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ルミナスは、怪訝に思う

 

「くっくっ……もう存在しない国だぞ。その国の王を名乗るのか?滑稽だな、ルミナス。」


 オルウェン王が私を嘲笑いながら、側にいるベリルに視線を向けた。


「……ベリル、足の血を止めろ。見苦しいぞ。」

「かしこまりました。」


 ベリルはオルウェン王に頭を下げると「火よ、灯せ」と言って、小さな火を手の平の上に出し、それを自らの傷口に当てた。

 焦げた匂いが漂ってきて、思わず私は顔をしかめて口元に手を当てる。


「これでお前もまだ保つな。死の間際まで私の役に立つが良い。」

「……光栄で、あります。主…」


 苦痛に顔を歪めながらも、ベリルはオルウェン王の言葉を聞き、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 二人のやりとりを見て、人を物のように扱うオルウェン王も、それに従うベリルも、私には狂っているとしか思えなかった。



 ルミナスには、ベリルの心の内を知る必要も無いし、知りたいとも思わないだろう。

 ベリルはオスクリタ王国の鉱山の麓にある、町の中にあった孤児院で育った。孤児院は十八歳までに働き口を見つけ、出て行く決まりになっている。オルウェンがまだ王子であった頃に視察でよく鉱山を訪れ、その周辺の町に立ち寄り、孤児院にも顔を出していた。


 そしてオルウェンは、孤児院の男達を『救済』との名目で集め『有能な奴は、私に仕えさせてやる』と言った。孤児院にいたベリルや彼らは、驚きに目を見張った。王族にお目にかかるのも自分達には恐れ多いのに、声をかけられたのだから。



 オルウェンは集めた者達に教育を施した。


 人を殺す術を学ばせた。


 オルウェンはただ、自分にとって使える人材を探していただけだった。


 オルウェンが即位し、オルウェンの本性と魔法を目にした彼らは、大半がオルウェンを恐れた。

 しかし、ベリルは違った。

 ベリルは、オルウェンに忠誠を誓った。

 ベリルがジルニアと同じように、自分に従順な姿勢を見せた事で、オルウェンは指輪の力と光の者であるルミナスの存在、そして自分の野望を話し聞かせる。


 このお方が全てを統べる王となる。


 ベリルはそう思い、オルウェンの野望を叶える手伝いが出来ることに、歓喜した。


 ギルとベリルでは、オルウェンに仕える心構えが全く違う。ギルはルミナスの魔法を目にし、自分の私欲に目が眩んだが、ベリルの気持ちが揺らぐことはない。


 この身は主のために。


 それがベリルの本心であった。



 ―――――――



「サリシア王女、魔力の反応は三つ。オルウェン王の右手の指輪と、ベリルの左手の指輪、そして右手首にも反応があります。ギル騎士団が霧を発生させた魔法を使い、その後姿を見た際に魔力の反応が無くなっていましたので、もう魔法を使えません。指輪以外の物は魔法を使うと魔力が無くなり、使えなくなるようです。」


 私が視覚で捉えた魔力の反応と、自分の推測を話しした。


「……分かった。やる事は変わらんな。二人の手首を切り落とせば良いのだ。おい、今のを聞いただろう。手首を狙え。」


 するとサリシア王女が隣にいるライアン王子に話しかけ、ライアン王子は「りょ〜かい」と手に持っていた剣を鞘に収めて、屈伸をしていた。ガルバス騎士団長は「心得た」と外していた兜を再び被り、前を見据える。

 私の隣に立つイアンが、私を背に庇うように立とうとするのが視界に入ったけど……それを私が手で制して、イアンが目を丸くして私を見る。



 ……私を庇っていたせいで、イアンを危険な目に合わせてしまった。今度は……私が守る。


 私が無言のまま、イアンを見つめていると「……なんだ?」イアンが呟き、オルウェン王がいる方向に顔を向けた。


 私もそちらに顔を向けると、ある異変に気付く。



 北側と橋の方に向かって二手に分かれて進んでいたオスクリタ兵が、こちらに少しずつ引き返しているようだった。オスクリタ兵が動きを止めていたのは知っていたけど、私が巨大な光の壁をつくり、行く手を塞いだ為だと思っていた。


 オルウェン王の後方にいるオスクリタ兵が、何事かざわついているように見える。オルウェン王はオスクリタ兵を背にしているため、気づいていないようだ。


 ガルバス騎士団長や、ベリルが乗っていた馬は、この場所で戦闘が起こった時に逃げたようで、いなくなっている。唯一馬車を引いていた馬は御者台にいたオスクリタ兵が馬を宥めたようで、私達から離れた場所に残っていた。



 私がオスクリタ兵の様子に、怪訝に思っていると……




 突如、地鳴りのような歓声が聞こえてくる。



 私にも聞こえたのだ。当然オルウェン王やベリルも、兵達の異変に気付く。


「何をしているッ! 騒がしいぞ!」


 オルウェン王が振り向き怒声をあげ、オスクリタ兵の方を見る。ベリルは私達を警戒して顔を向けたままだが、北側と橋の兵達の様子に気付いたようで、眉をひそめていた。


 ……あ、そういえば…アクア様達…。


 イアンの事で頭がいっぱいだった私は、アクア様達の事を思い出し、そっと川の向こう側の様子を伺う。


 アクア様が前に執務室で椅子を出した時のように、きっと魔法で作り出したのだろう。椅子に座りテーブルにはカップや飲み物があるように見える。三人で談笑しているようだったので、アクア様達の事を私は後回しにした。私から呼び出して、放置したままで申し訳ないけど、オルウェン王達をなんとかしないと……そう思ってオルウェン王とベリルに視線を戻す。

 ギル騎士団長も光の檻に閉じ込められたままだった。魔法の持続時間が分からないけど、壁際にいた隊の人達が側で見張ってくれてるので任せておく。



 先ほどの歓声が、更に勢いを増してオスクリタ兵の全体に行き渡っていた。前方の兵は、私達の方ではなく後ろを振り向いて後方を見ている。

 オスクリタ兵が真ん中で分かれて、道ができていた。


 まるで王の凱旋のようだと、私は思って見ていると……


 ……誰だろう?


 馬に乗った人々が、先頭に一人とその後に二列になって、こちらに向かってきている。先頭の人物が何かを兵達に訴えかけているようだった。


 オルウェン王が完全に後ろを振り向いた。背中がガラ空きだが、ベリルがオルウェン王の背を守るように立つ。


 サリシア王女達の方を見ると「援軍か…?」とサリシア王女が呟き「そんな風には見えねぇ〜けどな。」とライアン王子が言って、様子見しているようだった。



 ………私に続け? 王を討つ…?



 先頭の人物の声が、聞こえてくる。そしてオスクリタ兵の前列まできて、馬に乗って後ろをついて来ていた人々は、その先頭の左右に分かれて横並びになり、オスクリタ兵を後ろに引き連れながら、こちらに向かってくる。北側と橋に向かっていた兵達もそれに加わっているようだ。



 ……少年?


 ハッキリと姿を捉えられると、先頭の人物は少年だった。黒色の長袖で丈の短いチュニックを着て、下はズボンに革製のブーツを履いている。腰に革製のベルトをつけ、剣を下げていた。服の袖に白色の刺繍が僅かに施されていて、シンプルな装いだ。小柄な体格で黒い瞳は、強い意志がこもっていて、オルウェン王を見据えている。大勢のオスクリタ兵を率いるその姿は、威風堂々としている。


 横並びに馬に乗る人達は、皆がマントを羽織りフードを被っている。唯一少年だけがマントを羽織っていないため、一際目立って見えた。


 オルウェン王とベリルの、逃げ場を塞ぐような形でこちらに来ると動きを止め、少年が一人馬を歩かせオルウェン王のすぐ目の前まで来る。少年が手を上にかざして、オスクリタ兵の声がピタリと止み、その場に静寂が訪れた。




「何故ここに来たのだ……ナハト。」


「兄様。貴方を止めに来ました。」


 オルウェン王の低く怒りのこもった声が少年に向けられる。少年は僅かに身じろぎしたが、オルウェン王から視線を逸らさなかった。


 ……オルウェン王の弟、ナハト王子……。


 少年が誰か分かったけど、何故ここに来たのか私も疑念を抱く。オルウェン王の様子だと、ナハト王子がこの場に来たのは予期せぬ事だったみたいだ。


 ……さっきナハト王子がオスクリタ兵に訴えかけていた言葉……もしかして反乱を起こしたとか?


 オスクリタ王国の内情も、ナハト王子の事も詳しく私は知らないけど、オルウェン王が自国でも民に対して非道な行いをしていたなら、反乱が起こってもおかしくない。


「かすかだが、殺気を感じるな。……動こうとしてるのか。我々も行くぞ。イアンはルミナスの側にいろ。」


 サリシア王女がナハト王子やその周囲に目をやりながら小声で話し始めて、イアンが「分かりました。」と言って返事をした。



「……お前が私を止める?臆病なお前に何ができるのだ。私に逆らうなど愚かでしかない。お前も、後ろにいる兵達も……その身をもって知るが良い。」


 冷たい声で告げると、オルウェン王がナハト王子に向かって手をかざそうとし………



 オスクリタ兵の陰から二人の人物が飛び出し、サリシア王女とライアン王子、ガルバス騎士団長の三人もオルウェン王とベリルに向かって駆け出した。

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