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ルミナスは、推測する

 

 ……なぜ四つも?代々国王が所持する指輪の魔力は二つ。東と南……オスクリタ王国とサンカレアス王国の二国が共謀しているとして、残りの小さな魔力はなんだろう………


 私が俯いて思考に耽っていると、イアンが私の顔を覗いてきた。「ルミナスさん…?」と遠慮がちに声をかけてきて、私は一旦考えるのをやめて、顔を上げる。


「国王陛下。この町に近づく、四つの魔力の反応を捉えました。」

「……四つ……?」


 陛下は私と同じように怪訝に思ったようだ。

 サリシア王女が「父上、他国の三国が手を組んでいるのではないですか?一つ多いですが…アクア様も魔力をお持ちだった。他国の魔人様の魔力かもしれません。」と陛下に話していたが、私は「それは違います。」とサリシア王女の言葉を否定し、視線が私に集中する。


「先ほど私は魔力の反応を捉えられると言いました。私は魔力の大きさも分かるのです。アクア様の魔力はとても大きく、今確認した限りではアクア様と同じ大きさの反応はありませんでした。ニルジール王国は指輪の反応が国内に留まっています。東と南に指輪の反応と、それよりも小さい反応が北と南にあったのです。」


 私の言葉を聞き室内が静まり返る。皆が考えを巡らせているようだった。



 私はふと、疑問に思った事を陛下に尋ねる。


「国王陛下。一つお尋ねしたいのですが…国王陛下は魔法をお使いになりませんが、他国ではどうなのでしょうか?」

「………!」


 陛下は私の言葉に、まさか…と言って両手を机の上に置き拳を固く握っている。



 ……獣人の人達は強い。けれど魔法は、皆にとって未知の力だ。村人は黒い霧を見たと言っていた。なんらかの魔法を受けたなら、知らない人に魔法は脅威に感じるはず。


「父上、二百年前に人間達がこの国を攻めてきた時は、魔法の使用はあったのですか?」


 私の側に立つイアンが陛下に尋ねるが「いや、争いがあった際、その当時の国王が書物に残している物があるが、そのような事は書いていなかった。それ以降はこの国で争いは無く他国同士がどうだったか分からないが…」と陛下が握っていた拳の力を緩めて答えた。



 グラウス王国では魔法を使うことを恐れた。

 でも他国の王が同じとは限らない。



 私はゆっくりと口を開く。


「これはわたくしの推測ですが、他国の国王は魔法を争いの道具として考え、使用している可能性があります。魔法は奇跡の力…何ができるか、わたくしは全てを把握しているわけではありません。しかし指輪を持つ者以外で二人、指輪から魔力を何かに移し魔法を使ってくるかもしれません。それにお互いに連絡を取り合う術も得ている場合があります。」


「な……ッ!そんなことが…」


 陛下が再び拳を固く握るのが目に入った。

 あくまでも私の推測に過ぎない。けれど、魔力を持つのは魔人四人と光の者…私だけなら、指輪から魔力を何かに移したとしか考えられない。それと通信機器が無いこの世界で、足並みを揃えて同時に各方面で兵が動き、また東側では異変が生じている。



『いつまで経っても本当に人は変わらないね』



 私の頭の中でアクア様の言葉が過ぎる。

 アクア様が外にいた頃は何度も争いがあって、魔法を目にする人々も多かったはずだ。

 魔人を……魔法を争いに利用した人々。



 フッ…と突然イアンが私の手に触れてきた。

 驚いてイアンの顔を見ると、私の手を取って「強く握りすぎ…」と呟く。私は自分でも無意識に手を、爪が食い込むほど強く握っていたようだ。意識するとズキリと痛みが走った。



「ルミナス嬢。君は一先ず部屋で休みたまえ。」

 その言葉を聞いた私は、手に向けていた視線を慌てて陛下に戻す。

「いいえ!わたくしは…」

「ルミナス、父上の言う通りだ。今はこちらも下手に動けないしな。休める時に休んでおけ。」


 私の言葉をサリシア王女が遮り「……はい」と私が返事をすると、サリシア王女は薄く笑みを浮かべた。



 ……この町が、これから争いの場になるかもしれないんだ。肝心な時に倒れて足手まといになりたくない。



 私はそう思って、陛下に退室の挨拶をして執務室を出る。部屋まではイアンが一緒に行くと言って、付き添ってくれた。









「俺が来るまで部屋の中から出ないように。あと…」

「分かりました。他に誰が訪ねても、何があっても今は部屋から出ませんから。」


 イアンは私の言葉を聞いて部屋を出て行く。

 イアンが食事と、私に着替えを持ってきておくと言ってくれて、取りに行ったのだ。何度も部屋から出ないように言われた。



 心配かけてごめんね、イアン……。



 私がベッドに腰を下ろして休んでいると、イアンはすぐに戻ってきた。扉を開け「ごめん、これしか無かった。」と言って私にパンを持ってきてくれた。「十分だよ、ありがとう」笑顔で私はそれを受け取る。村人達に食事を配りスープは無くなっていたそうだ。私がパンを食べる姿を見て、イアンは肘にかけていた服を机の上にのせ、持ってきた蝋燭も置く。

 蝋燭の明かりが室内を照らしていた。

 イアンも椅子に座り、自分の分のパンを食べ始める。


 食べている間はお互いに無言だったが、私が食べ終わるのを見てイアンが「……もうあんな事は言わないでほしい。」と小声で話す。


 ……あんな事?


 私が首を傾けて疑問に思っていると、イアンが椅子から立ち上がって、私の目の前に歩み寄ってきた。


「傷……『平気』だなんて…」

「え?だって私はすぐに治」

「――ッ痛みはあるんだろ!平気なわけない!!」


 私の言葉を遮ったイアンの怒鳴り声に、思わず体がビクッと動く。「……ごめん、怒鳴って…」イアンが私から気まずげに視線を逸らして、私も俯いてしまう。すると、イアンの足元しか見えなかったのが、跪くのが目に入り、私は顔を上げて視線をイアンと合わせた。


 イアンの片手が私に伸ばされ、髪をひと束掴みすくい上げる。私の髪色は鎖骨辺りまで白くなっている。



 イアンの金色の瞳がジッ…と私を見つめていて、私は視線を逸らせずに、お互い沈黙が続いた。

 自分の心臓の鼓動がずっとドクドクと激しく鳴っている。イアンが髪から手を離し、自身の腰に下げた袋から何かを取り出して、私に手渡した。



 ……あ、これって……あの時の…。


 見覚えのある猫の置物を両手の手のひらにのせ、穏やかな気持ちでそれを見つめ、自然と顔がほころぶ。


「……喜んでもらえたようで良かった。ルミナスさん、ずっと険しい顔してたし、城の外で会ってから無理して笑っているように見えたから。」


 イアンの言葉に私は内心ドキリとした。

 自分でも作り笑いをしている自覚があったけど、暗がりの中で気づかれると思わなかった。



「イアン…私は、この国が好きです。人も…町も…」

「え…?」


 イアンは私の脈絡のない話に、目を丸くしている。

 私は今自分が思っていることを、イアンに伝えておきたかった。


「私はこの国に来れて良かったと思っています。最初に見つけてくれたのがイアンで…本当に良かったです。」

 イアンは私の話に、黙って耳を傾けてくれていた。私は手のひらにのせていた置物を両手で掴む。


「平和だったこの国に争いを起こし、人々を傷つける相手を私は絶対に許せません。私は部屋の中で閉じこもって、何もせずに争いが終わるのをただ待つ事だけはしたくないです。だからイアン…お願いです。私が何をしても、止めないでください。」


「…………。」


 イアンは話を聞いて、眉を下げ悲しげな表情で私を見つめていた。何を言っても私の気持ちが変わらないと知っていたのか、イアンは「分かった」と一言だけ呟く。


 イアンがその場で立ち上がって「俺はもう行くね」と言って机の上に置いた蝋燭を手に持ち部屋を出て行った。私はベッドに仰向けになり、まだうるさく鳴っている心臓を、深呼吸して落ち着かせる。







 イアン



 イアン



「……好き…」




 私は手に持ったままでいた置物を、自身の胸に置き握りしめる。イアンのことが好きだと自覚したのは、マナの言葉がきっかけだった。いや、その前から私はイアンをずっと意識していた。




 イアンと一緒にいたい。


 私を嫌いになってほしくない。





 自分の気持ちを自覚すると、次から次へと想いが溢れ出そうになる。










 この気持ちを胸の中に閉じ込めて……



 そのまま瞳を閉じ、私は眠りについた。


次話は視点を変える話になります

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