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ルミナスは、救う

 閉じていた瞳を開けると……


 ……赤い……布? カーテン?


 私は上を見上げ、次に左右を確認してみると、目の前にあるのは、天幕付きのベッドのカーテンが、閉められた状態なのだと分かった。

 カーテンの色が濃いため、中の様子が見えない。


 周りを見回すと部屋の中央にベッドがあり、今私達は、ベッドの側面の方に立っているようだ。

 私の左右には手を握ったままのイアンとライアン王子。背後には肩を掴んだままのガルバス騎士団長とラージスもいる。


 皆が一緒に瞬間移動できたことに、私は胸を撫で下ろした。イアンは辺りをキョロキョロと見ているけど、イアン以外は初めての体験に、黙ったまま身動きしない。



「ライアン王子…陛下の元に本当に来たなら、もしや……ここは王妃様の寝室では?」

 ガルバス騎士団長が私の肩から、そっと手を離しライアン王子に囁きかけた。


 ……女性の寝室。しかも王妃様の部屋に大勢で押しかけたのはマズイよね。


 でも日が昇ってから大分経つのに、寝室にいるのが当たり前のように話したガルバス騎士団長の言葉を聞いて、王妃様はもしかして病気なのでは…と私は考える。それならジルニア王子の元に瞬間移動した方が良かったかな、と私が思っていると……



「いや、母さんの部屋は緑色のカーテンだった。……様子を見てから出立したから、間違いない。」


 ライアン王子も声を潜めながら話した。その声は部屋の外には聞こえないけど、ベッドに陛下がいるなら聞こえる音量だ。


「親父、寝てるのか?おい、開けるぞ…」


 ライアン王子がカーテンに手を伸ばし、中を覗くと………瞬間バッ!と勢いよくカーテンを開けた。


「親父……?」


 ライアン王子の声は僅かに震えていた。


 私の背後にいたガルバス騎士団長が「し、失礼します…」と躊躇しながらも、半端に開いたカーテンを端まで引いて、皆がベッドにいるであろう陛下の様子を伺い……




 その場に静寂が訪れる。



 ベッドに仰向けで寝ている陛下は、瞳を閉じていて、ライアン王子の声にピクリとも反応を示さない。

 顔色は蒼白で、私にはまるで彫刻のように見えた。

 陛下の体には、大きな布がかけられている。体に怪我をしているのか見えなくて分からないけど、陛下の顔色を見てイアンの時の事が頭を過り、私はドクドクと心臓から嫌な音が鳴り、唇が震えて声が出せなかった。


 ガルバス騎士団長の「へい、か…」と暗い呟きが私の背後から聞こえる。




「かすかに、息遣いが聞こえる。」


 イアンの言葉を聞いて、立ち尽くしていた私は陛下の側に寄って両手をかざす。魔法を行使したことで、陛下の全身が淡い光に包まれた。




「……ぅ……ライアン?」

「親父ッ!」

「陛下ッ!」


 瞳が開かれて、顔を覗き込んでいたライアン王子に陛下が視線を向けた。顔色も良くなり、私は安堵の息を吐く。


 すると……ライアン王子とガルバス騎士団長が声を上げた為か、扉の外にいたであろう衛兵が、ドアを勢いよく開ける音がした。


 ノックもせず、陛下の断りもなく部屋に入るなんて、普通ならあり得ない事だ。私が疑念を抱きながら後ろを振り向くと、二名の衛兵が膝から床に崩れ落ちる姿と、その背後にイアンとラージスが立っていた。私がその光景に目を丸くしてると……ガルバス騎士団長が「良い判断だ」と呟く声が私の耳に入る。


 ……二人が離れていた事に気付かなかった。


 倒れた衛兵は動かないことから、二人が気絶させたのだろう。ラージスがそっと扉を閉めていた。



「私は……助かったのか?ベッドに寝たきりで日にちの間隔が分からぬが、随分と経ったようだな。ルミナス嬢の救出に向かった話を…ジルニアがしていたのは覚えているが、それ以降は意識が朦朧として良く覚えておらぬ。ライアンがここにいるなら、外交から戻ってきたのだろう? ルミナス嬢はどうしたのだ?ジルニアは……そうだ、指輪……指輪をッ!」


「ルミナス嬢なら、ここにいるじゃねぇか。親父が助かったのは、ルミナス嬢に治してもらったおかげだぜ。指輪もルミナス嬢に預けてあるから大丈夫だ。」


 上半身を起こして、取り乱した様子の陛下にライアン王子が陛下の背に手を添えながら、落ち着いた口調で話しかけた。私は被っていたフードを外し、陛下に顔を見せる。


「お久しぶりでございます。国王陛下。」


 私がカーテシーをして微笑むと、陛下は目を見開き固まっていた。


「ルミナス嬢? しかし…その姿……」


 ……陛下と会うのは卒業パーティー以来だ。その時から比べると今の私は別人に見えるのかもしれない。

 光ってるみたいだし。



「わたくしは、ルミナス・リト・ファブール。光の者と言えば、国王陛下ならお分かりになるでしょうか?」


「光の者……。そうで、あったか。ダリウスは、全てを話したのだな。光の者は大いなる力を持つと、私は伝え聞いている。しかし容姿が変わり、人を癒す力があったとは知らなかった…。」


 私の言葉を聞いた陛下は、納得したように頷いて答えた。実際はお父様から話を聞いたわけではないけど、力を得た経緯を話すと長くなるので、私は黙ったまま微笑んで相槌を打つ。

 陛下がゆっくりとした動作で両脚を床に付けて立ち上がると、私に向き直り……跪いて頭を垂れた。



「陛下…どうぞお立ちください。」


「……ルミナス様。お力を私などに使っていただき、感謝致します。ダリウスからは光の者の存在を隠すために、貴方様に対して侯爵令嬢として接するよう、言われていましたが、私は先王から光の者は敬うべき存在であると聞いております。」


 頭を垂れたまま話した陛下は、顔を上げて「マーカスの無礼な行為、誠に申し訳ございませんでした。」と沈んだ声で話、再び深く頭を下げた。

 周りを見れば、イアンが衛兵を壁に寄せていて、ガルバス騎士団長とラージスも私に向かって跪いている。



「……俺は、諦めていた。いや、ベリルが指輪を持っていた時点で、最悪な事態は想定していた。親父の顔を見て…もう、長くない。救えない。無理だと……。けどッ、ルミナス嬢が救ってくれた!グラウス王国だけじゃなく、親父を……ッ救ってくれて……」


 ライアン王子は頭を垂れていて表情は見えないけど、言葉を詰まらせていた。最後はよく聞こえなかったけど「ありがとう」と言った気がする。


「陛下を救っていただき、ありがとうございますッ!」


 頭を垂れたままのガルバス騎士団長は、肩が僅かに震えていた。



「……皆さん、お立ちください。指輪はどうやら、ジルニア王子が国王陛下から奪った物のようですね…。何があったか、教えていただけますか?」


 私が立つように促すと、跪いていた皆が立ち上がった。


「マーカスや、ライアンが王都を出た翌日に…私はジルニアに毒を盛られました。それ以降、体が上手く動かせずにベッドに…。」


「……毒を…。そう、だったのですか。」


 ……陛下の様子を見た時に、もしかしてと思っていたけど…ジルニア王子が……。


「親父は兄貴に指輪の力の事を話していたのか?俺は何も聞いてねぇぞ。親父の指輪とオルウェン王のせいで、グラウス王国が滅びるところだった。ルミナス嬢のおかげでグラウス王国の人々は無事だったがよぉ……。」


「―――ッなんだと!? グラウス王国で一体何があったのだ!?」


 ライアン王子の言葉を聞いた陛下が、ライアン王子に勢いよく詰め寄り、問いただしている。


「国王陛下、落ち着いて下さい。それで、ジルニア王子は指輪の事を知っていたのですか?」


「う…む。取り乱してしまい、申し訳ございません。息子達には、代々王が伝えていく事を何も話はしておりませんでした。ルミナス様の事もありますし、私が退位する時に話そうと思っていたのですが…ジルニアはオルウェン王と懇意にしているので、オルウェン王から指輪の事を聞いたのでしょう。」


 私が尋ねると、陛下は私に頭を下げて答えてくれた。陛下に頭を下げられたり、皆に跪かれたり……正直敬語もやめてほしいと思うけど、今はジルニア王子をなんとかする事を優先する。



 ……オルウェン王、か……。


 元凶がオルウェン王だと知り、再び怒りが湧くけど、陛下はこの件には関わっていない事が分かった。



 次はジルニア王子に会いに行こう。



 私はそう思いながら、陛下を見据えた。

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