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ルミナスは、試みる

「話を聞く限り…ライアン王子達は、国に急ぎ帰国した方が良いだろう。君達はオスクリタ兵とオルウェン王の戦いに尽力してくれた。サンカレアス王国が我が国に兵を差し向けた事は許せぬが、サンカレアス兵は森を抜けて来なかったしな。差し向けた奴を許すつもりもないがね…」


 陛下が厳しい表情をしながらライアン王子に向かって話すと、ライアン王子は真剣な表情で「はい、事の真相を確かめ、再びこの国に訪れたいと思っております。」と告げた。


 そして私の前で円になってライアン王子、ガルバス騎士団長やお父様とお兄様、ラージスとマシュウがサンカレアス王国への帰国と森で待機させてる兵達をどうするか、話し合いを始めようとしている。



「ルミナスは、この国に残るんだろう?」

「いえ、わたくしはサンカレアス王国に行き、国王陛下に会いに行ってきます。」


 サリシア王女が私をチラリと見て尋ねてきたので、私はハッキリとした口調で答えた。

 円になっていた皆が、ガバッとこちらを見て驚いた表情をしている。


「ルミナス嬢は、グラウス王国に残りたいって話してなかったかぁ? 」


「そのつもりでしたが……気が変わりました。直接お会いし、私も事の真相を確かめたいのです。それに、サンカレアス王国の民達はグラウス王国に対して誤解を抱いています。私が無事な姿を国民に見せるべきでは?」


 ライアン王子はため息を吐き「ルミナス嬢の気持ちは分かったけどよ。だがなぁ…」と言ってお父様に視線を向けた。


「ならん! 王都で何があるか分からないのだぞ?ルミナス、お前はブライトと領地に帰るのだ!」


「……わたくしには、力があります。誰に反対されても、気持ちは変わりません。」


 私の言葉を聞いたお父様は、眉間の皺を寄せて固く口を結んだ。前の私なら、その表情を見て怒ってると思うけど……そうじゃない。きっと心配してくれてるんだ。


「ルミナスー。オルウェン王が起きるまでに戻ってきてよ。」

 アクア様が腕を組みながら、私に無理難題な事を言う。


 ……オルウェン王の事を、どうするか気になるけど。でも、起きるまでに戻るなんて、そんな無茶な……。

 私がアクア様に返事をしないまま、どうしようかと悩んでいると……


「あれ? ルミナスは前に、一瞬で行き来してたじゃないか。」


 アクア様の言葉にハッとする。

 リゼ様とフラム様が「ルミナスちゃん、そんな事できるの?」「なんじゃ、気になるぞ。」とアクア様に詰め寄っていた。


 そうだ、瞬間移動があるけど……前にした時は、魔力感知をして瞬間移動した。今サンカレアス王国には魔力の反応がないし、無理……いや、出来る……?

『魔法は想像力で行使できる』


 ………試してみようかな。


 近場で試そうと思った私は、グラウス王国にいる人で、姿を想像できる人を思い浮かべる。

 ラナちゃん? やめとこう。驚かせちゃう。


 そうだ! マナにしよう!城の中にいるだろうし、そんなに人目もつかないよね!驚かせるのに変わりはないけど……なんか、マナなら笑って許してくれる姿が想像できた。

 俯いていた顔をガバッと上げて「すぐ戻ります!」と皆に言うと、集中するために瞳を閉じる。


 今イアンに、手を掴まれた気が……




「ふぎゃあーーッ! え? い、イアン?………え、えぇ!? もしかして、ルミナスさん!?」


 瞳を開けると、私の目の前に驚いた表情で立つマナがいた。私が隣を見ると、私の手をしっかりと握って目を見開いてるイアン………


 そして周りには、私達を見て固まっている大勢の人達がいた。ここは見覚えがある。広場だ。


「えっと……あ、後で説明するから!」


 ごめんね!それだけ告げると私はサリシア王女の姿を思い浮かべ、再び瞬間移動して元の場所に戻る。



「……ただ今戻りました。」


 私は目の前に立つ、サリシア王女に微笑みかける。目を丸くしているサリシア王女が「これは…あの時のか。」と思い出すようにして呟いた。陛下も一度目にしていたので「ああ、謁見の間でか…。」とサリシア王女の言葉に反応し、それ程驚く様子は無い。


 イアンは私の手をギュッと握ったままで「手を離しても良いですか?」と私が目線を合わせずに話すと、イアンは「ご、ごめん!!」と慌てた様子で手を離した。


 ……イアンの顔をまともに見れない。


 好きだと自覚してからは、イアンを意識すると恥ずかしくて私は仕方がなかった。胸の高鳴りを落ち着かせ後ろを振り向くと、円になっていた皆は私を見て言葉が出ないようだ。



「わたくしは一瞬で移動が出来る術を持ちます。これでサンカレアス王国まで行き、陛下と話をしてすぐに戻って来れますし、不測の事態が起こっても逃げる事が可能です。」



 お兄様も私の瞬間移動を目にしてるから、皆より我にかえるのが早く「ルミナスは凄いね。」と目を瞬かせて話しした。ライアン王子は「まじかよ…。」と動揺を隠せない様子で、ガルバス騎士団長とラージスやマシュウは、まだ唖然として信じられないような目で私を見ている。お父様は私からは視線を逸らしていて、何か考え事をしているようだった。


 アクア様が「これだよ。僕は知らなかったけど、リゼとフラム爺は知ってる?」と私の方を指差していて、リゼ様は「私も知らない魔法だわ。ルミナスちゃんは凄いわねぇ。」と私に感心したような口調で話した。フラム様は「ふむぅ…。」と唸るような声で、自身の髭を撫でている。




 ……私の(こころ)みは成功した。イアンも一緒に瞬間移動出来た事は驚いたけど。私と手を繋いでいたからかな?それなら……



「ライアン王子! 私と共に陛下の元へ参りましょう!」


 私がライアン王子に向けて腕を突き出し、手の平を見せるようにして、その手を取るように促す。

 ライアン王子は躊躇しているようだったけど…


 ――――え!?


 私の手に、いくつもの手が置かれる。

 イアン、ガルバス騎士団長、ラージスまで……


「俺はルミナスさんと一緒に行くからな!」

「陛下の元に参るなら、私も共に!!」

「私もお役に立ちたいです!」


 ――――定員オーバーです!


 そんなに何人も出来るか分からないし、いっぺんに話し掛けられて私も戸惑う。


「ライアン王子、兵達はどうするのですか?ルミナスと共に行けるとしても、二手に分かれなければ。本当はルミナスに行ってほしくないが…昔からお前は頑固な所があるからな。」

 全く…そう話したお父様に、お兄様が「頑固な所は父上によく似ています。」と可笑しそうに話して、お父様に睨まれていた。


「えっと…わたくしも、何人まで連れて行けるか分からないのですが…」

「ルミナスに触れていれば、大丈夫だと思うよ。」


 こちらを見ていたアクア様が助言をくれた。

 アクア様が何故そんな事が分かったか、不思議に思ったけど、魔法に長けたアクア様の言葉を信用する。





 話し合った結果、私の左手を握るイアン、右手にライアン王子、私の背後にガルバス騎士団長とラージスが私の肩をそれぞれ掴んでいる。

 私とイアンはしっかりとフードを頭に被っていた。イアンは獣人だし、私は髪の光を隠す為だ。

 お父様とお兄様、マシュウは兵達と共に帰国する事になった。もしも王都で戦闘が起こった場合、ガルバス騎士団長は頼りになるし、お父様は娘である私が無事でありグラウス王国に決して非はない事を、民達に知らせながら兵達を帰すという。

 牢屋に入れたままのマーカス王子も、連れて帰らなくてはいけないし。


 話し合いの時サリシア王女とイアンが揉めていたけど………


「隊長、俺の任務はまだ終わっていません。」

 その言葉を聞いたサリシア王女は、苦い顔をしていた。ライアン王子が「付いてくるのは構わないぞ」とサリシア王女に話して「フン、分かった。さっさと行け。父上、私は町の様子を見てきます。ついでに牢から王子を出してきましょう。置いてかれても困りますので。」と不機嫌な様子で話した。

「迷惑かけてすまねぇな。」ライアン王子が笑みを浮かべると「別に良い。……この件が片付いたら、今度は本気で手合わせしてもらうからな。」サリシア王女がジト目で告げて、町へと戻っていった。


 イアンが一緒に来るのを、私は反対しようと思った。グラウス王国ではサリシア王女とイアン、将来どちらが国王になるか知らないけど、他国にまで付いてきてもらうのは気が引けたからだ。

 でも一緒に行くと言ったイアンの言葉が嬉しくて、反対する言葉が出なかった。



「それでは、陛下の元に向かいます。皆さん絶対に私から手を離さないでください。」


 私は緊張をほぐすため、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。先程は自分一人だったから、失敗して知らない場所に出たとしても、アクア様の魔力を感知して戻れば良いと思っていた。けど、今は皆も一緒だし失敗できない。


 周りで私達の様子を、お父様達が固唾を飲んで見つめている。




 私は瞳を閉じて、サンカレアス王国にいる陛下の姿を思い浮かべ………瞬間移動をする。

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