ルミナスは、告白される
食堂でサリシア王女が私に、頷いて答えた後のこと……私の隣に座るサリシア王女が少し考える素振りを見せてから、ライアン王子に顔を向けて話しかける。
「……私はこれから隊の者達が鍛錬をしている修練場へ向かうが、他国から来た要人を放っておくわけにもいかないしな…共に来るか?」
「おっ、ありがてぇな〜是非頼むわ!修練場かぁ…サリシア王女!せっかくの機会だ!手合わせしようぜ!」
サリシア王女の提案にライアン王子は、嬉しそうな顔をして、キラキラと瞳を輝かせてサリシアに話した。
……副団長をしているライアン王子は、サリシア王女が隊長だって知っているのかな?ライアン王子がどれだけ強いか知らないけど、湖で闘うサリシア王女は凄かったなぁ〜。
ちょっと二人の手合わせ見てみたいかも…。
いや、私はこの後イアンからの話があるんだ!
隣の会話に耳を傾けていたが、ふと気になってイアンの方に顔を向ける。しかしイアンは目を閉じていて、周りの会話を聞いていないようだった。
「ふん、良いだろう。門の時は遅れをとったが、次はそうはいかんぞ。本気で相手をしてやろう。行くぞ、付いて来い。」
ライアン王子の言葉を聞いてサリシア王女が、挑発するような視線を向けながら立ち上がる。それを見てライアン王子は「へへっ…お手柔らかに。」と楽しそうに笑っていた。
ライアン王子も席を立ち、マシュウとラージスに「ほらっ、行くぞ。」と声をかけて、食堂から四人が出て行った。私はマシュウとラージスの後ろ姿を見ながら、肩の力を抜く。二人はずっと私の近くで跪いたままだった。
はぁ…。自分がするのは良いけど人に跪かれるのは、なんか恐縮しちゃうよ。二人のは謝罪でだけど。
二人の罪をライアン王子から聞いて、前世の記憶が戻る前だったら「絶対に許しませんわ!今すぐ自害しなさい!」と言って激怒していただろう。
しかし今は二人に対して何も思うことは無かった。
マシュウは「報・連・相は常識だよ!」
ラージスは「人の言葉を鵜呑みにしないで、自分の足で証拠集めをしないとダメじゃない!」と言いたかったくらいだ。
いや、絶対にそんな事は言わないけどね。実際は「そうでしたか」と言っただけだけど。二人の罪が軽いものでは無いと分かるけど、別に死んで償えとは思わなかった。
ゲームでは、二人共将来は父親のようになりたいと思っていて、ヒロインがマシュウと成績を競ったり、一緒に学び合ったりして、ラージスは剣の鍛錬をしている場所に差し入れをしたり、応援をしていた。
先程ライアン王子に、男爵に捕まっていたことを話した際にマシュウの狼狽えようが凄く『この首で!ルミナス嬢の気が少しでも晴れるのならッ!』とマシュウが言って、ラージスの腰に下げていた剣を取ろうとし腕をのばした。ラージスはマシュウの手を掴んで止めさせ、その代わりにラージスが『ルミナス嬢、私も貴方に斬られる覚悟はあります』と言って剣を差し出してきた。ライアン王子が『お〜そうかそうか、ルミナス嬢、俺が代わりに斬ってやろうか?』と私に聞いてきたけど……
『く、首なんていらないです!マシュウは国に仕えるんでしょう!ラージスも騎士を目指しているのに死んだらダメです!』とゲームでヒロインと会話していた内容を思わず言ったら、ラージスは目を見開き『ルミナス嬢…』と私の名前を呟き、剣を持ったまま呆然としていて、マシュウは顔をくしゃりと歪ませ『――ッぅ…は…ぃ…』と目に涙を溜めて小声で返事をしていた。マシュウはゲームで知的クールキャラだったから、その姿に思わず見入ってしまった。
そもそもマーカス王子と結婚しなくて良かったと本気で思う。中身が残念すぎる。顔は確かに綺麗な顔立ちをしているけど、ゲームの対象者はもちろん顔立ちが整っているし、顔だけ見るならこの世界の人はほとんどがそうだ。
体も動かしているからか、肥満体型の人を見ないし……うっ、男爵の姿が浮かんでしまった。
消去消去。
イアンだって体を鍛えているのか、細身だけど意外と筋肉が付いてる。背負ってもらったり、抱き上げてもらったり、馬に乗る時捕まって……思い返せば、なんだか密着することが多かったような………いや、もう考えるのはやめよう。
イアンを意識しすぎてる自分になんだか恥ずかしくなり、首を横に振って思考するのをやめる。
その様子を見て前に座るアクア様が「大丈夫ー?」と言って可笑しそうに笑っていたが「大丈夫ですよ。」となんでもない振りをして誤魔化した。
「さて、と…僕もその辺を散歩してくるよ。せっかく外に出てるし、国がどんな感じか見てくるね。」と言ってアクア様が笑顔で食堂を出て行った。
……あれ?今イアンと私二人きりだ!
意識しすぎだ、と思ったばかりなのに、室内を見回し二人きりの状況に、心臓がドクンッと一瞬大きく跳ねる。
イアンの方に顔を向ける事が出来ずにいたが、イアンから何も言ってこない事に不思議に思い、ちらりと様子を伺うように見ながら「……イアン?」と声をかけ……
「―――ルミナスさん!!」
……イアンが閉じていた瞳をカッと開くと、勢いよく立ち上がって声を上げた。
び、びっくりした!
まさかイアンが大きな声を出すと思わなかった。
今は別の意味で心臓が早まっている。
「……姉上達がいない…」イアンは本当に何も会話を聞いていなかったようだ。周りをキョロキョロと見回して驚いた表情をしている。
イアンもしかして、寝てたのかな?うわぁ…もしかして今から人生で初めての、告白イベントを受けるのかとドキドキして身構えてた自分の頰を引っ叩きたい!
「皆もう出てったよ」と内心の動揺を隠し、平静を装ってイアンに話しかけた。するとイアンは顔を私に向けて「その…隣に座っていい?」と真っ直ぐに私を見ながら言った。「え?は、はい…」なぜ?とは聞かなかったけど、私の言葉を聞いたイアンが、先ほどまでサリシアがいた席に座る。
イアンが座る時に体をテーブルではなく、私の方を向いて座ったため、私もそうした方が良いのかな?と思いながら、イアンの方へと体を向き直した。
イアンが口を開くのが視界に入り、再び私は身構えたが「ルミナスさんは……えっと…本当にもう、ヒカル王子が好き…じゃないのか…?」とイアンが自身の太ももの上に置いていた手を、拳をつくりながら言った。
ん?
ヒカル…王子?
そんな人いたっけ?
首を傾けて考えていたら、イアンが「ルミナスさん、森でずっと名前を呼んで泣いていたから…」と眉を下げて言ったのを聞いて、イアンが勘違いしてる事に思い至り、吹き出して笑ってしまった。
イアンがキョトンとしながら私を見て「ち、違うよイアン。ヒカルは私が飼ってた猫の名前だよ。王子の名前はマーカス。本当にもう好きじゃないです。イアンはマーカス王子の名前を知らなか……」と言ってからヤバっ!この世界猫いたっけ?少なくともサンカレアス王国にはいなかった!と思い、言葉に詰まってしまった。
「そ、そっか…猫の名前…。ルミナスさんの国にもいるんだ」とイアンは私の言葉を聞いて目を見開き、自分の勘違いに恥ずかしそうに俯きながら話した。
え?…いるんだ猫!
驚きの新事実だ。「グラウス王国にはどんな動物がいるんですか?」と私は食い気味にイアンに質問した。イアンは「え?あー…猫は広場に行けばいるし、後は犬かな」と思い出すようにしながら言った。
なんてことだ!獣人の国はモフモフの宝庫だった!
そういえば、最初にこの国に着いた時は少ししか街の中を見ていないし、後は門から城まで馬で駆けていたから、じっくり見る暇が無かった。
そう思った私は今日特に何もする事がないと気づき、イアンに「イアンは今日何か予定がありますか?」と聞くと「…いや、無いけど…でも」と他にも何か言おうとしていたけれど、私はその言葉を聞いて「イアン!私、町に行ってみたいです!」と食い気味に話した。笑顔で話す私を見てイアンが「じゃあ…町を案内する。」と柔らかい表情で言った。
「はい!お願いします!」
やった!楽しみ!
私のテンションは急上昇し、椅子から立ち上がって「行きましょう!」とイアンを促す、するとイアンが慌てた様子で「あ!待ってルミナスさん!」とイアンの横を通り過ぎていた私の右手を、イアンが立ち上がって左手で掴んだ。私は驚いて顔を振り向かせながらイアンを見ると、イアンが私の掴んだ手をギュッと握り「違う…あいつを好きかどうか、聞きたかったわけじゃない。本当は…言いたいことが…」と伏し目がちに言った。
あ…イアンの話しの事忘れてた。
イアンが名前を勘違いしていたことと、町のことに意識が向かってしまって話が終わった気でいたけど…
私はイアンの方に体の向きを変え、お互いに向かい合わせになる。それでも、イアンは私の手を握ったまま離さなかった。イアンの手がすごく熱い。イアンの顔を見るのが恥ずかしくて、私は俯いて握られてる手に視線を向けた。すると僅かにイアンが握る手を強めたように感じ、私は顔を上げて……イアンと視線が合った。
「 ―――ッ好きだ。初めて会った時から俺はッ……ルミナスさんのことばかりを、考えてる。ルミナスさんのことを俺は、すごく………すごく、好きだ。 」
イアンは顔が真っ赤になっていて、真剣な眼差しをしていた。
イアンの手は……かすかに震えていた。




