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ルミナスは、母を想う

 

 ―――な、な、なんでマーカス王子達がここにいるの!?



 周りと同じように、ルミナスも驚いていた。


 皆の視線が自分に向いている事に気づいたルミナスは、内心の動揺を抑えながら「失礼いたしました」と礼をして退室し、早歩きでその場を去る。

 イアンとアクアもルミナスの後を追うように、その場を離れた。




「ルミナスさん…俺、すーーっごく心配したんだけど。」


「…ごめんなさい。」


 謁見の間を離れて、話をするために再び食堂へと三人で戻ってきた。イアンはずっと、ふくれっ面でルミナスを見ている。


「僕も突然ルミナスの魔力が増えて、消えるんだもん。すごく驚いたよ。」


「……ごめんなさい。」


 再び謝ったルミナスは項垂れながら、アクアから自分がいなくなった後の話を聞く。



 《瞬間移動》はアクアも知らない魔法だった。そのためアクアもルミナスが消えた事に動揺したようだ。


 アクアに「どうやったの?」と聞かれ「指輪の側に行きたいなって思ったら…行けちゃいました…」とルミナスが言うと「…ふ〜ん」とアクアはルミナスの言葉に、納得いってない顔をしていた。

 本当は前世の記憶にあるアニメの瞬間移動するイメージも頭に浮かんでいたが、それは黙っておくことにした。



 ルミナスが消えた後アクアは魔力感知を行い、サンカレアス王国にいると分かってイアンにも伝えたが、イアンは余計に混乱して取り乱したという。


 イアンは城内を歩き回ってルミナスを探し、本当にいないんだと理解すると、今度はレオドル王にルミナスがいなくなった事と、サンカレアス王国に行く許可をもらおうとした。

 だがレオドル王が執務室におらず、再び歩き回って探していたら、兵から謁見の間にいることを聞いて向かった。

 そして兵が止めようとするのを振り切り、扉を開いた時に目の前に現れたと…。



「なぜ、サンカレアス王国の方々が来ているか知ってますか?」


「……え?サンカレアス王国の…?」


 ルミナスがイアンに尋ねたが、イアンは兵から詳しく話を聞いてなかった。いや、兵は言おうとしていたが、謁見の間にいると聞いた途端、イアンがすぐに向かったせいだ。それでも普段なら、誰かが来訪していると思い至るが、この時のイアンは冷静ではなかった。

 謁見の間に入った時も、扉を開けた瞬間にルミナスが現れたため、誰がいたかをよく見ていない。



 ……そういえば、お父様はオスクリタ王国に私の捜索依頼を頼みに行ってるんだっけ。もしかして、それが目的?…なんでマーカス王子が…。私に対する嫌がらせ?いやいや、それはないか。


 ルミナスは俯きながら考えを巡らせたが、自分がここにいるのは誰も知らない事だし、只の偶然だろうと思う事にした。



「ねぇ、さっきからルミナスが大事そうに持ってる、それってさ…もしかして中に指輪ある?開けて見せてほしいな。」


「あっ!はい!」


 アクアから言われて、ずっと手に持っていた宝石箱の事を、受け取った経緯を二人に話しながら鍵を開ける。



 蓋を開けて中を見たルミナスは、言葉を失った。



 中には指輪が一つと、黒い宝石が付いたネックレスが一つ入っていた。そして指輪に付いている宝石の美しさに、ルミナスは目が離せないでいる。

 その宝石は中央が白く、その周りを囲むように赤・水色・緑・黒の不思議な色合いをしていた。



「…あれ?ヒビが入ってる。」


「ちょっと貸して!」


 よく見ると宝石には僅かだが、ヒビが入っていた。ルミナスはあまり気にならなかったが、アクアは焦ったように椅子から立ち上がって身を乗り出し、宝石箱を自身へと引き寄せる。その様子に呆気に取られたルミナスだったが、アクアが指輪を手に取り難しい顔で「ありえない」と一言零した。



「…この指輪は特別だって言ってたよね。これは僕達四人の魔力を込めてあるんだ。それにヒビが入っているって事は、僕達で抑えられない程に魔力が膨大なんだよ。」


 アクアは指輪とルミナスを交互に見ながら話して、ため息を吐いた。

 イアンは心配そうな顔でルミナスを見て「また白くなってる…」と言い、ルミナスも髪色が胸の辺りまで白くなっている事に気づく。



「ルミナス自身の魔力の量も増えてるね。…そういえば魔力が増えると、怪我をしても治りが早かったり、病にかからなくなっていたな。」


 アクアの言葉を聞いて、イアンとルミナスは目を合わせた。「そういえば…包帯付けてない…いつから?」とルミナスに聞き、湖で水浴びする時にはずして痛みが無かったから、そのままにしていた事をルミナスは思い出す。手首や足首をよく見ると跡もなく、完治していた。


 ……怪我していた事なんて、すっかり忘れてたよ。


 森でイアンに背負ってもらい、この国に来たのが随分前のように感じたルミナスだった。




「とりあえず…これはルミナスが持っていて。魔法を使わなければ、このままの状態で抑えられると思うけど…不安なら身につけておくと良いよ。つけるだけなら指輪の魔力がルミナスに戻る事はないからね。」


「はい…」


 アクアは宝石箱をルミナスに戻すと、右手の薬指に指輪をはめる。そして黒色のネックレスを見て、もしかしたら母親が身につけていた物かもしれない、と思ったルミナスは首にネックレスをつけた。


 二人はルミナスの様子を黙って見ていたが、ネックレスを付けた時にアクアは、複雑そうな顔をしていた。


 

 中身が無くなった宝石箱を見ると、下に白いハンカチを畳んで敷いていたようで、手に取り広げてみる。



「これって…もしかしてお母様が…。」


 そのハンカチの端には、宝石箱の蓋部分にあるのと同じ、花と葉の文様が刺繍されていて、その横には名前も刺繍されていた。



  ルミナス・リト・ファブール



 もし国が残っていれば、女王として受け継ぐ名前だったのだろう。ルミナスは涙ぐみそうになり唇を噛み締めながら、そのハンカチの刺繍を指の腹でゆっくりと触り、亡き母を想う。



 ハンカチを丁寧に畳んで宝石箱の中へと戻し、鍵をかける必要は無いだろうと鍵も一緒に入れて、蓋を閉じた。


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