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ルミナスは奇跡をおこし、水浴びをする

 

 どんな光よりも明るく暖かい光に、サリシアとイアンや周りにいた隊の者達は皆、息を飲んでその光景を見つめていた。




 光が徐々に収縮し、ラナの全身を優しく包み込むように覆われていた光が消えていく。


 すると…


「――んっ。……おねぇーちゃん…だれ?あれ?ママ?ママはどこ?」


 ラナが身じろぎし、先ほどぐったりとしていた様子が嘘のように目をパチリと開けて、顔をキョロキョロと動かし母親の姿を探している。


「奇跡だ…。」

 呆然と立ち尽くしていた隊の一人が囁き、周りにそれが伝染していく。


 奇跡


 周りがその言葉を口にする中で、ルミナスは一人別のことを考えていた。


 ……今のはもしかして魔法…?なんで私にこんな力が…?


 前世の記憶があるルミナスだからこそ、そう考えた。先ほどはただ、ラナを助けたい想いでいっぱいだった。すると自分の体が熱を帯びたように熱くなり、手から光が溢れたのだ。


「サリシア様だー!」


 ラナがサリシアに気付き、ルミナスの腕の中から出て声をあげる。すると呆然としていたサリシアが、ハッとしながらラナを見た。


「ラナ…大丈夫か…?」


「?うん、ラナは元気だよー!」


 ラナは自分が危険な状態だった事に、気付いていないようだ。サリシアの質問の意味がよく分からなかったようで、首を傾けて笑顔で答える。

 するとラナの笑顔を見たサリシアが…


「―――ッ良かった…!ラナ!」


 …そう言って涙を流しながらラナに抱きつく。

 ラナは、サリシア様どうしたの?とサリシアの様子に戸惑っているようだった。

 ルミナスもその光景を見て涙ぐみながら、助けることができた、という事実に胸を撫で下ろす。



「ルミナスさん…髪が…。」


 ……髪?


 イアンからの言葉に、ルミナスは後ろに流していた髪を手で前にやり視線を向けて、毛先五センチ程白くなっていた髪が、更に同じ位の長さ白くなっていることに驚く。


 ……まさか魔法を使うたびに白くなるってこと?それじゃあ…牢屋から森にいたのって、私は自分で無意識に魔法を使ったのかな。

 でも、なんで髪が白くなるんだろう…。


 ルミナスは考えを巡らせていたが、今はラナを助けられた、子供達を皆救えた、そしてサリシアやイアン、他の人達皆が無事でいることに満足し、結局分からないことは後回しにするルミナスだった。



 その後、ここの後始末をし野宿をしてから再び戻ることになった。


 後始末とは男達の死体のことだ。死体を放置しておくことは疫病が蔓延する原因になる為、死体はどんな者でも埋葬しなければならない。

 埋葬方法は土葬か火葬だ。

 サリシアが死体と湖を交互にみて「ちょうどそこに水もあるし一気に燃やしてしまおう。」と言って火葬をすることになった。


 隊の者数名で死体を燃やしている火の番をして、子供達は眠ってしまった為その側で様子を見る者や、武器の手入れをしている者もいる。

 ルミナスは気が抜けてボーっとその光景を座って眺めていたが、隣に座っていたイアンが「少し横になれば?お、俺がルミナスさんの側にいるから…」と言ってくれて、それじゃあ少し横になろうと思ったが、「湖で水浴びに一緒に行くか?」とサリシアが来てルミナスに声をかけてきた。


「行きます!」

 この機会を逃せばまた長い移動になるため、一日一度は体を洗っていた前世の記憶があるルミナスにとって、その誘いを断る理由はない。


「え!?なんでルミナスさんを誘うのさ!姉上一人で行ってきなよ!」


「……なんだイアン、お前も一緒に入りたいのか?」


「―――ッな!ち、違う!そうじゃなくて…!」


「そうだな。そんなにルミナスが心配なら湖の側で見張っておけ…後お前らは覗いたら…分かっているな?」

 サリシアは隊の者達を睨みながら言い、こちらを見ていた者は顔を勢いよく逸らしていた。




「はぁ〜…暖かくはないけど、全身を浸かれるのはやっぱり良いなぁ…。」


 湖の側に馬車を横向きにして並べ、その影で服を脱いで湖に入った。サリシアはルミナスから離れた場所で血を流してからこちらに来ると言って、イアンは馬車の反対側で座っている。

 サリシアがまだ来ないが、あまり長く入るのもイアンに悪いと思い、出ようとし…ルミナスはタオルがないことに気づく。

 イアン王子、と呼びかけようとして、そういえば二人の時は呼び捨てにしてほしい、と言われていた事を思い出す。他の人達は離れてるから今は二人だけだし…そう思って名前を呼んだが……


「イアン」


「え!?な、ななな何!?」


 ……酷く驚いて動揺したイアンの声が返ってきた。


「すみません。タオルか…何か拭く物が欲しくて…。」


「タオル!拭く物!ま、待って!すぐ用意する!」

 イアンは馬車の中の荷物を漁って拭くものを探してくれる。馬車の中から探す音が聞こえて、水浴びをしたいと言って拭く物を考えていなかった事に申し訳なく思った。



「…何をしているのだイアンは…。」


「拭くものを探してもらってて…サリシア王女はもう洗い終わったんですか?」


「ああ、そっちで血を流す時に軽く洗ったからな。タオルなら私のを使え。」


「あ、ありがとうございます。」


 そう言ってルミナスに首にかけていたタオルを差し出して、ルミナスはそれを受けとるため湖から上がる。イアンに湖から上がった事とサリシアからタオルをもらった事を伝えたら「分かった!分かったから!――ッ早く服着替えなよ!」と怒られてしまった。




「ルミナス…今まですまなかった…。」


「え?」


 タオルで体を拭いて着替えをしていると、突然サリシアが謝ってきた。


「私は人間が嫌いだ。我々を差別し、見下し、獣人の力を利用しようと考える人間が…。以前私の友が町で働いていた時、人間の男から脅迫を受けた。その人間は最初は親切に接していたそうだ。いや、親切な振りをしていた。そうして信用を得てから、友のカルメラは男から自分が扱う商品を見せたいとの誘いに一人でついて行ってしまった。カルメラを見つけた時は町から出る前だったから助けられたが…。」

 サリシアはその時の事を思い出したのか拳をきつく握り眉間にしわを寄せ怒りを露わにしている。


 フッ…とサリシアは一度息を吐き再び話し始めた。


「ルミナス…お前の事も警戒し、世話をしたのはお前を調べるためだった。私は優しい振りをしていたのだ。何かおかしな動きを見せれば私は躊躇なく、お前を殺していただろう。しかしお前は子供達の為に行動し、救ってくれた。あの光が何か私には分からないが、ラナを救ってくれたのはお前だと私は思っている。ラナを…カルメラの子を救ってくれて、ありがとう。」


 サリシアはルミナスの前に跪き、感謝の意を示した。

 先ほどルミナスが救ったラナは、サリシアの友カルメラの大事な一人娘であり、だからこそサリシアはラナの様子を見たとき、冷静さを欠いてしまったのだ。


「そんな…!立ってくださいサリシア王女!私を警戒するのは当たり前です! 本当に…ラナちゃんを救えたのは奇跡のようなもので…」


「奇跡ではない。ルミナスがいたから救えたのだ。」


 ……私がいたから……。


 ルミナスにとって、それは何よりも嬉しい言葉であった。


「私はこれからも人間を嫌いだし、信用はしない。だがルミナスの事は信じる。本当に…ありがとう。」


 そう言ってサリシアはルミナスに優しく微笑みかけ頭を下げる。


「―――っう…ふえ…」


「ルミナス?」

 顔をあげるとルミナスがボロボロと涙を流していた。

 その姿を見たサリシアは馬車の方へと寄り、声を顔をかける。


「イアン、私の話は終わった。ルミナスも着替えは終わっているから出てこい。私は火の方を見てくる。」


「え?ちょ…姉上!?」


 サリシアはイアンに告げると行ってしまい。イアンとルミナスの二人がその場に残った。


「……ルミナスさん?姉上に何かされた?」

 イアンは二人を見ていた訳ではないので心配になり問いかける。


「ふっうぅ…ちが…サリシア王女の言葉が嬉しかったんです。私、ずっと足手まといで…何もできなくて…迷惑かけてるって…でも、でも…」


「足手まといでも、迷惑でもないよ!何言ってるのさ!」


「……うっ…で、でも、イアンも村に残れって言ったのに…私ついてきて…」


「それは……あの時は……その、弱いって言って、ごめん。ルミナスさんは強い人だ…。だから…お願いだから泣くな…。」

 そう言って苦しげな表情をするイアンは、片方の手をルミナスの頰に当てて親指で目の縁の涙を優しく拭う。


「は……い……。」

 イアンの予想外の行動に驚き、涙も引っ込み今は顔が真っ赤になっている。


「あ!ごめ…っ!」

 ルミナスが真っ赤になるのを見て、イアンも手を引き自分の行動に恥ずかしくなる。


「………」

「………」


 二人はお互い無言になって俯いてしまい、そんな二人の様子をサリシアは遠目で着替えながら眺めていた。


「全くイアンはだらしない。せっかく二人きりにしてやったのに…口づけの一つもできないのか。」


 サリシアの言葉をイアンが聞いていたら、できるわけないだろう!と顔を真っ赤にして怒るのは確実だろう。



「奇跡…か。」

 サリシアはラナを救ってくれた時のルミナスの姿を思い出す。


 隊の者やイアンは何が起こったのか理解できず、ただ奇跡が起こったと思っているだろう。

 しかしサリシアはそうではない。父親であるレオドル王からこの世界には魔法と呼ばれる奇跡の力が存在し、それを使えるのは唯一国王だけであると聞いていたからだ。

 実際にサリシアは見たことが無いが、あの光がそうなのだろうと思っている。



 …ルミナスは一体何者なのだろう…。



 サリシアは、父上に報告をすれば何か分かるかもしれない…と今はただ二人の様子を眺めていることにした。




 ―――朝の日差しが昇り始めた。



 一同は無事に任務を終えて再び馬を走らせる。


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