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ルミナスは、尋ねる

 石は無色で握りこぶしより大きく、ゴツゴツとしていて、触ったら固そうだと思った。魔獣がいなくなったからか、赤黒い光も見当たらない。フラム様が立ち止まってその石を手に取り、アクア様とリゼ様は、その先にある土の檻を目指して歩いていく。私もその後を追った。



「虫の息ね。」


 私の前に立つ、リゼ様の冷たい声が聞こえた。


 土の檻の中にいたままのギル騎士団長は、アクア様が地面に手をついて檻を無くし、その姿が露わになった。檻によし掛かっていたのか、檻が消えるとギル騎士団長が仰向けに倒れる。全身が黒焦げになっていて、人間の形をした炭のようだ。半開きの口からヒューヒューと、僅かに呼吸音が聞こえてくる。私はその姿を目にして、直視できずに視線を逸らしてしまう。まだ息があることに、不思議に思った。土の檻があったからだろうか…。


「コイツ、ちゃんと見てたかな?」

「さてのう…」


 フラム様が石を手に持ったままこちらに来て答えた。アクア様がギル騎士団長の側に行き、しゃがんで顔を覗き見ている。後ろにいたゼルバが、私達の横を通り過ぎ、ギル騎士団長の側に歩み寄る。

 アクア様が離れるとゼルバは腰に下げた剣を抜き、ギル騎士団長の胸に剣の切っ先を突き立てた。


「穴を作ってあげるよ。」アクア様がギル騎士団長の側に穴を作り、ゼルバがその中に入れ…穴は塞がれた。鞘に剣を収めたゼルバは、アクア様に深く頭を下げて私の後ろにいたナハト王子の側に戻っていく。


 私がフゥ…と息を吐いていると……


「フラム爺が持ってても仕方ないんじゃない? ルミナスにあげれば?」


「…そうじゃな。ほれ、ルミナスの好きにするがよい。」


「え? あの…この石って…?」


 隣に来たフラム様に石を手渡されて、私は戸惑う。

 どう好きにすれと…? 加工すれば宝石として使えそうだけど…


「それは魔獣の心臓だよ。ルミナスは魔獣の中にある魔力が見えていたかな? 今は魔力を失ってるけど…僕達はそれを、魔石と呼んでるよ。」


「心臓!?」


 アクア様が私の前まで来て疑問に答えてくれたけど…私は驚いて、思わず両手で持っていた石…魔石を落としそうになる。


 ―――魔獣は元はオルウェン王なんだよね!? 嫌だよ!いらないよ! 返品可能ですか!?



「…兄様…」


 私の後ろから、ポツリと沈んだ声が聞こえた。後ろを振り向くと、ナハト王子が目に涙を溜めながら、私が持つ魔石を見つめている。


「ナハト王子、良ければ受け取っていただけませんか?」

「……ッよろしいのですか…?」


「はい」と私は頷いて答える。魔石を手渡すと、ナハト王子は恐る恐る魔石を受け取り「ありがとう、ございます…」と、か細い声で言って魔石を胸に抱いた。フラム様は私の好きにして良いと言っていたし、渡しても問題ないだろう。チラリとフラム様を伺うと「ルミナスは欲の無い子じゃな…」と優しげな笑みを浮かべ、アクア様が「ね〜」と言って相槌を打っていた。


 もしかしたら、この魔石は価値が高い物なのだろうか…それでも手元に持っているのは嫌だし、一応あんな奴でも、ナハト王子の兄だったんだ。親族に渡すのが一番良いだろう。死んでまで悪さは出来ないしね。


「何故、オルウェン王は魔獣になったのでしょうか?」


「指輪を二つも使って魔力が混ざったからだよ。魔力を持たない人間が大規模な魔法を行使して、その身に魔力の影響を受けたんだ。魔力は人間だった僕達を不死に変えたんだよ? 人間を化け物に変える事も可能なのさ。」


 伏し目がちにアクア様が答えた。


 ……魔力は、混ぜるな危険!…て事だろうか。


 今私の前にはリゼ様とアクア様がいて、私の左隣にはイアンと右隣にはフラム様がいる。後ろはよく見てないから分からないけど、ナハト王子の側にはゼルバと、陛下やサリシア王女もいるだろう。


「今までも…このような事があったのですか?」

「度々あったのう…」


 フラム様の声を聞き隣を見ると、フラム様の杖を持つ手がギリッ…と力が入ったように見えた。


「指輪を持つ者が魔法を行使すると、私達は自分の魔力が減るのが分かるわ。他の魔力と混ざる感覚も分かるのよ。」


 リゼ様は頰に手を当てながら、フラム様に視線を向けた。「よりによって、リヒトの魔力を混ぜおって…」フラム様の声が僅かに苛立ちを含んでいるように聞こえ、杖を地面にドッ…と勢いよく突き立てていた。


 ……フラム様はリヒト様が嫌いなのかな…?


 そう思ったけど…私はアクア様達のことをよく知らない。アクア様から魔力の量が限界になった年齢で成長が止まった話は聞いたけど、年の順番が見た目通りとは限らないし…。そういえば…アクア様以外は、どの国の指輪と繋がりのある方かも知らない。魔力の色と指輪の色で推測はできるけど…

 色々と聞きたい事はある。けど、私が一番に知りたいのは………



「……わたくしは…魔法を度々使っているのですが…減った感覚が分からないのです。魔力の量が限界になるのも…どうやって分かるのでしょうか?」


 私は少し躊躇しながらも尋ねた。争いが収まったら、聞きたかった。知りたかった。自分がまだ人間なのか…



「魔力の量が限界になった時…。そうねぇ…壁にぶつかったように感じたわ。」


「そうそう、もう無理だよーってのが分かるよね。」

 

「ふむ…確か…減る感覚を感じるようになったのは、魔力の量が限界になってからじゃ…」


 リゼ様、アクア様、フラム様が、思い出すようにしながら答えてくれた。私にはその感覚が分からないから、まだ人間なのかな。…私が鈍いだけだったりして…。


「それにしても…ルミナスちゃんを長く見ていられないのが残念だわ。眩しすぎて…」

「まぶ…? そんなに…ですか?」


 リゼ様が私から視線を逸らし、ため息を吐く姿に私は疑問を抱く。するとアクア様が「うん、ルミナスは太陽みたいだよー。」と答えてくれた。


 ………太陽?


「アクア様、わたくしの魔力はどのように見えますか?」


「う〜ん…魔力を戻した時は凄かったよ。白く光る魔力が国一つ分はありそうな大きさだったからね。でも、それが一瞬でルミナスを覆う程度の大きさに変わって、光の輝きが増したんだ。人間には魔力が見えない筈なのに、髪や瞳が光って見えるようだね。ルミナスの魔力が人間に影響を与えてるんだよ。」


 ……だからアクア様は瞬間移動する時に、私に触れていれば大丈夫って言ってたんだ…。影響を…え?それって…私の側にいると魔獣になったりしないよね!?


 私は慌ててイアンから離れ、アクア様の側に行く。イアンが目を丸くしてるが見えたけど、イアンが魔獣になるのを想像したら、体が勝手に動いていた。


 アクア様が私の背中をポンポンと叩いて「大丈夫。側にいる位で魔獣になったりしないよ。」と優しく私を宥めてくれている。私はそれを聞いてホッとした。


「ルミナスちゃん、心配なら魔力を移しておいたらいいわよ。もしかしたら、光も収まるかもしれないわ。」


 リゼ様の提案に私は「はい!」と元気よく返事をする。町に戻った時に、人と会う度に驚かれるのは嫌だ。マナと一部の人達には姿を見られてるけど…。

 アクア様が私の右手をとり、薬指にはめている指輪をジッ…と見つめた。


「ヒビが入ってるこの指輪は使えないね。他のに移した方が良いよ。他の指輪もだけど…これは魔石を加工して作った物なんだ。」


 アクア様がそっと手を離し、私は手を胸の位置にもってきて指輪を見つめる。魔獣の心臓から出来てるなら…この指輪に付いてるのも、誰かの心臓の一部……

 私はそう考えたけど、この指輪を壊したり手放そうとは思えなかった。


「チビに渡してた魔石に移せるよ。」


 ナハト王子がキョトンとした顔をして、私と自身の手に持つ魔石を交互に見ている。



 ……そういえば、オルウェン王が指輪の魔力を何かに移してたっけ。魔石を加工した物かな? どうやって手に入れたんだろう…。それに私の魔力が移せたかも……


 思考に耽っていた私は、イアンが腰に下げていた袋と、鍵の事を思い出す。もしかして…

 私はイアンに視線を向けた。イアンは腰に下げた袋から、何かを取り出そうとしている。



「ルミナスさん、魔力を移すなら…これが使えるんじゃないか?」 



 イアンの手には、水晶とブレスレットがあった。

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