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ルミナスは、怒りが湧く

 

「何!?今の光!」


 私とアクア様がいた辺りには人が誰もいなかったが、塔にいる人は気づいたみたいだ。聞き覚えがあった声を聞いた私は、塔を見上げる。


「……その声、もしかしてマナ?」

「え?……ルミナスさん!?」


 マナは塔の最上階にいるようだ。塔の頂上から人影が顔を覗かせているのが見えた。マナの他にも誰か私を見下ろしているようだが、はっきりとは確認できない。マナは塔の端に足をかけると壁の頂上にジャンプして降りた。私はアクア様の時の事を思い出して、そこから先は俯いて、大丈夫、大丈夫…と心の中で自身に言い聞かせながら、マナが降りるのを見ないようにした。



「ルミナスさん!なんでこんな所に一人でいるんですか!」

「マナの様子が気になって跡を追ってきたの。この塔って入り口無いのかな?」

 俯いて地面を見ていた視界にマナの姿が入り、私は顔を上げて話した。マナは辺りをキョロキョロと見回している。先ほどの光が気になるようだが、私が普通にしている事と、質問をした事で意識をこちらへと向けてくれて、塔のことを説明してくれる。


 塔には出入口がなく、壁を登って一番上まで行かないと中に入れない。石造りの壁の厚さは分厚く、頂上まで登れば歩くスペースはあり、塔の中は梯子を使って上り下りができるが、塔から出るには外に出て自力で降りるしかない。マナは今まで、最上階にいる見張り番の人とずっと話をしていたり外の様子を見ていたと話してくれた。



 マナはルミナスが来る前にアクアが壁の頂上にいた事は知っていたが、見かけない子だと思いながらも、今はそれよりも気になる事があったため、そちらを優先した。アクアの見た目が獣人の子供であったのと、壁は町に住む子供が鍛錬の場として登り降りしていて、マナも幼い頃はイアンやトウヤ達とよく壁で、誰が早く頂上に行けるか競争していた。



「見張りの人と何を話していたの?」

「こっちに村があるんですけど…火が一つも見えないのが変らしいです。村との距離が離れてて、私には違いが分からないんですけど、父さんと一緒に見張りしてる人は目が良いから、間違いないです。」


 ルミナス達がいる東側の城壁の外は、すぐ側に川が流れている。街の中には井戸も汲んでいるが、この川は町の水源となっており、日常生活にかかせないものだ。川から先は平野が続き、小さな村が四つある。そして山がオスクリタ王国との国境になっていて、山一つ越えた先はオスクリタ王国の国土となっていた。

 村では畑の他に羊や山羊などの家畜小屋があり、獣を警戒して夜の間は火を絶やすことはない。見張りの者はいつも火がついている光景を見ていた為、いち早く異変に気付き、城に伝えに行ったのである。



「もしオスクリタ王国から人間が来たのなら、狼煙が上がるはずだと聞きました。……こんな事は初めてで、父さんも村に何かあったのかと心配であんなに慌ててたみたいです。」

 マナは城が建つ方に視線を向ける。



 ……オスクリタ王国……!


 マナの言葉に盗賊のカイルのことが頭を過る。


 まさか盗賊が村に?

 それともオスクリタ王国から兵が?

 でもそれなら目や耳が良い獣人ならすぐに気づくよね。マナが言ったように火が全く見えないのは、私も変だと思う。オスクリタ王国には今お父様がいる。もしも兵が動いていたとしたら、お父様は今どうしているのだろうか……。


 私が考えを巡らせていると、マナが私に視線を戻して「でも隊の人達が村に向かうことになりますし、大丈夫ですよ。」そう言って私に笑顔を見せた。


 城に戻ってみよう…そう思った私はマナに城に戻る事を伝えると「城まで送りますよ」と言って、一緒に行くことになった。








 けれど歩いている途中で、マナが急に立ち止まる。


「……マナ?どうしたの?」


 私の前を歩いていたマナは、顔を横に向けてそのまま固まっている。私が声をかけても反応はなく、頭についている耳が動いているのが暗い中でも僅かに見えた。


 ……何か、マナには聞こえているのかな?


 私には何も聞こえない。マナの隣まで歩み寄ると、マナが「……馬の足音と…声…」と呟くのが聞こえた。


「マナ!教えて!何が聞こえるの!?」

「………。」


 私はマナの言葉に反応してマナの正面に行き、両肩に手を置いて揺さぶる。しかしマナは私と視線を合わさず「ルミナスさんは早く城に戻った方がいいよ。」とだけ言って私の手を振りほどき城まで向かって再び歩き始めた。私が塔を目指して走っていた時は、街中を他の人が歩く姿は無かった。けれど今は人が行き来し、声を上げた私には目もくれず壁や城へと向かっている。


 私はマナの言葉に不安を抱きながら、城まで向かった。



 ……子供の泣き声が聞こえる…。


 城の近くまで来ると、甲高い声が聞こえた。一体どこから……そう思った私はその場に立ち止まり、辺りを見渡す。先を進んでいたマナが私が止まったことに気づいて振り返り「ルミナスさん、早く行きましょう。」と声をかけてくるけれど、私はその場から動かなかった。


 ふと、視界に明かりが目に入る。


 ……あの辺りは、イアンと行った広場がある場所だ。


 私は気になって、その場に向かって走り出した。泣き声も広場からのもので、段々と声がハッキリと聞こえてくる。後ろから走ってきたマナが私の横に並び「ルミナスさん!行かない方が良いですよ!」と声を上げるが、私は足を止める気はなかった。





 ……一体、何があったの……。


 広場に着いた私は唖然とした。広場は人で埋め尽くされていて、いるのは女性と子供ばかりだ。

 隊の人だろうか。腰に剣を下げた人が何人かいて手に松明を持って立っている。私が見た明かりはこの松明の火だったようだ。

 ……子供達の泣き声が頭に響く。

 私がその場に立ち尽くしていると、マナが側に寄ってきて「村人が町に逃げてきたんです。」と小声で言った。私はマナがあの時立ち止まっていたのは、この人達が門から入ってきたことに、気付いたのだと思い至る。


 事態は私が考えているよりも深刻な状況なんだ。


「ルミナスさん、行きましょう。」マナが再び小声で話、私を促す。私は頷いてマナの後を付いて歩こうとしたけど、振り向き様に泣いている子供の膝から血が出ている姿が視界に入った。

「待ってマナ、お願いがあるの。あのね……」




 ……そして私の言葉を聞いたマナは、私が譲らないのを見て渋々ながらも私のお願いを聞いてくれた。





「人間だ!」

「なんで人間がこんな場所に…!」


 私が広場の中に割って入ると、気づいた人達が声を上げて敵意を剥き出しにしてきた。マナや隊の人が諌めてくれるけど私に対し声を荒げて、厳しい視線を向けてくる。私はゆっくりと、先ほど見かけた子供の前に歩み寄った。この子の母親であろう人が私に警戒して睨むが、私はその場にしゃがんで、その子と視線を合わせる。


 ……きっと逃げる時に転んだんだ。


 私がその子の膝に視線を向けていると、その子は地面に転がっている石を取り「ニンゲンなんかいなくなれっ!」と震えた声で私に向かって投げてきた。子供でも力があり、頭に当たった私は俯いて額から血が伝うのを感じたけれど、私は構わず顔を上げて、その子に微笑みかける。



 ごめんね。


 ……ごめんね。


 でも……人間全てを憎まないでほしい。



 私は先ほどマナに、二つお願いをした。広場に入って私に何があっても見逃してほしい。そしてもう一つはまた布をもらえないかと頼んだ。私は手に握っていた布を、その子の膝に巻いて縛る。その子は最初、私が手を伸ばし肩をビクリと震わせたけれど、巻いている間は大人しくしていた。

 私は立ち上がって、呆然としているその子に再び微笑みかける。振り返り広場の外に向かって歩いている私に、周りの人達はシン…と静まり返っていた。



 私が広場の外に出て、後ろから追いかけてきたマナが私の隣に並び「大丈夫ですか?」と心配して声をかけてきた。「平気だよ」と淡々と私は返事をして城までの道を足を止めずに歩き続ける。


 マナは広場に入る前に何度も止めてくれた。人間のルミナスさんが、あの場に行くのは危険だって……それでも、あのまま何もせずにいられなかった。


 私はすぐに血が止まって傷も、もう治ってる。


 こんな傷、大したことない。






 争いを引き起こす相手に対し私は、心の中でフツフツと怒りが湧いていた。



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