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イアン王子は、心に決める

23話〜27話のイアン視点の話になります

 

 ……全然眠れなかった…。


 昨日は食事もせずに部屋に戻ったため、料理人に言って食堂で早めの食事をしていたイアンの頭の中には

『惚れた』『結婚』『世継ぎ』のワードが何度も巡っている。


 そして食事を終えた頃、食堂にサリシアがやってきて「今朝は早いなイアン。私は食事を済ませてやることがあるから、ルミナスにも持っていけ」と言われた。


「…わかり、ました…。」


「私はこの後男たちの拷問にいく。お前も後で来るなら来い。」


「…行方不明の子達の件ですか?」


「そうだ。」


 サリシアはイアンにレオドル王と話をしていた内容を話す。そして「ルミナスは着替えも必要だろう。服はお前が色を選んで持っていけ。…他国では男が愛する女に自分の色を身につけさせるのが流行りみたいだぞ」と言われ、イアンは食事と服をルミナスの部屋に持って行くことになった。


 扉の前で入るのを躊躇していたら、向こうからルミナスが開けて驚いたが、イアンは必死に冷静な振りをしようとする。


 ――ネックレス付けてるんだ…。王子のこと、もしかしてまだ好きなんじゃ…。


 ルミナスの首にネックレスがあるのに気づき、王子からの贈り物と勘違いしているイアンは気持ちが落ち込むが、服を用意してきた事を思い出しルミナスに渡す。


「服の色は!俺が選んだから!」


 ――俺の髪色と同じ黒を選んだ!

 ……あれ?もしかして俺が好意を持ってるって、ルミナスさんに気づかれるか!?


 ルミナスが微笑んでる姿を見て、気になりドキドキしているイアンだが、サンカレアス王国では瞳の色と同じ装飾品を贈るのが流行りで、イアンの瞳は金色…黒の、しかも服を渡してもルミナスがイアンの想いに気づくことは無いのだが。


 二人っきりの時は名前で呼んでくれる事になり、心の中でガッツポーズする勢いで喜んでいたイアンだったが、ルミナスからサリシアのいる場所を聞かれ落ち着きを取り戻す。


 …子供達の居場所が分かるかもしれないんだ。男達が正直に話すとは思えないし、拷問はするべきだと分かってはいるけど…。


 イアンは犯罪者といえど、一方的に相手を傷つける拷問が好きではなかった。もちろん好きや嫌いで行う事でもないし、必要な手段として拷問を行う事自体を否定するわけではない。


 そして拷問していると聞いたルミナスの行動は、イアンにとって予想外だった。血生臭い所に自分から行こうとするなど思わなかった為である。


「走っちゃダメだって!あれだけ痛がってたくせに!部屋で大人しくしてなよ!」


 こちらに何の反応もしないルミナスに苛立ち、声を荒げて腕を掴み無理矢理に止めてしまう。痛そうな顔をしたルミナスを見てイアンはズキリと胸が傷んだが、それでも止まらない姿に一緒に行くことにしたが……


 ……地下にルミナスを連れて来た事をイアンは後悔した。倒れている男達とサリシアの様子を見たイアンは、男達がサリシアに反抗し口を割らなかったのだろうと察しがついた。


 ……ルミナスさん大丈夫かな…。ここに来て一体何をするつもりだろう…。


 ルミナスがその場に立ち尽くし小刻みに震えてる姿に心配したが、男に殺気と剣を向けているサリシアに、ルミナスが反論して驚愕する。


「ルミナスさん!だめだ!今の姉上は危険だ!」


 サリシアはルミナスが近づいてきて殺気をこちらへと放っていた。そのサリシアの殺気にイアンは足が震え、止まってしまう。


 ―――ルミナスさんを止めないと!くそっ!俺が震えてどうする!動け!動け!


 ルミナスに声をかけても部屋を飛び出した時同様に止まる気配は無く、サリシアの怒声が響き剣を握り直した姿をイアンが捉える。


 ―――ッダメだ!!


 先ほどまで動きを止めていた足が自然と動いた。

 殺意…それは初めてイアンがサリシアに抱いた感情だった。ルミナスに剣を向けようとする者を実の姉でも許せたかったのだ。サリシアが引き下がってくれた事でイアンもフッと息を吐き落ち着く。


 …男と何を話すつもりなんだろう…。


 男とサリシア両方への警戒を怠らないまま、イアンはルミナスの様子を伺っていたが、男とルミナスの森でのやり取りを知らないイアンは疑問に思う。

 

 ………なんでこの男にネックレスをあげるんだ?王子からの贈り物じゃなかったのか?


 男から情報を得て出立することになったが、同行する許可をもらえた事に嬉しいイアンだが、ルミナスが一緒な事に不安を感じていた。


 ……姉上は強い。俺だって一緒だ…でも、もし万が一ルミナスさんに何かあれば…。


 ルミナスの部屋に行った時、城で待っててと言おうとしたが、イアンは言えなかった。

 子供達を救おうとやる気に満ちた姿に、ただ城で待っててと言っても無理だと思ったためだ。


 何かルミナスを止める良い案が浮かばないかと、馬に乗っている間考えを巡らせていたイアンだったが、結局思い付かずに村では怒鳴ってしまった。


 ……姉上が来なかったら俺は勢いで好きだと言う所だったな…。


 ルミナスがサリシアからナイフを受け取り決意が固い事を見たイアンは、ルミナスを残すのを諦める。絶対に側を離れない、とイアンもまた決意を固めた。



 ……姉上は…やっぱり凄い…。


 男達とサリシアの戦いを見ていたイアンは姉の凄さを改めて感じていた。あの人数を相手で、自分が一人で戦っても負けはしないが苦戦はするし、姉のようにあれほど圧倒的にはできないだろうとイアンは思っている。


 子供達を救えたことに安堵していたが、一人は重症なのが分かり、ルミナスにそれを伝えるのがイアンは辛かった。


 ……死を見るのは初めてじゃない。俺達だって病には勝てないんだ…。


 しかし奇跡が起きた。

 突然の光にただ呆然としていたが、ルミナスの髪色に気づく。ルミナスの側にいたイアンだから分かった変化だった。


 ……もしかして今のはルミナスさんが?いや、そんなわけないか…。


 イアンは知らない。

 サリシアが父親から聞いて知っている話のことを。


 野宿をすることになり、ルミナスも疲れていると思って休むことを勧めたが、サリシアから水浴びに行くと聞き動揺してしまった。


 ―――水浴び?こんな男ばっかりいるんだぞ!正気か姉上は!!何が目的だ!?


 イアンはサリシアを再び警戒するが、ルミナスは喜んでいたため結局側で見張る事にした。


 ―――誰か一人でもこちらを見ようとした殺す。


 隊の者であれ男には変わらない。イアンは全神経を集中させて見張りに務めていた。

 その姿は番犬のようだ。イアンは猫の獣人だが。


 すると、突然名前を呼ばれ心臓が飛び出るほど高鳴る。名前を呼ばれただけで嬉しくなり、口元がにやけそうになるのを必死に堪えていた。


 拭くものを探していると、いつのまにかサリシアが来ていた事を知る。


 ―――え?今もしかして……は、裸?なにしてんだよ!姉上がいるからって無防備すぎるだろう!


 イアンは今外を見張れていない。しかし着替えをしている為出て行くわけにもいかず、馬車の中でじっと待っているしかなかった。


 …ドレスとか宝石ばっかりだな…。


 積んでいた大小様々な箱を開けて中を漁っていたが、どれも貴族の女性が身につける装飾品やドレスばかりだった。とりあえずルミナスの着替えが終わるまで、箱の中に戻しておくか…とイアンは片付けを始める。



 適当に箱に戻し終えたがサリシアに声をかけられ、慌てて外に出てルミナスの側に寄る。


 ……足手まといって…ルミナスさんがいたから子供達の居場所が分かったのに…。


 剣の腕も強い腕力も無い。しかしイアンはルミナスの強い心に惹かれていた。他人のために…ライラや子供達の為に動こうと、どんな相手へも立ち向かおうとする優しく勇気があるルミナスに。


 ルミナスの泣き顔を見たくなくて、無意識にイアンは手を伸ばしていた。


 ―――な、なにしてんだ俺は!ルミナスさんビックリしてるじゃないか!


 何を話して良いか分からなくなったイアンはその後ずっと無言のままだった。




 それでもルミナスの側を離れはしない。



 この人を守りたいと、心に決めたのだから。




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