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ルミナスは、癒す

 膨大な魔力がくることに、私は身構えていた。体が熱くなったり痛くなるのでは、と思っていたけど………

 そんな事はなかった。

 この感覚には覚えがある。



 前世の記憶が戻った時。



 あの時と同じように、自然と私の体は魔力を受け入れていた。魔法を何度か使って、この体に徐々に魔力を増やしていたのも、一つの要因かもしれない……



「―――ッてめェ! いい加減にしろやァアア!!」


 ギル騎士団長の怒声が私の耳に入る。


 イアンの足元がふらつき、腕が下がり剣の切っ先が地面についていた。


 ―――イアン!


「ヒャハハ! くたばりやがれッ!!」

 ギル騎士団長が笑い声を上げながら、イアンに剣を振りかぶる姿が見え……


「イアンを傷つけさせない!!」


 私はギル騎士団長に向けて手をかざす。


「なッ!……なんだァ!?」


 イアンとギル騎士団長の間に光の壁が出来る。

 頭の中でバリアーを想像したけど、規模がでかい。

 イアンとギル騎士団長の間にできた壁は、橋の方まで続きオスクリタ兵の行く手も塞いだようだ。

 上を見上げると空に届きそうなほどある。


 ……ちょっと…いや、かなり大きくなっちゃった。


 二人の間だけ塞ぐつもりだったけど、私が魔法を扱うのが未熟だからなのか、それとも膨大な魔力によって想像以上の魔法が行使されてしまうのか……


 どちらにせよ、魔法を使う際は気をつけようと心に留めておく。


 淡く光る壁は、厚さは薄いようで向こう側が薄っすらと見える。ギル騎士団長が壁に向かって剣で斬りつけるが、壁はビクともしなく剣を弾いていた。



「イアン! 大丈夫!?」


 私は側に駆け寄り、イアンの正面に回り込むと……その姿を見て息を飲む。


 イアンの大きな瞳は僅かしか開いていなく、顔色は青白くなっていて、頰や腕と足に切り傷や突かれたような傷……その箇所から血が流れ、地面へと伝っていた。


「イアン! イアンッ!!」


 私が名を呼んでも、イアンは私を見ずに反応を示さない。イアンの目線は、光の壁の向こう側で喚いている、ギル騎士団長に向けられていた。イアンの手は剣の柄を固く握り締めていて、私がその手に触れても離そうとしない。



「……ありがとう。わたしを、守ってくれて……。」


 私は目に涙を溜め、イアンの腰に手を回してそっと抱きしめる。指輪に魔力が注がれた時、アクア様、フラム様、リゼ様の三人が私に教えてくれたことを思い出しながら……


『魔法は魔力を扱う者の、想像力で行使できるよ。』


『そうじゃな。魔法に込める想いが強いほど、その威力は凄まじいものになるぞ。』


『ルミナスちゃんが守りたいと言った、その想いを大切にね。』



 この人の毒を傷を……



 全てを癒して。


 そう私が強く想っていると……



 イアンの全身が、眩い光に包まれた。


 思わずその光に私は目を瞑り、イアンの胸当てに頭を押し付ける。




「……ルミナス…さん?」


「イアン!」


 イアンの声がして、私は目を開け顔を上げる。イアンの瞳に生気が戻り、見開いた瞳が私を映している。

 顔色も良くなっていることに安堵し「あ! 傷は?痛くない!?」私はイアンの傷があった箇所に視線を移し、傷口が塞がっていることを確認する。


「え? え! ちょ……ルミナスさん!?」

「あ! ごめんなさい!」


 抱き締めていた事を忘れていた。私はイアンから離れ、フゥ…と息を吐く。



「――ッルミナスさん! 危ない!!」


 私はイアンに肩を抱かれ引き寄せられる。私は自分がいた場所を見ると、ギル騎士団長が私に飛びかかって来ていたようだ。光の壁は、いつのまにか消えていた。イアンを治す事に集中していたせいか……と、私は消えてしまった理由を考えようとしたが、今はギル騎士団長に意識を向ける。



「お前、スッゲェじゃねぇか! なんでオルウェン王がお前を欲しがっていたか知らなかったが……俺まで欲しくなっちまったゼ!」


 ギル騎士団長は剣を手に持ったまま、爛々《らんらん》とした瞳で、私を見つめている。


 川の向こう側を見ると、サリシア王女のいる辺りの地面が割れていて、側にはライアン王子がいた。

 ガルバス騎士団長とオルウェン王が相対していて、ベリルはオルウェン王の側で地面に片膝をついていたが、顔は上げていてガルバス騎士団長を見据えている。


 オルウェン王は私達のいる方をジッ…と睨んでいるようだった。



「なぁ!オルウェン王はぶっ殺してもいいゼ!今から騎士団の奴らも連れてくるからよ!皆気のいい奴ら」

「その煩わしい口を、今すぐ閉じなさい。」


 ギル騎士団長の言葉を遮り、私は冷たい瞳でギル騎士団長を見据え、手をかざす。

 オルウェン王に今まで従い、イアンを傷つけた奴の女になんて、死んでもなりたいと思わない。


「――――――!」


 私は魔法を使い、ギル騎士団長を光の檻に閉じ込める。隙間なく壁を厚くしたため、防音もバッチリだ。今度は想像した通りに魔法を行使できた。



 ……魔法に込める想い……光の壁を出した時は、イアンを守る事に必死だったけど、今は冷静だった。感情的にならなければ、想像通りに魔法が使えるのかもしれない。


 私はそう考え、魔法を使う際は気をつけようと思った。



「……俺は、ルミナスさんを、守り切れなかったのか。」


 イアンがギル騎士団長と私を交互に見て、沈んだ声で話しした。どうやらイアンは、自分が危険な状態だったことを覚えていないようだ。「イアンは、私を守ってくれましたよ。」私が微笑みかけると、イアンは薄く笑みを浮かべ「ルミナスさんが、無事な姿を見れて安心した…」と優しい眼差しで私を見つめた。


 私はギル騎士団長の魔法が消えないよう意識しながら、川に手をかざし光の橋を魔法でつくる。イアンと私は橋を渡り、サリシア王女達の元へと向かった。


 側に行くとサリシア王女とライアン王子が顔を私に向けて「……ルミナス?」「ルミナス嬢…だよな?」と私を見て二人共驚いた表情をしていた。



「はい、そうですけど…。この地面は…オルウェン王かベリルの魔法で?」

 私は不思議に思ったけど、割れた地面を見て質問をする。


「あ〜、これはサリシア王女だ。まさか足の力だけで地面を割るとはなぁ…。自分の影を歪める発想は俺には無かったぜ。」

「フン、守るなど私には不要なことだ。」


 ライアン王子とサリシア王女の間で、何かやりとりがあったらしい。「ガルバス騎士団長、一旦こちらにお下がりください。」私がガルバス騎士団長に声をかけると、ガルバス騎士団長もオルウェン王達から距離をとり、こちらにくる。


 ガルバス騎士団長も私を見て固まっていたため、兜で表情は見えないが、二人と同じように驚いた表情をしているのかもしれない。


 ……何故、私を見てそんなに驚くのだろう。


 気になったけど、それは後回しで良いかと思い、三人に向けて手をかざし「傷を治します。」と言って、サリシア王女とライアン王子、ガルバス騎士団長の三人が全身淡い光で包まれる。体に切り傷や火傷の痕を見た私は、三人の全身が癒えるように想いながら魔法を行使した。


 光が消えるとガルバス騎士団長は、頭に被っていた兜を取り、自身の体を見て言葉も出ない様子だった。

「ありがてぇな〜。助かったぜ。」とライアン王子は私に感謝を述べる。サリシア王女は私に柔らかい表情で「すまないな。」と言って微笑んだ。

「俺に対しても、その表情で話してくれねぇかな。」とライアン王子が呟いて、サリシア王女が鋭い視線を向けていた。


 ……相手に触れなくても、癒すことができるんだ。イアンに抱きつく必要は無かったのかも。


 自分がした事を思い出し、顔が火照りそうになったが、あの時は非常事態だったし、仕方ないと割り切って落ち着きを取り戻す。


 ギル騎士団長の檻を見ると魔法は解けていないようだった。私は身を引き締め、前方にいるオルウェン王に視線を向ける。



 今私達は川を背にしながら立ち並び、私達の前方ではオルウェン王とベリルが立ち、相対している。

 ベリルは地面に片膝をついていたが、歯を噛み締め立ち上がる。足の槍は既に抜いていたようだが、出血が酷く呼吸が荒くなっていた。



「 闇よ、 ()て 」


 オルウェン王が手を私達に向けてかざし、淡々とした口調で魔法を行使する。その魔法は、私達を飲み込む大きさの黒い塊となって放たれた。


 私はそれに向かって手をかざし、塊を光で包み込み収縮させていく。……そして、こちらにきた小さな光は、私の手の中で完全に消えてなくなった。


 オルウェン王は唖然としながら私の魔法を見ていたが……急に高笑いを上げた。



「くっくっ…光の者……素晴らしい!傷を癒し、私の魔法も防ぐとはな!お前は何者なのだ?本当に人なのか?」


 オルウェン王が口角を上げながら、私に問いかける。


『人なのか』そう問われて私は胸がざわついたが、魔人になったのか実際よく分からない。魔力の限界がどのようにして分かるのか知らないし……


 ただ『何者か』との問いかけに、私の中で答えは決まっている。



「わたくしは、魔力をこの身に宿す光の者。ファブール王国の女王、ルミナス・リト・ファブール。オスクリタ王国のオルウェン王。これ以上貴方の非道な行いを、わたくしは見過ごす事も許すことも致しません。」


 私はオルウェン王を見据えて、落ち着いた口調で告げた。



 ファブール王国が、どんな国だったか知らない。


 滅びた経緯も知らないし、ファブール王国に住んでいた民が、残っているのかも分からない。


 国を治めていないのに、女王と自分で名乗るべきではないのかもしれない。



 でも私は、光の者の魔力を全て受け入れる覚悟をした時に、ファブール王国の女王としての名を受け継ぐことを、心に決めていた。



『女王の代が変わる度に魔力が増えている』



 アクア様はそう言っていた。私が受け継いだ光の者の魔力は、魔人と人が愛を育んだ証であり、歴代の女王の想いの塊のようだと、私は思ったから。

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