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ルミナスは、忠告する

 兵の一人がラージスから剣を受け取っていたようで、剣を二本と床に落ちていた兜も回収して退室した。今執務室には私と陛下、ライアン王子の三人が残っている。


「ルミナス様、お連れの方が戻られるまで、応接室で休まれてはいかがでしょうか?」


「…はい。少し休ませていただきます。」


 陛下からの言葉に、嬉しく思いながら答えた。執務室に来る前と今では状況が変わったから、断る必要もない。


「私は宰相を出すために地下牢に行く。ライアン、ルミナス様はお前に任せたぞ。決して失礼のないようにな。」

「ああ、分かってるって…。イアン王子にも任されたし側から離れねぇよ。」


「イアン、王子…?」と言って、陛下が怪訝な表情でライアン王子の言葉に反応していた。「あ〜…まぁ、それも後でな。早く宰相を出してやれよ。細身の宰相が骨だけになっちまうぞ。」とからかうように笑ったライアン王子に陛下が「それは、困るな…」と真剣な表情で呟いていた。


「ルミナス様、後ほど伺います。」


 陛下は私に頭を下げると、急ぎ足で執務室から出て行った。「じゃあ、俺達も行くかぁ〜」とライアン王子が声をかけてきて、私達は応接室へ向かおうと扉に歩み寄り……私は足を止めた。


「ライアン王子…イアンが来たら、私達がこの場所にいないと、戸惑うかもしれません。」


「扉の外にいる衛兵に伝えておくし、大丈夫だろっ。それに応接室は、執務室のすぐ隣だ。下の階にも応接室はあるが、要人は大体隣を使うからなぁ。」


 イアン王子なら、ルミナス嬢がどこにいても分かりそうだけどな…そう言って笑ったライアン王子は、扉を開けて衛兵に、私と同じ格好の者が来たら応接室に案内するよう伝えていた。

 私も執務室を出ると、衛兵の他に人が廊下の壁際に立っている事に気づく。女性二人が私達に向かって頭を下げていた。


 茶色の丈の長いワンピースの上に、白いエプロンを付けていて、髪は上で一つにまとめて白いカチューシャを付けている。……メイドだと一目で分かった。

 もしかしたら、陛下が指示してこちらに来させたのかもしれない。


 応接室に入り、私とライアン王子はソファにテーブルを挟んで向かい合わせで座る。応接室には華やかなカーペットが敷かれていて、ソファも座り心地が良い。グラウス王国では木製のシンプルな造りの家具が多かったけど、色鮮やかな家具と調度品に懐かしさを感じた。


 室内に入ってきたメイドは一人だけで、飲み物は何が良いかを尋ねてきたため、ライアン王子はワインと私は果実酒を頼んだ。


「腹は空いてねぇか?」

「……少しだけ、空いています…。」


 ライアン王子の質問に、控えめに答えた。本当はお腹がとても空いてる。朝食が早かったし。


 メイドは頭を下げると退室して、ライアン王子と会話しているうちに、メイドはカートを押しながら戻ってきた。メイドがテーブルに、ゆっくりとした動作で置く様子を見ながら、私はゴクリと唾を飲む。


 私の目の前には、白パンやチーズ、カットされたフルーツが載せられた銀製の平皿。それとフォークと、グラスが置かれた。ライアン王子は食べ物を自分の分は頼んでなく、グラスだけ置かれた。テーブルの中央には、平皿に綺麗に並べられたクッキーもある。グラウス王国での食事に出てきたパンは茶色がかっていた。それでも十分だったけど…


 一先ず私は果実酒で喉を潤わせ、ふんわりと柔らかそうなパンに手を伸ばそうとし……

 扉の外からノックの音がして、陛下と宰相の来訪を報せる声がした。私はパンに伸ばしていた手を引き、佇まいを直す。


 ……パン…クッキー……。


 陛下達が中に入ってくると、先ほど見たもう一人のメイドであろう人も、カートを押して入ってきた。

 ライアン王子が私の横に移り、陛下と宰相が私達の向かい合わせで座ってメイドが二人の前に、グラスを置いている。陛下がメイドを下がらせて、室内には四人だけになった。


「親父はワインが好きだろ? それ、エールじゃねぇか。親父が飲むなんて珍しいな。」

「……ワインは、もう飲まん。」


 陛下は苦い顔をしながら答えていた。

 もしかしたら、ジルニア王子は飲み物に毒を…?

 そう思ったけど、宰相が私に視線を向けているように感じて、そちらに意識を向ける。


「宰相、ルミナス様に非礼はせぬようにな。」

「…かしこまりました。」


 宰相はやつれていて、声も僅かにかすれていた。ぎこちない動作で、グラスを手に取る姿が視界に入る。


 ……癒してあげた方が良いかな…。


 けど宰相は重症でもないし、わざわざ魔法を使う必要は無いだろうと思ってやめた。宰相が魔法を目にした事が無かったら、混乱すると思ったし。私だとは陛下に事前に聞いているようだけど、陛下が私を敬うようにしているのが不思議なのかもしれない。


「ルミナス様、グラウス王国で何があったのか…お聞かせ願いますか?」


「はい。…オルウェン王は、グラウス王国にオスクリタ兵を向けてきました。この国からも騎士団長と兵が来た為に、グラウス王国に住む人々は混乱し、争いになりました。グラウス王国で幸い死者は出ませんでしたが、傷を受けた者達は大勢います。サンカレアス兵は剣を抜く事は無く、人々を傷つけませんでしたが…サンカレアス兵がグラウス王国に入り、争いに加担した事に変わりはありません。」


 陛下と宰相は口を結び、私の話に耳を傾けていた。隣に座るライアン王子が「ほんと、肝が冷えたぜ…」と私の話に相槌を打ちながら呟いている。


「どのようにして、兵達を止めたのですか?」


「オスクリタ王国で反乱が起きたようです。ナハト王子とオスクリタ王国に赴いていたお父様が駆けつけて、オスクリタ兵を止めました。それとお兄様もグラウス王国に駆けつけ、サンカレアス兵を止めてくださったのです。騎士団長は先に帰国し、兵達はお父様とお兄様…マシュウとマーカス王子を連れてグラウス王国を出立します。」


 一気に話した私はグラスを手に取り、残りを飲みきる。「ダリウスが…」と陛下の、か細い声が聞こえた。宰相は私の話を、頭の中で整理しているのか口を閉じて、難しい顔をしている。


「わたくしの救出任務のせいで、グラウス王国に対し非難の目が向けられています。お父様が各領地に兵達を帰す際にグラウス王国に決して非がない事と、わたくしの安否を報せてくださいますが…陛下も民達にその旨お伝えください。……忠告しておきます。もし今後、グラウス王国に敵意を向ける事があれば、わたくしは……黙っていません。」


 陛下が肩をビクリと震わせた。私の魔法の脅威を感じたためだろう。「ルミナス嬢を敵に回したくはねーなぁ」とライアン王子の、ぼやくような声がした。


 ……戦った時にオルウェン王の魔法や、私も魔法を使っているけど、それは言わなくてもいいかな。怪我人も治ってるけど、村人達が傷つけられた事実に変わりはないし。


「ライアン王子は、わたくしと共にグラウス王国に戻りますか?」

「いや、俺はやる事がまだあるからよぉ…。サリシア王女に早く会いたいんだけどなぁ。」


 ライアン王子がため息を吐いていると「ライアン…お前、女性に興味があったのか?」と陛下が驚いたような声を上げた。


「はぁ?何言ってんだ親父。女に興味がねぇ男がいるかよ。」


「しかし…ライアンは婚約も結婚も今まで頑なに拒んでいたではないか。てっきり…」


「俺の好みは、強くて勇ましい女なんだよ。 たまたま国内で見つからなかっただけだ。まぁ…今までは兄貴がいたから、そんな我儘が言えたが…もう、そんな訳にいかねぇな……」



 二人のやりとりが終わり、シン…と室内が静まり返る。空気が…少し重くなったように感じた。次期国王になるのは、ライアン王子だろう。ライアン王子がサリシア王女に好意を抱いていた事には驚いたけど、それは報われない恋だ。サリシア王女がこの国に来る事なんて、絶対にないと断言できる。



 ……すぐ戻るって言ってたのに、遅いな…。


 ライアン王子は国に残るみたいだし、これ以上この国に用はない。この国の今後の事に、私が首を突っ込む必要もないだろうと思い、もしかして何かトラブルがあったのかな?と不安になった私は、イアンの元に瞬間移動して一緒にグラウス王国に戻ることにした。



「それでは、わたくしは失礼しますね。」

「お、おう。…コレ持ってけよ。食べてねぇだろ。」


 その場で立ち上がった私に、ライアン王子がクッキーと、白パンの載った皿を私に勧める。会話をしていて一切手がつけれずにいた。

「ありがとうございます。」とお礼を言って微笑み、腰に下げた袋に手を伸ばす。…これしか入れる物がないし、仕方ない。


「……あっ! 国王陛下にこれをお返しします!」


 袋を開けて思い出した私は、陛下に赤色の宝石が付いた指輪を手渡す。陛下は恐る恐る受け取り、自身の指にはめていた。私は一つ肩の荷が降りたことに安堵しながら、袋の中にクッキーとパンを詰める。流石にチーズとかは入れない。

 …卑しい訳じゃないよ。イアンもお腹が空いてる筈だから食べさせてあげたいだけだよ。

 そう自分に言い聞かせて、私はイアンの姿を思い浮かべた。瞳を閉じなくても、その姿を鮮明に思い浮かべられる。


「イアン王子の所に行くんだろっ? 任せられたしなぁ……俺も付いてくか。」

 ライアン王子は私が瞬間移動すると察したのか、立ち上がって私の肩に手を置いた。


「大丈夫ですよ。イアンと合流したら、すぐまた移動しますし…」


 私は遠慮がちに言ったけど…「イアン王子は心配性みてぇだからよ。それに二人を見送りてぇんだ」とライアン王子が言って、満面の笑みを浮かべた。


「今から目にする事に驚くかもしれねぇが…ルミナス嬢と俺は一瞬で消えるけど、心配する必要はねぇからな。ルミナス嬢は連れの、グラウス王国のイアン王子と合流してグラウス王国に戻るからよっ。俺は騎士団に顔だしてくるな。」


 ライアン王子の言葉を上手く飲み込めないようで、陛下と宰相は呆気に取られていたけど…私がいなくなるのは理解したのか、陛下と宰相が慌てた様子で立ち上がった。


「ルミナス様には、返しきれない恩があり感謝の念に絶えません。…ルミナス様の忠告を、心に刻ませていただきます。」


 陛下が真剣な表情で告げると、口を閉じたままの宰相と共に私に向かって深く頭を下げていた。



「この国の行く末に…期待しております。」


 私は薄く笑みを浮かべ、ライアン王子に顔を向けて頷きあうと、瞬間移動し………









 目の前に、剣を構えているイアンがいた。

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