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北と南の者達

 

 北側では月明かりの下、一人の男が楽しげな様子で地面に転がるものに剣を突き立てている。


「ヒャハハハ!おいっ、見てみろよッ!コイツまだ動こうとしてるゼ!獣人てのはしぶてェなァ!」


「ギル騎士団長〜殺さないようにして下さいよぉ。」


『ギル』と呼ばれた男は現在オスクリタ王国の騎士団長を務めている。騎士団に副団長はいない。ギルは耳下から肩の位置まで斜めに乱雑に切られた紅い髪に、細い紅い瞳は飢えた獣のようにギラつかせている。鎧を肩と胸、両足と腕の片方に着用し黒色のマントを羽織ったギルは、兜は付けていない。そして鎧を付けていない方の手首には宝石が四つ付いたブレスレットをつけていた。黒色の宝石が一つと、白色の宝石が三つ。

 宝石は全て水晶と同じ鉱物で、オルウェンにより魔力がうつされた物だ。一つはオルウェンと連絡を取る際に使用し、二つは村人に対して魔法を使用し魔力が無くなっている。

 


「……ケッ、殺さずに捕まえろだなんて、つまんねェなア!」

 ギルは地面に蹲り呻き声をあげたものを足で蹴飛ばし「コイツも積み込め!」と周りにいた者達に指示を出した。


 ギルの周りには三十名程の者達がいて服装は皆バラバラだ。鎧を付ける者や何も身につけず軽装な者、武器も剣や斧、槍など多種多様な武器を持っている。

 そしてギル達から少し距離を空けて兵士達が大勢立ち尽くし、皆が恐れを抱いた眼差しでギル達を見ていた。彼らの服装は平民のものだ。彼らは農民や漁師で、今回オルウェンの命令で集められた者達だった。鎧も何も身に付けず、その手には旗がつけられた槍を持つ者が数名と、皆が腰に短剣を下げている。



 兵士達は村人と戦っていない。



 兵士達は村人の注意を向けるための、囮だったからだ。グラウス王国の町から見て東側、山を一つ越えた先のオスクリタ王国の領地では馬の飼育、そして船の建造をしていた。海に面した場所なのと、山が側にあり木材が手に入りやすかったためだ。グラウス王国の東側に住む村人達は決して自らオスクリタ王国がある方に向かおうとしなかった為、山を越えると木々が無くなっている事を知らなかった。


 オルウェンは兵士達に日が暮れたら船で進み上陸させて、日が昇ると山道を歩いて進むように命令していた。ギル達の存在は言わずに。

 ギル達は馬に跨り幌馬車数台と共に東から斜めに山道を進んでいた。そして日が昇り村人が行動を起こし、村人達と兵士達が相対する前に、ギルは魔法で村人の視界を塞ぐと、毒付きの弓矢を大量に浴びせた。人間に比べると毒の効き目が弱かったが、それでも魔法と毒で混乱した村人は、兵達とは別方向から現れた者達によって次々と倒れた。


 その後に来た村人も魔法と毒を使用し、死なない程度に痛めつけ馬車に積んで持ってきた手枷をはめ、馬車に乗せていった。兵士達は黙ってギルの指示に従う。オルウェンの下につく騎士団。それは元盗賊団だ。国内で残虐かつ非道な行いをしていた彼らをオルウェンはふるいにかけ、腕の立つ者達を騎士とした。


 騎士道と最もかけ離れた者達だ。


 彼らは忠誠心も愛国心もなく、自らが欲する欲望のまま生きている。


 ギルは元盗賊団の頭で、オルウェンの力を見て恐れよりも興味が湧いた。オルウェンは自分に従えば力を分け与えてやる、と条件を出しギルは嬉々として受け入れた。オルウェンも一人で全てを行うのは不可能と考え、手足となる者達が必要だったのだ。

 ギルに力を分け与えたが、オルウェンは力の全てを話してはいない。




「さて、お前らァ!日が昇る前に進むゾ!」

「おぅ!我らが頭!ギル騎士団長ーッ!」」


 周りにいる者達はドッと沸き立ち、ギルは颯爽と馬に跨り黒色のマントをなびかせる。



「おい!お前らも突っ立ってないで死ぬ気で進めよッ!足を止める奴がいたら殺せッ!」


兵士達の後方に下衆な笑みを見せる者達が回り込み、兵士達は必死に足を前へと進みだす。




「ヒャハハハハ!」ギルの笑い声が辺りに響き、暗がりの中に消えていった。





 ――――――――




 南側で見張り番が山道を進む火に気付いた頃……


 後半日もすれば山道を抜けグラウス王国の町を視界に捉えられる距離まで、騎士団長のガルバスとベリル、騎士団の者二名は皆馬に跨り、その後ろには荷馬車が二台続き食料などの物資が積まれ、後に続いて多くの兵達が歩いていた。


 兵達の格好は皆同じで、チェーンメイルの上に赤色のサーコートとよばれる膝丈程度まである上着を着用しており、腰に短剣を下げて背中には木製の盾を背負っている。二列に歩く兵達は松明の火を片手に持つ者が間隔を空けて歩いていた。

 騎士は胸と肩、腕や足に鎧を着用し、腰に長剣を下げている。今は外しているが、戦う際には兜も着用する。そして騎士の一人は槍の先に赤色の旗を掲げていた。ガルバスも騎士達と同じ装いだが唯一違うのは赤色のマントを羽織っていることだ。

 ベリルはいつもの褐色のマントを羽織っており、手首には黒色の宝石が一つ付いたブレスレットをつけている。



「決して独断行動はしないで下さいね?」

「……分かっている。」


 ベリルはガルバスの素っ気ない対応に気にした様子はなく「どこかで少し休みましょうか。」笑顔で話かけるベリルに対し「ああ」とガルバスは一言だけ答える。ガルバスはここまでの道程を思い出し、歯をギリッと食いしばった。




 ガルバスがジルニアから、兵達を率いてグラウス王国へと向かうことを命じられ、すぐに兵の準備など出来ないと思い何か打開策を考えようとしたが、国王の執務室を出た後すぐにベリルが現れ「さぁ、すぐに出立致しますよ。兵達は既に向かっていますから。」と告げられた。そしてガルバスは、ベリルやジルニアの指示に従う騎士によって促され、すぐに王都を出立することになった。




 ジルニアはレギオン王に毒を盛った後、グラウス王国までの道程周辺の領主達にルミナスがグラウス王国で囚われの身となり、救い出すため兵を集め向かわせろと通達していた。騎士団長に指揮をとらせることも通達文書に含まれている。



 騎士団は王都から動かさない。



 ジルニアはライアンがいる騎士団には深く関わることを躊躇し、唯一自分の側で護衛を務めていた四名だけを手中に収めている。騎士達はライアンが極秘任務を受けているとガルバスから聞いていて、グラウス王国にいることは知らずにいた。



 民達は沸き立ち声援を送った。



 獣の国に囚われている令嬢を救いに向かう話や王国最強の騎士団長も共に行くと聞き、兵達もやる気に満ちていた。



 山道を進む中、途中兵達と休息をとっている時にガルバスは一人、グラウス王国に先に赴くことも思案したが……


「貴方には、お話しておきましょう。私は離れた場所からも連絡とることができる術があるのです。」


 何を馬鹿な……ガルバスはそう思ったが、ベリルが腰に下げた袋から水晶を取り出し、それに向かって話かけ、水晶からも声が発せられた。自分の耳を疑い辺りを見回すガルバスだったが、今騎士や兵達から離れ二人でいて、他に人の気配を感じなかった事から、ベリルの言うこと全てを、疑うことができずにいた。



 ベリルはガルバスの行動を、目に見えない鎖で縛った。



 水晶はジルニアがベリルに、オルウェンと連絡をとるのに必要だろうと渡していた物だ。水晶は真っ白になり、魔法を使用することは出来ない。しかしベリルはオルウェンから預かっている物を大切に腰の袋へと戻した。



北と南の者達は、それぞれ町を目指す。



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