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ルミナスは、相対する

 ……なんで?私は助けられて、この国にいるのに…。


 聞き間違いかと思ったが、前を歩いていたイアンも「……何を言ってるんだ?」と怪訝に思っているようだった。騎士団長の言い方だと、まるで私がこの国に囚われているようだ。


「ルミナスさん、付いて来て。」



 イアンに連れて行かれたのは、服や靴などが置いてある部屋で、イアンは茶色のマントを二つ手に取った。一つはイアンが、そしてもう一つを私に羽織らせる。着替えてる時は気づかなかったけど、新しく着た服も黒色だった。

「絶対にフードを取らないで。」鎖骨の辺りで紐を結び、私の頭にフードを被せながら話したイアンの表情は、とても真剣な顔をしていた。



 そして再び城内をイアンが先に歩き、私も後をついて歩く。城の外に出ると日はすっかり昇り、辺りの様子も伺えた。「さっきの声がした方に行ってみる?」イアンが振り向き尋ねて、私は「はい」と即答する。


 ……陛下が騎士団を引き連れて来た?


『騎士団長』と聞こえた為、私はそう思いながらイアンに抱き上げられ、走って向かう。

 私にはどの方向から発せられた声か検討もつかなかったけど、イアンは分かるようで迷いなく足を進ませる。昨日私がマナを追いかけて向かった方向だった。


 ……東側だ。


 フードを被ってよく見えなかったけれど、穏やかに見えた街並みは一変したように感じた。人が行き交う姿も無く、家の中に閉じこもっているか、皆が壁にいるのかもしれない。




 そして壁まで着き、イアンに下ろしてもらい私は辺りを見回した。壁や塔の周辺には隊の人達が集まっていて皆険しい顔つきと、物々しい雰囲気を感じる。

 上を見上げると壁の頂上にはズラリと人が立ち並んでいて、弓などの武器を手に持つ人が大勢いた。

 昨日は暗くてよく見えなかったけど、平屋の建物は木造の造りになっていて、窓が今は開いていた。中から子供とその母親らしき女性が、顔を覗かせて外の様子を伺っている。


 マントを羽織りフードを被った私は、皆に不審がられるんじゃないかと思ったけど、特に周りは気にした様子は無く、隊の人達以外はチラリと視線を向けてきたが、壁の外にすぐ視線を戻していた。


 私が地面に視線をやるとフッ…と影がうつり、誰かが上から降りてくるのに気づく。



「二人とも塔の中に入れ。」


 上から降りてきたのは、サリシア王女だった。

 私はマナから聞いた話を思い出す。


 ……確か、塔に入るには壁を……


 自力では登れないと私が思っていると、イアンは既に分かっていたようだ。「俺の背に捕まって」イアンが私に背を向けて、地面に片膝をつき身を屈めた。

 イアンの首に手を回してしっかりと掴む。石造りの壁は平らではなく、イアンは私を支えながら、出っ張りに足をかけ、片手を使い、壁の頂上を目指して登っていく。後からサリシア王女も登ってきて頂上に着き、すぐに塔の中に入るよう促された。



「ルミナス嬢、君に聞きたいことがある。」

「はい、国王陛下。」


 中に入ると陛下一人だった。他の階には人がいるようで、微かに物音が聞こえる。陛下はいつもは身につけていない、水色のマントを羽織っていた。

 アーチ状の小窓がいくつかあり、そこから壁の外の様子が見えるようだが、今は陛下に視線を合わせて話をすることに私は意識を向ける。


「ルミナス嬢を疑う訳ではないが、君が私に話した、この国に来た時の経緯について、嘘偽りはないかな?」

「偽りございません。わたくしも…ガルバス騎士団長の言葉に戸惑いを感じております。」


 陛下は顎に手を当てて、考えを巡らせているようだった。すると私の後ろにいたサリシア王女が私の横を通り過ぎ、陛下の側まで歩み寄る。私の隣にイアンが、そして陛下とサリシア王女が向かい合わせで立っていた。



「ルミナス嬢が食堂でライアン王子と話した内容は全てサリシアから報告を受けている。ルミナス嬢を牢屋で囚われの身とした男爵が、虚言を言い我が国に罪を押し付けたとも考えたが『外交』と言って王子達を寄越しておいて、サンカレアスの国王はオスクリタの国王と共に兵を我が国に向けてきたのだ。王子達の生死を、向こうは気にしていないようだな。」


 陛下はフゥ…と息を吐き、視線を壁の外へと向けた。陛下の隣に立つサリシア王女が「人間共が我が国に兵を向けた時点で、向こうにどんな事情があるにしろ私は殲滅する気でいる。」胸の前で腕を組み、眉間に皺を寄せている。



「今の外の状況を教えてもらえますか?」

「……そうだな。お前達にも話しておこう。」


 隣に立つイアンがサリシア王女に尋ねて、私はサリシア王女の話に真剣に耳を傾ける。


「先ほど日が昇り、各方面の状況を隊の者が私の元に報告に来た。北はオスクリタ王国の旗を掲げ鎧を着用していない兵が多数と、馬に乗る者が数十名程いると聞いた。西は人影なしで、南は赤い服を着た兵達が森を抜ける手前で止まっているそうだ。馬に乗り鎧を着用している者を二名確認している。こちら側は……実際に見てみろ。」そう言ってサリシア王女が窓の方に視線を向けた。私とイアンが窓を覗いて外の様子を伺うと……



 黒い服を着た人々が私の視界に入る。列になって並び立つその姿にゾッとした。普段なら緑豊かであろう草原が、見渡す限り黒で塗り潰されたかのように見えたのだ。



「前列に馬車がある。」イアンの呟く声が耳に入り、私もそちらに視線を向けた。壁の外には川が流れていて、川から少し離れて前列の中央に、馬が二頭引いている箱馬車が一台、馬車の側には馬に跨っている人が二人いて、赤いマントと褐色のマントを羽織っている。


 ……馬車に乗っているのが、それぞれの国の国王?馬に跨っているのはガルバス騎士団長だ。もう一人は知らない人だな…。


 ルミナスの記憶の中に陛下の側で立つ、ガルバス騎士団長の姿があった。そして私は馬車の後ろにある幌馬車が気になる。これだけの兵がいるから、食料とかを積んでいると思ったけど…数が多い。十数台ある幌馬車を見て、盗賊達に捕まっていた子供達の事が頭を過ぎる。



 ……この町に来ていない村人達は、どうなったの?


 ドクドクと胸から嫌な音が鳴り、私は胸に手を置きギュッと拳をつくる。私達が外の様子を見ていると、後ろに陛下が来て「ルミナス嬢、あの中に魔力の反応がいくつあるか分かるかな?」と尋ねてきたので、私は集中して馬車の方を見ながら《 魔力感知 》を行なった。



 ……え?


 私は魔力感知の反応が意外な所から感じて、目を見開いた。とりあえず陛下に伝えなければ…と思い、振り向いて口を開く。


「前列にある馬車から指輪の反応が一つあります。それと、あの褐色のマントの人から指輪の反応が一つと、小さい反応が一つ……。前列の馬車の後ろにある幌馬車からも、小さい反応が一つありました。」


「……そうか。北からこちら側に数台の幌馬車が来たのを確認しているから、中に紛れているようだな。あのマントの男がサンカレアスの国王なのかな?馬に跨っている二人は、日が昇る頃に南からこちら側に来たのだが……」


 陛下の言葉に私は「違います。わたくしは顔を何度も拝見しておりますが、あの男は陛下ではございません」と言って否定する。



 ……なんであの男が指輪を持っているんだろう。



 私が思考に耽っていると「……ふむ。ありがとう、ルミナス嬢。王では無い男が指輪を持っている理由は分からないが、どうやら魔法を使う者はここに全員集まっているようだな。」陛下がサリシア王女に顔を向けて、サリシア王女は頷き「私があの場に行って参ります」と言って、壁の外に視線を向ける。



「わたくしも行きます!」

「だがルミナス…」


「騎士団長は、わたくしの救出任務で来たと言っていました! あちらの目的は、わたくしでしょう!?一緒に行きます!」


 サリシア王女の言葉を遮り、私が声を上げサリシア王女を見つめると、ため息を吐いたサリシア王女は「いいだろう。しかしフードは絶対に下ろすな。あちらの意図が分からん以上、ルミナスは姿を見せない方がいい。」と言ってイアンの方に視線を向けて、隣を見るとイアンが頷く姿が見えた。



 壁の外に行くのは、私とイアン、サリシア王女と塔の周辺にいた隊の人達が共に行くことになった。隊の人達は魔法を知らないし、もし戦いになったら……と心配になってサリシア王女に声をかけたら「魔法のことは伝えていない。相手は未知の力を使う可能性があり、視界を塞いでくるかもしれんが、何が起こっても落ち着いて対処しろと伝えてある。」と言っていた。



 ……確かに、魔法を実際目にしてない人達に、その存在を説明するのは難しい。知った私達でさえ、相手がどんな魔法を使うか詳しくは分からないし…。



 サリシア王女と隊の人達二十名程が壁の外に先に出て、イアンが私を抱き上げて壁の頂上から飛んで地面に着地し、外に出る。頂上から降りる急降下に思わず目をキツく瞑ってしまったけど、瞳を開けると、すぐ目の前には川が流れていた。






 馬に跨る二人と箱馬車一台が、川の側まで近づいてきて……川を挟み、私達は相対する。

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