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ルミナスは、魔力を視覚で捉える

「私はグラウス王国第一王女、サリシア・フェイ・グラウス。先ほどの要求の件だが、我々はルミナスを森で保護しただけで、ルミナスは元々自由の身だ。本人は国内で男爵に囚われたと我々に話してくれている。なぜ我が国を疑い『救出』に来たのか、理由を知りたい。」


「………。」


 サリシア王女が話しかけるが、向こうからの返答はない。今私の隣にはイアンが立ち、隊の人達が列になって私とイアンの姿を隠すように前に並んで立っている。そして一番前にはサリシア王女がいる。

 隊の人達の背中で向こう側がよく見えないが、隙間から様子を伺うと、箱馬車の隣に褐色のマントの男が馬に乗り、その隣にガルバス騎士団は馬に乗り片手で手綱を握り、もう一方には兜を手に持っている。表情が暗く、固く口を結んでいる姿が見えた。



「理由は、私の方から説明致しましょう。」


 褐色のマントの男が、馬から降りてサリシア王女に話かける。


「お初にお目にかかります、サリシア王女。私はベリルと申します。」馬の手綱を片手に握ったまま、頭を下げた男は、挨拶を済ますと頭を上げてサリシア王女に笑みを浮かべている。


 私にはなんだかその笑みが、とても胡散臭く見えた。なんだか…目が笑っていないように見える。指輪を所持していると分かっているから、尚更疑って見てしまうのか……



 ……あれ?なんだろう、あの黒いの…。


 私は手を目元にもってきて、目を擦る。ベリルが手綱を握っている右手首に黒く淡い光と、マントでよく見えないが、手があるだろう箇所からは赤い光が見えるのだ。ふと私は、アクア様と出会った時に会話した事を思い出す。



『僕達は魔力の色と大きさが分かるんだ。』


 ……私の色は『 白 』って、言ってたっけ。今魔力感知をしている自覚は無いし、塔の中で魔力感知をした時は色までは分からなかったけど、私の魔力が増えてきて、こうして姿を見れば視覚で魔力を捉えられるようになったのかも。



 私はそう思いながら、再びベリルをジッ…と見つめる。この光が魔力なら、私の推測は当たっていたようだ。赤いのが指輪だとして、ハッキリと見えないが手首に指輪と同じような装飾品を付けているのだと私は考えた。馬車と幌馬車にも視線を向けたが、何も見えない為、直接姿を見ないとダメなようだ。



「ルミナス嬢を誘拐した男爵は既に亡くなっており、男爵と手を組んでいた首謀者である宰相は、既に捕らえられております。その者の手により、グラウス王国へとルミナス嬢を引き渡したと知った私達は、こうしてオスクリタ王国のご協力もあり、兵を引き連れて参った次第です。」



 ベリルの言葉を聞いた私は驚く。



 ……ライアン王子達も知らなかったなら、国を出た後に状況が変わった?男爵、亡くなってたんだ。首謀者が宰相?なんで宰相が私のことを?



 男爵が亡くなったのを聞いて、ざまぁみろとは思わないけど、侯爵令嬢の私を誘拐した罪は重いものだし、二度と顔を見たくは無かった。宰相も騎士団長同様にルミナスの記憶にあって顔は分かるけど、挨拶程度しか言葉を交わしたことがないから、どんな人物か知らないため『首謀者』と聞いてもピンとこない。



「我が国に訪れている王子達とルミナスは互いに会話をしている。王子達の帰国を待たずして、なぜ我が国に入ってきた! よくも、村に住み民達を…ッ!」


 サリシア王女の表情は見えないけど、後半口調が荒々しくなり、肩が震え全身から怒りが発せられているようだった。


 ベリルはサリシア王女の言葉を聞いても笑みを崩さず、馬に乗り口を閉じたままの騎士団長は、何かに耐えているような表情をしている。



「血の匂いが酷い。あの幌馬車がある辺りからだ…」私の隣にいるイアンの呟きが耳に入る。私には分からないけど、イアンが気づいたなら、きっとサリシア王女や隊の人達は気づいているんだ。


 ……あの中に村人が?


 中の様子は見えないけど、幌馬車からは声も揺れも感じない。普通は捕まったら何かしら抵抗するだろうけど、馬車の中で暴れている様子はない事から、拘束され身動きできないか、重症か……まさか皆死んでいるのでは……と私の頭に嫌な考えが浮び、唇を噛む。



「その者たちは、王子の名を語った偽物かもしれませんね。そちらで好きにして構いませんよ。あと、村人達は全員生きております。私達に武器を向けて来ましたから、こちらも反撃ほかありませんでしたが、これ以上傷つけないように、眠らせてあちらの馬車で休んでいただいております。どうぞご安心下さい。」


 幌馬車の方を指差し、淡々と話すベリルの言葉に私は、肌に鳥肌が立つのを感じる。私は他国の要人を知り尽くしている訳ではないから、ベリルがオスクリタ王国の地位の高い人物かもと思っていたけど、王が代々受け継ぐ指輪をもち、サンカレアス王国の内情を知るベリルを、不気味に感じた。



 ……何が『安心』だ。なんなのこの人。


 箱馬車に乗る人物は一向に姿を現さないし、幌馬車に潜む人物も気になる。



「先ほどルミナス嬢が自由の身であると聞きましたが、実際にルミナス嬢の姿を見ないと安心できません。ご提案があるのですが、村人の数名をお引き渡し致しますので、そちらで村人の生存を確認していただきたい。ルミナス嬢がこちらに来ていただけたら、村人は全員お返し致しましょう。」


 村人が生きているのなら、要は人質に取っているということだ。私がこの場で姿を現せば、村人が解放される……そう思って足が自然に前へ踏み出そうとしたが、肩を掴まれ止められる。隣を見るとイアンが左右に首を横に振っていた。



「村人の他に、その中に人間を潜ませているだろう。貴様の言葉など信用できん。」



 幌馬車の中に魔力の反応を捉えたと、塔の中で私は話している。村人に紛れて何をするつもりか分からないけど、サリシア王女がベリルの提案にのるはずがなかった。


 ベリルはサリシア王女の言葉を聞き、ずっと笑みを崩さなかった顔の表情が僅かに崩れ、その場がシン…となったが……



「ヒャハハハハ! 」



 急に笑い声が上がり、皆の視線が幌馬車に集まる。


 のそりと一人の人物が幌馬車から出てきた。

 頭からマントを被り膝の辺りまで覆っていて、頭の部分からは角が突き出ていた。

 村人…?と一瞬私は思ったけど、頭に手をやり角を掴むと地面へ投げ捨てたのを見て、私は目を見開く。



「ッんだよ、門に近づけば楽に入れると思ったが、俺がいんのバレてんじゃねェか!」

「……ギル騎士団長、相手のハッタリだったかもしれないのに、勝手に出てきてもらっては困ります。」


 こちらに歩いてきた『ギル騎士団長』とベリルに呼ばれた男は頭に被っていたマントをバサリと外し、自身の背に羽織る。鎧姿がハッキリと見えて、その鎧は……所々、赤黒くなっていた。



 ……あれ全部……血?


 思わず両手を口元に私はもってくる。まさかあの男は村人に扮して町に入ろうとしたのだろうか。地面に捨てた角が村人のものだとしたら、その方法を考えた者の正気を疑う。

 男を見てると、ベリルと同じように手首から黒く淡い光が見えた。


「イアン、あの男…」私が隣に囁きかけると、こちらを見たイアンは察したのか頷く。イアンの大きな瞳がグッと細められ、敵意を含んだ瞳で男を見据えていた。



「ベリル! 馬車に村人以外が乗っているとは聞いていないぞ!」


 ガルバス騎士団長は、男がいるのを知らなかったようで、ベリルに掴みかかる勢いで馬を寄せて詰め寄っている。ベリルはため息を吐き、箱馬車に顔を向けた。



「貴様を…一番に殺してくれるッ…!!」


 サリシア王女が男に向けて声をあげ、腰に下げている剣の柄を握っている。川を挟んではいるけど、サリシア王女なら脚力で飛び越え、今にも向かって行きそうな勢いだ。敵意を受けている男は、笑みを浮かべながらこちらを見ている。


 ベリルが馬を引きながら箱馬車に近づき、私には聞き取れなかったけど、何やら中にいる人物と会話をしているようだった。そしてベリルが箱馬車の扉を開けて、地面に跪き頭を垂れ………





 中から一人の男が出てきた。


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