿を目にした村人は、ルミナスさんが関係してるんじゃないかって騒いで……」


 私がマナにどう話せば良いかを考えていると、マナがピタリと足を止めて、隣を歩く私に顔を向けた。


「隊の人達が皆が光に包まれている様子を見て、ラナちゃんが治った時に似ていると言ってました。隊の人に問い詰めたら、ラナちゃんが治った時に側にルミナスさんがいたそうですね。隊の人達は、ルミナスさんは奇跡の力を使えるんじゃないかって…思ったみたいです。」


 ジッ…と私を見つめて、マナが私と繋いでいない方の手を自身の胸に当てながら「マナも…あの光はルミナスさんの力なんじゃないかと思っています…」と静かな声で話した。


 ……隊の人達は、湖でラナちゃんが癒えたのを見てたもんね。自分からわざわざ、私がやりましたー!って申告しようとは思ってなかったけど……


「…うん、あの光は私の力だよ。…私には特別な力があるんだ。」


 詳しく説明するのは難しいから、私はそれだけ告げる。するとマナは「やっぱり!」と明るい声を上げて、再び歩き始めた。



 急ぎ足になったマナに、手を引かれながら歩いていると…


「正直に言うと、マナ…凄く怖かったんです。皆がピリピリしていて、どうなるか不安で……」


 私の手をギュッと握ったマナが「…ルミナスさん、ありがとうございます。」と少し震える声で言って、私は優しくマナの手を握り返した。



 ミルフィー王妃は自室にいるようで、部屋に辿り着いて扉をマナがノックしながら「ルミナスさんを連れてきましたー。」と言うと……


 扉が開かれ「お母さま! ルミナスさん来たよ!」と弾んだ声で、ライラ王女が顔を出した。


「ありがとう、マナは外の手伝いに戻っていいわ。」

「はい。それじゃあルミナスさん、また後で。」


 ライラ王女の後ろから、ミルフィー王妃がマナに話しかけて、マナは城内を走っていった。



「あの…支度をすると聞いたのですが…?」

「ルミナスさん、入って入って!」


 ライラ王女に手を引かれて、私は部屋の中に入る。部屋は私が使わせてもらってる客室より広く、ベッドもダブル位の大きさで、その上にドレスが何着も置かれている。クローゼットもあり、テーブルの上に置かれた蝋燭(ろうそく)が室内を照らしていた。


「何色がいいかしら? 」

「ルミナスさんは、ライラと同じ水色が良いよ!」


 ベッドに置かれたドレスと私を交互にミルフィー王妃が見て、ライラ王女は自身が着ている水色のワンピースと同じ色を指差していた。

 私も側でドレスを見ていたけど…


「あの…なぜ着替えを? 私は今着てるので十分…」

「みんなに、ルミナスさんを紹介するんだよー!」


 ライラ王女の言葉に私は一瞬固まる。サンカレアス王国にいた時、ルミナスはパーティーの経験は何度もある。煌びやかなドレスと装飾品、そして厚化粧の完全装備で上辺だけの言葉を並べて、貴族同士の見栄の張り合い。食事や飲み物は少量…そんな記憶がある。

 宴で私は、皆でワイワイ騒いでるのを遠目から眺めて、ひっそりと食事をするのを想像してたけど……。


「紹介…?」


 私がポツリと呟くと、ミルフィー王妃は薄く笑みを浮かべた。


「ええ、陛下から詳しくは聞いてないのだけれど…ただ、慌てた様子で城に戻ってきた陛下が、ルミナスさんを宴が始まる前に、民達に紹介するって言ってたわ。皆の前に立つから、支度を頼まれたのだけど…ルミナスさんは今着ている色が好きなのかしら?」


「えっと…そう、ですね。」


 ここ数日は黒色のワンピースを着ている。何色が好きかと聞かれたら、暗い色の方が良いけど……


 ……皆の前に? あの大人数の?


 道なりにいた人々の光景を思い出す。

 何か私は言わなければいけないのかな?

 敵を前にした時よりも緊張しそうだ。

 うう…。


 私が考え事をしている間に、ミルフィー王妃が私の羽織ってるマントを外して、着替えを済ませられる。私を椅子に座らせて、髪をミルフィー王妃が手際よく編み込みしていた。「ルミナスさん綺麗〜」ライラ王女が胸の位置で手を合わせながら、私を見つめている。


「私のドレスだけど…着れてよかったわ。ちょっと胸がきついかしら…。」


 ミルフィー王妃が私の手を取り、椅子から立ち上がらせて、全体を眺めるように見ながら話した。


「あら、袋に何か入れてるの?」

「あ! ベルトは付けます!」

 ベルトを持ったミルフィー王妃を見て、私は慌ててベルトを取り、腰に付ける。「大事な物が入ってるのね」ニコリと微笑んだミルフィー王妃に「はい」と私は一言答えた。


 私は自分の髪を崩れないように触ってみる。三つ編みを、頭に巻きつけるように編み込みしてくれていた。ドレスは真っ黒ではなく、やや灰色がかった淡い黒色に見える。丈は長く足首が隠れていて、袖は肘の辺りまであり袖口が広がっている。フリルなどの飾りは一切付いてないシンプルなドレスだ。


 首元が開いていて、装飾品が無いのが少し寂しく見え………



 あれ? ネックレス……



 あれ????



 無い!! ……ええええええ!?



「ルミナスさーん! ほら行くよー!」


 ライラ王女に引っ張られて、私は部屋を出るけど……頭の中はパニック状態だ。足を止めようとしたけど、私の後ろを歩いてきたミルフィー王妃に「宴が始まってしまうわ」と背中を押されて急かされる。



 ネックレスは寝る時以外、肌身離さず付けていたのに……いつ外して……



 ああああああああ!



  魔力を戻す時!

 あの時外して、手に持ってたよ!

 落としちゃった!?



 うあああああああ!



 ライラ王女が私の手を握り「うたげ、うたげ」と楽しそうな声で私の先を歩く。手を振り払う訳にもいかず、口を閉じたまま私は歩くけど…



 ……内心焦りまくりだ。

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