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ルミナスは、気に入られる

 

「――――ッなっ…!ななな…何、して…ッ!」


 隣で跪いていたイアンの動揺した声を聞き、ルミナスは我に返る。イアンはこちらを見ながら顔を真っ赤にしていた。


「何って、ただの挨拶だよ。」


「挨拶でキ…キスする奴がいるかよ!」


 アクアの言葉にイアンは立ち上がって声をあげたが、ルミナスは…そういえば前世では挨拶で外国の人がしてたよね…と納得し、深く考えないようにした。キスとはいえ頰なのと、アクアの見た目が少年だった為落ち着きを取り戻せたルミナスだった。



「イアン控えないか!アクア様に対して無礼だぞ!」


「―――ッはい…。失礼致しましたアクア様…。」


 レオドル王が声を張り上げ、まだ納得いかない顔をするイアンだったが、跪いて頭を下げる。


「別にいいよ。なんだかその子、僕に嫉妬しているだけみたいだし。」


 アクアの言葉にイアンは肩をビクリと震わせ言葉を発しようとしたが、先程レオドル王から言われたばかりなので、グッと堪えて言葉を飲み込む。その様子にアクアは楽し気な表情をしていた。


 アクアは執務室を見回すと「皆立って少し僕から離れて。」と言い、全員がその場に立ち上がり壁際に寄る。するとアクアは床に手をつき、何をするのか…と皆がアクアに注目して見ていると、床から石造りの椅子が向かい合わせで現れた。


「この部屋なんにもないね。座り心地はあまり良くないけど皆座ろうよ。」と言い、促されて椅子に座る。



 大人三人が座れる大きさがある椅子に、レオドル王とサリシア、ルミナスを間に挟むようにしてアクアとイアンが座った。



「…父上…さっきから理解できない事が多すぎて…俺は夢でも見ているのでしょうか?」


「…夢ではないイアン。これは現実だ。私もこうしてアクア様のお力を見るのは始めてだが…。」


 イアンとレオドル王は興味津々な様子で、椅子を見て触っている。サリシアは普通にしているが座る時は警戒していたのか恐る恐る腰を下ろしていた。

 ちなみにルミナスは…今の魔法だよね!凄い凄い!と思いながら興奮して目を輝かせていた。



「これは父上が私に話してくれた『魔法』なのですか?ルミナスがラナを救った時とは違うように見えました。」


「え!?あれはルミナスさんが治したのですか!」


 イアンはサリシアの言葉に驚き、正面に向けていた顔を横に座るルミナスへと向ける。

 尊敬の眼差しで見つめてくるイアンにルミナスは、いたたまれない気持ちになった。



「……イアン、お前には成人したら話すつもりでいた。この世界には魔法と呼ばれる奇跡の力が存在し、それを使えるのは唯一国王と…だが、サリシアにもまだ話していないことがあるのだ…」


 そこで一度言葉を切り、アクアへと視線を向ける。この先を話すことにレオドル王は躊躇しているようだった。

 アクアは「僕の姿も見せてるし、話ていいよ。」と言い、レオドル王は話の続きを言う。



「これは国の機密事項だ。私も即位した際に先代の王から伝え聞いたもので…」


「えぇ!?ちょ…私、部屋から出ましょうか!国の機密事項とか聞きたくないです!」



 ―――そのワードはやばいって!私なんかが、聞いちゃダメだって!



 レオドル王の言葉を遮り、ルミナスは思わず本音を言いながら椅子から降りて立ち上がる。

 もうルミナスは後戻り出来ない程、首を突っ込んでいるのだが。


「いや、ルミナス嬢が光の者なら話を聞いても問題はない。これは君自身にも関わることなのだから。」


「私の…。」


 レオドル王はルミナスに対し優しい口調で言い、それを聞いたルミナスも自身に関係している事ならば…と覚悟を決めて再び椅子に腰を下ろす。ルミナスの様子にレオドル王は微笑みを浮かべ、右手の中指にはめている指輪が皆に見えるよう、自身の手を前へと出した。



「この指輪の宝石とアクア様は繋がっており、アクア様の魔力が込められているのだ。魔力とは魔法を行使する際の力で、代々国の王がこの指輪を引き継ぎ、そして守ってきた。私はこの指輪を用いて魔法を使うことは出来るだろうが、それはアクア様の力の一部を借りているに過ぎない。」


「…父上は魔法を使った事があるのですか?」


「いや、私は使った事は一度も無い。これを引き継ぐ際にこう言われたのだ。決して力を使ってはならない…この力を扱うのは危険で災いのもとになると。」


 レオドル王はイアンからの問いかけに答え、先代から聞いた時の事を思い出しながら、前に出していた手を自身に引き戻し指輪を見つめる。

 その表情は、ひどく神妙な顔つきをしていた。



 ……それなら指輪が無ければ国王は魔法を使えないってこと?……私はなんで使えるんだろう…。



 ルミナスが疑問に思っていると、レオドル王が再び話を始める。


「ルミナス嬢、母親の出身国を知っているかな?」


「お母様ですか…。お母様は私を産んで亡くなったので、よく知らなくて…お父様に聞いても、お母様の事は教えてくれなかったので分かりません。」


 ……そうだ。小さい頃、誰に聞いても母親の事を教えてもらえなかった記憶がある。使用人は私の前では決して話はしなかったけど、私のいない所で時折懐かしそうに母親の話をする姿を見て、私は隠れて聞いていた。私の知らない母親を知っているのが、妙に腹立たしくて、悲しくて…。


 ルミナスが項垂れて憂鬱そうな表情をしている姿に周りが心配そうに見つめていたが、それに気づいたルミナスが「…そ、それでお母様の出身が何か関係あるんですか?」と顔をあげてレオドル王に話しかける。



「君の母親はファブール王国の王族だったのだろう。」


「……ファブール王国?」



 聞き覚えのない国の名前にルミナスや、サリシアとイアンも見当がつかない顔をしている。


「ファブール王国は女性君主の国で、女王は白い髪をしており『光の者』と呼ばれていた。そして指輪無しでも奇跡の力が使えると先代から聞いている。」


「その国はどこにあるのですか?」


「…それが…ファブール王国は、ここから南にあった国なのだが…今は存在しない国なんだ…。」


「そう、だったんですか…。」


 母親の出身国なら一度行ってみたいな、と思ったルミナスだったが、存在しない国なら自分が知らないのも納得がいった。そして父親が母親の事を話そうとしなかった訳も…。レオドル王の言う通りなら、母親は女王になっていた人かもしれない。しかも魔法を使えるなど、子供の頃の自分に話しても荷が重い話だ。



「私がファブール王国を知っているのは以上だ。何故ファブール王国の女王だけが魔法を使えたのか…何故滅んだかは知らないのだ。」



「…アクア様は何かご存知ですか?」


 ルミナスは隣に座るアクアに視線を向ける。アクアは今まで黙って話を聞いているだけだったが、魔人と呼ばれる存在だ。なんでも知っていそうな気がしてルミナスは質問したのだが……


「う〜ん。僕も滅んだ理由は知らないなー。僕はあまり人と関わらないから、自分の空間にいる事が多くて外の情報に疎いからね。国が滅んだのも、レオドルが王に即位した時に聞いて知ったし。」


 ……魔人は引きこもりか、と残念に思うルミナスであった。



「そういえば、先程アクア様は私を見て『魔力が少ない』とおっしゃってましたが、アクア様は魔力が見えるのですか?」


「うん、見えるよー。僕達は魔力を感知できるからね。魔力の色と大きさが分かるんだ。」


「色…ですか?」


「そうだよ。ルミナスが纏う色は白だ。光の者は膨大な魔力を所持していて、力を使いこなせないから代々魔力を指輪に全て移している筈なんだけど…最初に魔力を感知した時は驚いたよ。僅かな魔力しか無いから違うかなって思ったけど、最初より今は魔力の量が少し増えていたから、直接会って確かめたかったんだ。」


「魔力を封じた記憶は私に無いのですが…それに指輪も私は持っていないですし…。」


「きっと産まれた時に封じられたんだね。指輪は保管しているか、誰かが所持しているんじゃないかな。その指輪は特別製だから、王が持つ指輪と違って光の者以外は使えないし。…でも完全に魔力が戻っているわけでは無いのかな。自分で戻した訳でないなら、何か綻びが生じた理由があるのかな〜?」


 アクアは腕を組み考えを巡らせているようだが、ルミナスはアクアの言葉に表面状は平静を装っていたが、内心は冷や汗をかいていた。



 ―――まさか前世の記憶を取り戻したのが原因なんじゃ!?



 皆の前でカミングアウトする勇気など持たないルミナスは、そのまま黙っていることにした。



「それにしても…ルミナスって面白いね。」


「はい?」


 アクアの言葉の意味が分からずキョトンとするルミナスだったが「だって、これだけ色々聞いて落ち着いているし、僕が魔法を見せた時だって興奮している様子だったから。」と言われて「そ、そんな事ないですよ!十分驚いていますし、今だって頭がパンクしそうです!」と思わず答えてしまった。


「…ぱんく?」とルミナスの言葉にアクアが疑問をもち、ルミナスは自身を殴りたくなる気持ちになる。

 


 ――うわぁあ!馬鹿!この世界に『パンク』なんて言う人いないのに!混乱て言えば良かった!つい前世の口調で喋っちゃったよ!



 ルミナスの動揺が顔に出ていたのか、アクアは「やっぱり君って面白いね。」とクスクス笑う。



「周りは話についてこれてないみたいだよ。」とアクアに言われ、ルミナスはずっとアクアに視線を向けて話し込んでいた事に気づき、周りを見回すと…


 ……サリシアとレオドル王は話していた情報を整理しているのか、顎に手を当てて考え込むような表情をしていた。親子だから仕草や表情が似ているな…と思いながら次に隣にいるイアンを見ると、イアンは視線をこちらに向けてはいるが、放心状態だった。


 ……『夢ではないか』とイアンは言ってたもんね。きっと脳内がキャパオーバーしてるんだろうなー。




「レオドル、僕しばらくは外に出ている事にするよ。」


「アクア様?」


 レオドル王はアクアに視線を向けながら驚きに目を見張る。アクアの言葉が予想外だった為だ。


「光の者を見たら、すぐ戻るつもりだったんだけど…」レオドル王からルミナスの方へとアクアが視線を向け、満面の笑みを浮かべる。


「僕、この子が気に入っちゃったんだ。だからルミナス…君ともっと話しがしたい。…ね?」



 ―――可愛い!!



 首を傾けながらこちらを見つめるアクアに、ルミナスは心臓を撃ち抜かれる思いだった。


「アクア様がお望みならば構いませんが…アクア様の存在は秘密にしなければなりません。他の者の目がある時は、非礼をお許しいただけますか?」


「うん、良いよ。僕のことを聞かれた時は適当に村の子を預かっている、とでも言って。」


「かしこまりました。」


 レオドル王はアクアに対し頭を下げて了承する。


 外は既に暗くなっていた。話も終わったため、アクアは椅子を魔法で元の何もない状態に戻して、一同は食事をしに食堂へと向かう事になった。


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