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ルミナスは、捕らえる

「国王陛下、グラウス王国で何があったか…それは(のち)ほどお話致します。今はジルニア王子を捕らえるのが先決でしょう。」


「ルミナス…様? 嬢? の言う通りだ。兄貴には俺たちがいるなんて、思いもしないだろうしなぁ…。」


「ライアン王子、今まで通りで構いませんよ。無理してわたくしの呼び方を変えなくて良いです。」


 私の言葉を聞いたライアン王子は「すまねぇ。ルミナス嬢には感謝してるんだけどよ〜。『光の者』がなんなのか良く分からねぇしな。まぁ、ルミナス嬢が良いなら別にいいか。」と話すと、ハハっと笑い声を上げていた。「…それについては、私が後でお前に話そう。」と陛下がライアン王子を見ながら、ため息混じりに話す。



 寝室にはクローゼットがあり、陛下はそこから深い赤色のガウンを手に取り、上に羽織った。ガウンの下は寝巻姿だけど、寝室に着替えを置いてないため、後回しにするようだ。丈の長いガウンは、上等な生地で出来ているのだろう。肌触りが良さそうだと思った。


「ジルニアの元に参るぞ」と陛下がライアン王子に声をかけ「ジルニア王子は、陛下の執務室におられるでしょう。陛下の代わりを務めていると、私に話していましたから…」とガルバス騎士団長が陛下に話しかけると、陛下は拳を握り「そうか…」と一言答えた。


「ルミナス様は、申し訳ございませんが…応接室でお待ち頂き」

「いいえ、わたくしも一緒に行きます。」


 私は再びフードを深く被り、淡々とした口調で告げる。陛下は目を丸くしていたけど……


「親父、ルミナス嬢は兄貴から真相を聞きたいんだと。俺たちが一緒だし、側にはルミナス嬢を一番に想う奴がいるから大丈夫だって。」


 ライアン王子はチラリとイアンに視線を向けた。イアンがグッ…と口を結ぶのが私の視界に入る。


 ………一番に想う……。


 私はその言葉に顔が火照りそうになるけど、今はジルニア王子の件をなんとかするんだ!と思いながら身を引き締めた。陛下が私と同じようにフードを被るイアンを見て怪訝に思っているようだけど「国王陛下、わたくしは執務室が何処か存じませんので、共に参ります。」と告げ、少し足を早めて扉まで歩み寄った。


「お待ちください、案内致します。」


 陛下が慌てた様子で私の先を行き、部屋から出る。


 陛下の後ろにライアン王子とガルバス騎士団長が並び、その後ろに私とイアン、そして最後にラージスが後に続いて執務室を目指した。

 寝室で気絶した衛兵は、そのままにしてきた。兵を呼べばジルニア王子に会う前に騒ぎになる為、腰に下げていた剣だけ外してガルバス騎士団長とラージスがそれぞれ手に持っている。


 後ろからガルバス騎士団長の姿を見て歩く私は、鎧を身にまとい、一方の手には兜を、もう一方には剣を手に持ち、腰にも剣を下げている姿を見て、今から戦場に赴くような佇まいだと思った。

 途中で使用人が私達とすれ違ったけど、物々しい雰囲気を感じたのか…それとも陛下が歩く姿に驚いていたのか分からないけど、すかさず壁に寄り頭を下げていた。


 ……ジルニア王子は城内や国内のどこまで掌握しているんだろう。第一王子だし…なんだか色々と手を伸ばしてる人な気もするけど……まぁ、それはジルニア王子を捕らえた後に、陛下達が解決することだよね。


 ルミナスの記憶を辿っても、ジルニア王子はマーカス王子の兄で、第一王位継承者。ご婦人方や民からの人気が高い事しか知らない。パーティーで何度か会話はしているけど、ルミナスは上の空だったのか…聞き流していたのか…会話の内容は全く覚えてないし、ジルニア王子がどんな人柄か情報が全然ない。



 俯いて考え事をしながら歩いていると、隣を歩くイアンが急に顔を近づけ、私は驚いて肩がビクリと跳ねる。「…前を見ないと危ない」とイアンが声をかけてきて顔を上げて前を見ると、いつのまにか執務室に着いていたようだ。

 危うくガルバス騎士団長にぶつかる所だった。


「ありがとうございます、イアン。」


 私が声を潜めると、イアンは「…気をつけて」と言って顔を逸らしていた。



 執務室の扉の前にも衛兵が二名立っていたけど、陛下の姿を見て笑みを浮かべていた。

 ガルバス騎士団長やライアン王子の姿もあって驚いていたようだけど…。

 陛下が何も言わなくても、扉の前から避けて頭を下げている姿を見て、この兵達は陛下がずっと寝室にいた事を知らないのでは?と私は思った。


 ……そういえば、ガルバス騎士団長に『陛下は王妃様の側に付いている』ってジルニア王子が話したんだっけ。他の人達もそう聞いてるのかな。寝室の扉の前にいた衛兵や、使用人の何人かはジルニア王子から他に指示を受けているかもしれないけど。


 そうじゃないと寝室から一歩も出ない陛下に、何かあったのでは…と城内で騒ぎがあってもおかしくない。まぁ、それもジルニア王子を捕らえた後で陛下達に任せればいっか。


 衛兵の一人が扉をノックし「ジルニア王子、国王陛下が参られました。」と若干高いトーンで告げた衛兵の言葉に室内からガタッ…と何かが倒れる音がする。

 衛兵は物音が聞こえ中から返答がない事に、扉を開けることを躊躇したようだったけど、陛下を待たせるべきではないと考えたのか扉を開けた。

 陛下達に続いて中に入る際、衛兵はフードを被る私とイアンをチラチラと見てきて、気にしていた様子だったけど、陛下が何も言わない事から、そのまま中に入れてくれた。



 全員が入ると扉が閉じられて、陛下が部屋の中央まで歩き、両隣にはライアン王子とガルバス騎士団長が立ち、私とイアンは陛下の後ろに立っている。

 ラージスは扉の側で止まっていた。

 最初、私が名乗りを上げようと考えたけど、一先ず様子を見る事にした。毒を盛られた陛下が一番ジルニア王子に対して、言いたい事があると思ったし。



「ジルニア、私の執務室で何をしているのだ?」


「ち、父上? それに、ライアンや騎士団長まで…」


 陛下の声は低く、怒りに満ちていた。後ろ姿で見えないけど、表情も険しくなっているだろう。

 ライアン王子とガルバス騎士団長は無言だったけど、ライアン王子は腕を組み、ガルバス騎士団長はギリッと兜を持つ手に力を入れていた。そのうち兜は使い物にならなくなりそうだ。


 ジルニア王子に視線を向けると、机の端には書類の束が乗っていて、机の上に両手を置き立っていた。執務室に入る前に聞いた音は、椅子が倒れた音のようだ。ジルニア王子の金色の瞳は視線を彷徨わせていて、声も震えていた。動揺するのは仕方ない。



 ……ジルニア王子が、オルウェン王から何を聞いてるか知らないけど、オルウェン王が知らなかった私の魔法の力を、知る術なんて無いだろう。


 魔力感知をした時は、サンカレアス王国に魔力の反応は無かった。でも念のために、ジルニア王子……それと、机の両隣には騎士が二名立っていて、私は彼らを見据えて魔力の反応がないか見る。

 衛兵の人は鎧を着ていないけど、二人は鎧を付けていた。それとガルバス騎士団長が、ジルニア王子に従う騎士四名の話をしていたのを思い出し、この二人がそうだろうと推測する。



 私は瞬きをして、魔力の反応が誰にも無かった事に安堵する。オルウェン王と相対した時は、魔法の脅威があったけど、その心配は無いようで私は落ち着いた気持ちでいられた。



 ジルニア王子は最初、動揺していたけど机から手を離して私達一人ずつに視線を向ける。私とイアン、後ろにいるラージスからはすぐ視線を逸らしていたけど、ガルバス騎士団長を見て口角を上げたのが、私の視界に入った。


「ガルバス騎士団長、この場で父上とライアンを斬り殺しなさい。…私に逆らえば、ナイゲルト夫人がどうなっても知りませんよ?」


 ジルニア王子の言葉を聞き、ガルバス騎士団長の手の力が更に強まったようで、バキィッ…と音がして、床に割れた兜が落ちる。手を切ったのか、ガルバス騎士団長の拳が、赤くなっているのが見えた。


 ……騎士団長の奥さんが人質に?そんな事、一言も言ってなかったのに……


 私がそう思っていると、ガルバス騎士団長が手に持っていた剣の柄を握り鞘から抜き――……



 手に持つ鞘を、勢いよくジルニア王子に向かって投げ、騎士の一人がジルニア王子の前に庇うように立った。…顔に当たった騎士は、膝から床に崩れて蹲っている。


 騎士は剣を抜いて防ぐ暇が無かったのだろう。

 首が鞭のようにしなり、嫌な音が鳴っていたため、もしかしたら鼻が折れたかもしれない。

 顔を両手で抑えながら呻き声を上げている騎士は、手を伝って、床にポタポタと血が落ちていた。


「貴様の指示には、もう従わんッ!!」


 剣を前に構えたガルバス騎士団長の怒声が室内に響く。「兄貴…もう終いだ。無駄な抵抗はよせ。」

 ライアン王子も剣の柄を掴み、冷たい声で告げた。ジルニア王子の剣の腕は知らないけど、分が悪いのは明らかだ。



「オルウェン王が…ッ! あのお方がいる!お前達など」

「オルウェン王は既に捕らえております。」


 私は手をかざして、三人に魔法で光の鎖を作り出し、拘束する。「―――ッなんだ!?」驚愕するジルニア王子の前に、私はゆっくりとした足取りで陛下の前に出た。隣には、イアンが必ず付いてくれる事に、思わず口元が緩みそうになるのを堪え、ジルニア王子を見据える。



 ……オルウェン王の事を『あのお方』だなんて。



「…あの男に従うなんて、貴方の程度が知れますね。ジルニア王子。」

「……その声…まさか、ルミナス嬢?」


 ―――え?声で私って分かるの? 記憶力が良いのか知らないけど、親しくない男に声を覚えられるなんて、なんか嫌だ! 気持ち悪い!


 ゾワッと鳥肌が立ったけど、騎士二人が鎖を見て恐ろしそうに身を震わせている中、瞳を輝かせて鎖と私を交互に見るジルニア王子の姿に、オルウェン王は指輪の事だけじゃなく、ジルニア王子に魔法を見せていたのでは……と私は考えた。


 ……フードを外そうと思っていたけど…。やめておこう。わざわざ顔を見せる必要もないよね。


 扉の外から控えめに叩くノックの音がして「陛下、ジルニア王子…大丈夫でございますか?」と衛兵の声がした。後ろを振り向くと、ラージスが僅かに扉を開けて、なにやら衛兵と話をしているようだった。



「ガルバス騎士団長は、夫人を助けに行って下さい。人質なら、まだご無事なのでしょう?」


「し、しかし…」


 ガルバス騎士団長は固く剣を握ったまま、離さない。陛下は魔法を見て目を見開いていたけど、私の言葉を聞いて我に返ったようだ。


「騎士団長、今すぐナイゲルト夫人の元へ馳せよ。剣を愛する者を救うために使うが良い。」


「―――ッはっ!すぐに戻って参りますゆえ!」


 陛下の言葉を聞いたガルバス騎士団長は、手に持っていた剣をラージスに渡し、一目散に部屋を出て行った。本当は夫人の事が気掛かりで、仕方なかったのかもしれない。


 ………光の鎖によって捕らえたジルニア王子に、逃げ場はない。鎖が無くてもガルバス騎士団長やライアン王子がいたけど…話を聞く前にガルバス騎士団長に斬り伏せられそうだったし。

本当は瞬間移動で夫人の元に行けたら良いけど、ルミナスは夫人と交流が少なかったようで、姿をハッキリと思い浮かべれなかった。


あとは……





「ジルニア王子にお聞きしたい事があります。」




 クレア嬢の事だ。

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