ルミナスは、光に包まれる
サリシア王女が向こう側に着地し、素早く剣を抜き魔法を放っているベリルに、剣の切っ先を向け腕を突き出したが……
横から来たギル騎士団長の剣によって弾かれた。
サリシア王女はすぐに標的を変えて、弾かれた剣をギル騎士団長に向けて振り下ろす。
「――ッ! すっげェ馬鹿力だなア! オイ!」
ギル騎士団長がそれを剣で受け止めたが、力でサリシア王女に勝てる筈がなく押されていた。それでもギル騎士団長は危機感のない楽しげな表情をしている。
ベリルは魔法を消したようで、既に火柱は無くなっていた。
―――馬車が!?
後方にある馬車が動き出した…………
橋に向かって。
御者台にはオスクリタの兵が乗り馬を操っているが、橋がある方向を見ると、隊の人達の姿が目に入り数十台の馬車が向かってきているのを見て、足をその場で止めていた。
「くっくっくっ……私は元々、村人全員を返す気でいたぞ。馬を操る兵は殺して構わん。サンカレアス王国の兵は動かさないから安心しろ。村人を入れないと民から反発を招くのではないか?」
オルウェン王の言葉を聞いて「貴様ァ…ッ!!」サリシア王女がギル騎士団長と剣を打ち合いながらも、オルウェン王に向かって怒声を上げだ。
オルウェン王の側に歩み寄ったベリルが、サリシア王女の様子を見て「ギル騎士団長には荷が重い相手のようですね。ガルバス騎士団長、貴方にお願い致しましょう。」と言って、ガルバス騎士団長に顔を向けた。
「なんだと…ッ! 」
ガルバス騎士団長は目を見開き「歯向かわない方が良いですよ?」とベリルが言って、腰に下げた水晶を取り出す。
……ガルバス騎士団長は、無理に従わされている?あの水晶からは魔力が見えないけど、なんだろう?
ガルバス騎士団長は手に持っていた兜を頭に付けると馬から降り、サリシア王女に向けて腰に下げた剣を抜き「……お相手願おう」と言って、前に構えた。
ギル騎士団長が「フゥ、手が痺れたぜェ〜」と剣を払い、その場から離れる。オルウェン王の側にはベリルが立ち、反対側にはギル騎士団が立ち並んだ。
オルウェン王はサリシア王女に気にした様子はなく、私から視線を外さない。
サリシア王女が舌打ちし、ガルバス騎士団長に向かい合うが……
「国から出ない団長が、な〜んでこんな所にいるんだ?」
私は後ろを振り向くと、壁の頂上にライアン王子が立っているようだ。飛び降りるのでは…そう思った私は咄嗟に前を向く。地面に着地したような音が聞こえ、フゥ…と私は息を吐き再び後ろを見た。
ライアン王子は鎧は身につけていなく、腰には長剣を下げて手には槍を持っている。
「ライアン王子!王都で」
「それ以上は口を噤んで下さいね。」
ガルバス騎士団長の言葉を遮り、ベリルが笑みを浮かべながら腰に下げた袋に手を当てた。兜を付けている為に表情は伺えないけど、それを見てガルバス騎士団長は押し黙ったようだ。
「貴様また部屋から出てきたのか! 」
サリシア王女が視線をガルバス騎士団長から外さないまま、ライアン王子へ苛立ちのこもった声を出す。
「騎士団長の声が聞こえたしな。それに国王陛下から許可はもらってるぜ。」
どうやら陛下と話は済んでいるみたいで「さっきの火で北の方も動きがあったようだ。マシュウとラージスにはそっちに行ってもらった。」と話してくれた。
ライアン王子は手に槍を持ったまま助走をつけると、川に槍を突き立て、棒高跳びのようにして向こう側に着地した。反動で折れた槍を投げ捨てるとライアン王子はガルバス騎士団長に向き合う。
「団長、親父じゃなく、そんな奴の指示に従っている訳を聞かせてもらおうか。」
「ライアン王子……。」
ガルバス騎士団長は、ライアン王子の言葉を聞きベリルを見ると、腰に下げた剣を抜き前に構えた。
それを見てライアン王子が「言えねぇってか…。」とため息混じりに言いながら頭をボリボリと掻き、自身も腰に下げた剣を抜き前へ構える。
二人が向き合った事で、サリシア王女はオルウェン王達の方へと体を向けた。
「イアン、隊の人達とあそこに行って、加勢した方が良いのでは?」
「……オルウェン王の目的はルミナスさんだ。どんな魔法を使ってくるか分からない以上、無闇に向かっていくのは得策じゃない。それにオルウェン王はずっとルミナスさんを見ている。」
何かしてくるかもしれない……そう呟いてイアンは私を背に庇いながら、ずっと警戒態勢でいる。周りを見ると残っている隊の人は三人で、私を囲うようにして立ち、イアンと同じように警戒態勢でいた。
「ベリル、あの男は?」
「サンカレアス王国の第二王子であります。」
不要な人間か…オルウェン王がそう言って、私から視線を外し、ライアン王子に顔を向けた。
私は咄嗟に「ライアン王子! 気をつけて!」と声を上げたが……
「 闇よ、穿て 」
オルウェン王がライアン王子に向かって手をかざすと、ライアン王子の影から槍状の形をした影が背中へ向かって伸びた。ライアン王子は、後ろを見ていないが何かを感じたのか足を前へと出し、完全に回避はできずに背中を掠め、切り傷が出来る。
「―――ッなんだぁ今の…!」
ライアン王子が振り向くが、影はすぐに元に戻っていた。
サリシア王女が「おい! 大丈夫か!」とライアン王子の元に駆け寄り「大丈夫だ、心配いらねぇよ」ライアン王子はそう言って、持っていた剣を再び前に構え直す。その様子を見て、向かい合っていたガルバス騎士団長は立ち尽くし、ギル騎士団長は笑い声を上げている。
オルウェン王はライアン王子に少し驚いていたようだが、今は興味が失せたような表情をして、再び私に顔を向けた。
私は深呼吸して、イアンの背から前へと出る。
「ガルバス騎士団長! 貴方は王に仕える身で何故ベリルや他国の王に従っているのですか!国王陛下の指示があったのですか? それとも国を裏切ったのですか!?」
「 断じて違う! 私は…」
ガルバス騎士団長が否定したのを聞き、私はここまでのオルウェン王とのやり取りで、ガルバス騎士団長が何か弱みを握られていると思い至る。
サンカレアス王国には第一王子もいる。
陛下と第一王子が人質か……
または、そのどちらか……
そう考えた私はベリルが持つ水晶を気にしていた、ガルバス騎士団長の姿を思い出した。
「ベリルが持つ水晶は、サンカレアス王国にいる者と話をする事は出来ません! 誰かを人質に取られているなら、この場でこの者達を倒し救い出すのです! ベリルの言葉より、わたくしを……ルミナス・シルベリアの言葉を信じなさい!!」
ガルバス騎士団長はその場で止まっていた足を動かせる。どうやら私の言葉を信じてくれたようで、ライアン王子の隣に立ち、オルウェン王達に向けて剣を構えた。「団長、後で詳しく聞かせろよ」ライアン王子が笑みを浮かべて話しかけると、ガルバス騎士団長は頷いて答え、前に構えた両手に握った剣の柄を強く握りしめている。
「サリシア隊長! 街の中にいる村人達が、門に集まって騒ぎを起こしているようです!報告を受けた国王陛下が門へと向かいました!」
壁の頂上から隊の人が、慌てた様子で話す。
見ると後方にいるオスクリタ王国の兵達が動き出していた。二手に分かれている。幌馬車の後を追うように進む兵達と、北側に向かっている兵達だ。
北側に向かうのは加勢の為だとして、馬車を追うのは……
人が操られているなど信じられないだろう。壁や塔には隊の人達以外だっている筈だ。村人が重症な姿を見たら、なぜ町に入れないのか、見捨てるのかと不信感を抱き、自分の家族が門に来ていると知れば、街の中にいる村人が騒ぐのも当然だ。
そして今、オスクリタ王国の兵達が迫ってきてるのを見れば……
馬車にいる村人が兵達に殺されるか、村人を街の中に入れ、操っている人を使い混乱に貶めるのか。
そう考えた私は、オルウェン王に対して怒りが湧く。
人を傷つける
人を嘲笑う
人を物のように扱う
許せない……!!
私の胸の内に、怒りの炎が燃え上がった。
「イアン、私は少しやる事があります。……守ってください。」
「ルミナスさん……?」
私がイアンに話しかけると、イアンは心配そうな顔をして私の隣に歩み寄るが、私の決意のこもった瞳を見て薄く笑みを浮かべた。
「任せて。」
イアンはそう言って、私の前に立った。
何度もこの背中を見てきた。
私の……
ふいにイアンの背に手を伸ばしそうになった右手を、拳をつくり止めさせる。
「あなた方は、私から少し離れていてください。」
私の周りにいた隊の人達に声をかけ、躊躇しているようだったがイアンが「ルミナスさんの言う通りにして」と言うと、隊の人達は私から離れた。
私は右手の薬指に付けている指輪を、口元にもってくる。
マントで手が見えなかった為に、オルウェン王は指輪を私が付けているのは気づいていなかったようで、怪訝な表情をし「ギル、行け!」と指示を出した。
「ヒャハッ! っしゃア!」嬉々とした表情でギルは、こちらに向かって手を突き出し「闇よ、覆え!」と言うと私やイアンの周りに霧がかかり、視界が見えなくなる。
「闇よ、架けろ」オルウェン王の言葉が耳に入るが、何が起こっているか全く見えずに分からない。
サリシア王女達も動こうとしたのか「火よ、塞げ」とベリルが言って「くそッ!」「今度は火の壁かよ!」とサリシア王女の声とライアン王子の声が聞こえた。
私はイアンの言葉を信じ、指輪に意識を集中させる。
「わたくしの名は、ルミナス・リト・ファブール。アクア様、フラム様、リゼ様、リヒト様……どうかお姿をお見せください。」
霧の中で淡い光が次々と現れて、私の周りが光に包まれた。




