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ルミナスは、胸をなでおろす

 ルミナスの魔法により空から降り注いだ光の粒は、人に触れると、全身を淡い光で包み込み癒しを与えた。それは傷が無い者にも同様に起こり、空から地面を見下ろしたなら、グラウス王国内が光に満ち溢れているのが分かる。


 町にいる人、怪我をしている村人、オスクリタ兵……

 ルミナスの魔法は敵味方関係なく、癒しを与えた。

 オルウェン王の攻撃魔法とは違うが、もしこれがオスクリタ兵と戦っている最中なら、ルミナスの魔法は火に油を注ぐ行為である。



 ―――どうしよう! キャンセル! ……ダメだ出来ない! 魔法に自己判断機能なんて付いてないし…。


 私は自分の魔法を消そうしたけど、光の檻や壁と違って人々を癒すために放たれた魔法は、その目的を遂げるまで続く。一度行使した魔法は、途中で消すことは出来ないのかもしれない。



「獣風情が、私に触れるなッ!!」


 オルウェン王の威勢のよい声が、私の耳に入る。

 サリシア王女の拳を受け、呻き声を上げていたオルウェン王にも魔法が効いてしまったようで、私は焦ったけど……

 取り抑えていたライアン王子が、オルウェン王の頰に拳を当て、サリシア王女が背中にかかと落としを喰らわせてオルウェン王は悶絶した。

 ガルバス騎士団長はベリルの側にいて、ベリルは傷が治った様子はなく、魔法が効かなかった。

 側で確認したわけじゃないけど…もう死んでいたからだろう。

 死んでいる人には、私の魔法は効かないようだ。



 ……広範囲の魔法は、やめておこう……。



 そう思いながら、私の後方にいるギル騎士団長の、喚く声が聞こえていたので、後ろを振り向く。

 私の背後にいたイアンも、ギル騎士団長の方を見ていた。光の檻は皆を守ることに集中した時に、魔法が解けていたようだ。いつ来たのか気付かなかったけど、トウヤとシンヤ…ラージスとマシュウの姿があり、隊の人達と一緒にいた。ギル騎士団長は縄で縛られて、身動き出来ない状態にされている。



 ……国王陛下も来ていたんだ。


 アクア様達の側で、国王陛下が地面に跪いて話をしているようだった。隊の人が報せに行ったか、アクア様が陛下に、指輪を通して話しかけたのかもしれない。



 とりあえず周りが無事な様子を見て、私は深く息を吐いて、肩の力を抜く。

 再び空を見上げると、何もなく日が辺りを照らしていた。皆を守ることができて、ホッと胸をなでおろす。



「ルミナスさ」

「ルミナスッ!!」


 お父様が後ろから勢いよく私に抱きついて来て「ぐふッ」と変な声が出てしまった。イアンの声も聞こえた気がしたけど…「すまないルミナス!」お父様が私の両肩に手を置いてガバッと離れる。私は振り向いてお父様と向かい合った。


 ……良かった。お父様の顔色が良くなってる。


 傷口はどうなっているか見えないけど、元気な様子を見れて安心した。


「様変わりしていて驚いたが、お前が無事でなによりだ。先ほどの光は…もしやルミナスの魔法なのか?宝石箱は、ジルニアに託してあったのだが…」


「はい、お父様。私はファブール王国の女王としての名と、力を受け継いだのです。宝石箱もお兄様に会って受け取りました。……落ち着いたら、お母様の話を是非聞かせてください。」

 

 お父様は私の言葉を聞いて、驚いた表情をしていたけど「アイリスにも、お前の魔法を見せてやりたかったな…」と僅かに眉を下げて話した。私は自分がつけている指輪に視線を向けると、指輪の宝石が色を失っていることに気づく。アクア様達の魔力の抑えを外し、光の者の魔力もなくなった為だろう。



 ナハト王子が馬から降り、オスクリタ兵に馬を預けてこちらに歩いてくる。スキンヘッドの人も一緒だ。

 二人が私の前に向かい合うように立って、お父様が私の隣にくる。


「あの光は一体なんだったのでしょうか?兄様の力を防いだだけではなく、先ほどの光でゼルバの傷が癒えたのです。……シルベリア侯爵も、傷が癒えたのですね。」


 ナハト王子は、お父様の姿を見て安堵の笑みを浮かべていた。馬に乗っていた時は分からなかったけど、ナハト王子は白い肌と華奢な体つきで、イアンよりも見た目は幼く見える。

 隣に立つ人はお父様より背が高く、茶色の瞳に目尻には皺がある。鋭い眼光と大柄な体を見て、ガルバス騎士団長と似ているな…と私は思った。


 ……この世界にも、スキンヘッドの人いるんだ。


 ルミナスの記憶でも、今までも見るのは初めてだった。失礼かなと思いつつ、目線が頭にいってしまう。


 視線をナハト王子に戻すと……目が合った。

 ナハト王子は、黒色の澄んだ瞳をパチパチと瞬かせていて「……あ、えっと、シルベリア侯爵。こちらの、女性は…?」と歯切れ悪く質問した。


「私の愛する娘、ルミナスです。」


『愛する』…私は思わず口元が緩む。お兄様から、お父様が私を想ってくれている事は聞いたけど、こうして言葉にされると嬉しく感じた。


 お父様の言葉を聞いたナハト王子は目を見開き「あなたが…ルミナス嬢…」と僅かに震えた声で言った。


「以前、兄様が誰かと会話していた時に、ルミナス嬢の名を言っていました。……兄様は自国内の民達だけではなく、ルミナス嬢や他国の人を…多くの人々を苦しめようとした…。」


 ナハト王子は沈んだ声で話すと、オルウェン王に視線を向けた。サリシア王女が足の力だけで地面を割った事が頭を過った私は、オルウェン王が死んだのでは…と思ったけど、どうやら気絶しているだけみたいだ。ライアン王子が「よく手加減できたなぁ?」とサリシア王女に話しかけて「…簡単にコイツを殺す訳ないだろう。」とサリシア王女が不機嫌な様子で答えていた。隊の人が二人川を飛び越えて枷を持ってきて、それをオルウェン王の手足に付けている。


 ふと、イアンが側にいないことに気づいて姿を探すと、ベリルの側にいるガルバス騎士団長の隣に立っていて、何か話をしているようだった。



「私はナハト・ファン・オスクリタと申します。……ルミナス嬢にお尋ねしたいのですが…その…先ほどの光は、あなたの力なのでしょうか?」


「はい。わたくしがやりました。」


 ナハト王子が私に視線を戻して躊躇しながら質問してきた。私はそれに正直に答える。散々魔法を使ってるし、これからも私は怪我をした人を見たら魔法を使う気でいる。誤魔化す必要はないだろうと思ったためだ。


 すると、突然ナハト王子と隣に立つ人が、私の目の前で跪き、頭を垂れた。私が目を丸くして、二人の行動に驚いていると…


「ルミナス嬢、あなたに心からの感謝を伝えたい。あなたのお力で、この国の人々が傷つくのが防がれました。そして民を…兵達に対しても光を与えていただき、ありがとうございます。……暖かい光を受けて、私自身も体が軽くなりました。」


 ナハト王子は、ゆっくりと穏やかな声で話をした。



「……(われ)はゼルバと申す。我もルミナス嬢に深く、感謝を…ッ!」


 ゼルバは渋い声で地面に視線を向けたまま、肩が僅かに震えていた。隣でナハト王子が頭を上げてゼルバを見ながら口を固く結び、涙を流すのを堪えるような表情をしている。


「お二人とも、立って下さい。わたくしは……自分の成すべき事しただけです。」


 私は二人に向かって立つように促した。立ち上がった二人は私に対して、もう一度頭を深く下げている。



「ルミナス、その者達は?」


 サリシア王女とライアン王子が、隊の人達にオルウェン王を任せて私の側に来て尋ねた。見ると、ガルバス騎士団長とイアンもこちらに向かって歩いて来ている。


 ……あれ?


 イアンの腰には袋が下げられていた。剣だけ下げていたのを知っていたので、ベリルが腰に下げていたのを思い出した私は、きっとベリルの物だろう…と思い至る。



 ナハト王子とゼルバが名乗り、サリシア王女達もそれぞれ名乗ると「あなた方が…」とグラウス王国とサンカレアス王国の王族が集まっている事に、ナハト王子は少し緊張した様子だった。

 サリシア王女がナハト王子を、ずっと鋭い眼差しで見てるからかもしれないけど…オルウェン王のことがあるし仕方がないだろう。


「兄様がした事は謝罪して済むことではありませんが…申し訳ございませんでした。兄様を止めていただき、ありがとうございます。」


 そう言ってナハト王子とゼルバは、サリシア王女達に対しても深く頭を下げた。その姿を見たサリシア王女は眉をしかめる。


「謝罪も感謝も不要だ。私の剣を受けたくなければ、オスクリタ兵を今すぐ我が国から出すが良い。父上も交えて今後の事は後で話すとしよう。とりあえず捕らえた者達を牢に…」


 と淡々と話している途中で……




「そ奴は、儂が処分させてもらうのぉ…。」




 その声は、ゆったりとした口調ながらも静かな怒気が含まれていた。


 その場に緊張が走る。

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