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ルミナスは、眠りに落ちる

 

 魔石に込めていた魔力を戻すと、全身に今までにないほど力が(みなぎ)るのを感じた。魔力を限界まで高めて、減る感覚が分かるようになったからだろう。


( ああ…そうだった。魔石の魔力も回収しないとね。)


 神様が笑みをそのまま、思い出したかのように一度頷いて見せる。アクア様達の攻撃魔法は消えてしまったから、私が魔法を放っても同じ結果に終わるだろう。


 ………みんなを……!!


 手をかざして地面に倒れたままでいる、マナとアル、アクア様達に向かって私は癒しの魔法を行使する。目が覚めるように強く想いを込めると、6人の全身が淡い光に包まれた。指輪を見ると、アクア様達の魔力が込められた魔石は色を失ってはいない。


( 無駄 無駄 無駄。アルとマナの2人だって、僕が睡眠状態を解除しない限り、目は覚めないよ )


 腕を前で組んで肩を上下した神は、私の行いを嘲笑(あざわら)っているかのようだ。神の言葉を無視して、私は魔法を継続する。


 ………二度と目を覚まさないなんて…アクア様達が死んでしまうなんて……そんなの嫌だ!!



 助けたい!!



 一心にそう想い続けていると、アクア様達の全身を包んでいた光が、輝きを放つ。


( 安らかに眠らせてあげればいいのに… )


 アクア様達の長年味わった苦しみは、私には到底分からない。けれど、私は……死んでほしくない。


( それ以上魔法を使わせないよ。回収する魔力が減ってしまう )


「 ルミナスに手を出すなぁああああああッ!!」


 怒りを含んだ声で吼えたイアンが再び地を蹴り、勢いをつけて神に向かっていく。物理攻撃が効かないことは分かっている筈だ。それでも……イアンは何度も、何度も、剣を振るう。


( イアン )


 頭に響く声に、私は身じろぎした。


「〜〜〜〜〜ッ!? くそ…ッ!!」


 イアンが悔しげな声を上げた。見れば、神の体には無数に斬りつけられた跡があり、剣が胸の辺りに突き刺さったまま抜けなくなっているようだ。


「イアン! 離れてッ!」


 私がそう叫ぶと、イアンが一度飛び退く。

 すかさず素手で神に向かっていくけれど……



 イアンの拳は、届かない。



 神が画面に指先を当てた方が早く、イアンの体が前のめりに倒れる。私はその光景を見て唇を強く噛み、血が僅かに伝うのを感じた。




 助ける! 助けるッ!! 私が、助けるッ!!



 この国でみんなと一緒にやりたいことが沢山ある!

 イアンと、みんなと…………!!




 輝きがさらに増して、眩しさに目を開けられなくなる。魔法が効いている手応えを感じないまま、突然パキパキと氷を水に入れた時のような音が聞こえてきた。


( わあ、びっくりした。僕らのシステムを壊す気 ? ハハハハハ。凄い、凄い。人の心は計り知れないなぁ…… )


 神の声は、全然驚いている感じはしなかった。さっきの音は、神の出している画面にヒビが入った音かもしれない…と私は思う。それなら、このまま……



( でも、結局は無駄だよ。……ルミナス )



 神が、私の名を告げた。



 その瞬間



 魔力が吸い取られるような感覚が私を襲う。

 咄嗟に私は自分の身体を両腕で強く抱きしめるようにして、魔力が吸われるのを抑えようとした。目を瞑っていたから見てはいないけれど、神は画面を消して球体を出したようだ。


 ――――お願い! いかないで……!!


 自分の魔力に語りかけるように、強く想う。

 それでも吸われていく感覚はなくならない。背筋に悪寒が走り、体の力が入らなくなった。立っていられなくなった私は地面にガク、と膝を付ける。呼吸が乱れて息苦しさを感じながら、固く目を瞑り、必死に堪えた。



 ………みんなを………助けたいのに………



 薄く目を開ければ、倒れたまま一切動く気配のないアクア様達が視界に入る。




 ………いかないで………




 意識が朦朧(もうろう)とするなか、私の前に五つの淡い光の玉がどこからか現れた。



 ………え……?



 ふっ、と身体が軽くなったように感じた私は、呼吸を整えようと深く息を吐く。吸われていた感覚がなくなって俯いていた顔を上げると、先ほど見えた光の玉が人の形に変わっていく。幻覚でも見ているような、信じられない気持ちになった。



 ………アクア様、リゼ様、フラム様、リヒト様……



 水色、緑、赤、黒…それぞれの色に光っている。

 全身の輪郭がぼんやりとしか見えないけど、私はアクア様達だと思った。


 ………もう1つは……?


 白色の光は女性のようで、私に背中を向けているように見える5つの光は、まるで私を守ってくれているようだった。


( な――――――ボク――――――― )


 ノイズ混じりの声が、頭の中で響いて聞こえた。

 5つの光で神の姿は全く見えない。その光が向きを変えて、顔の部分が私を見下ろしているように見えた。目を凝らしても、顔がハッキリとは見えない。光が私を抱きしめるように、次々と覆い被さり、私の身体のなかに溶け込むように入ってくる。



 ………温かい………。



 安心するような温もりを感じて、重たい瞼を開かせようと試みても、私の意思に反して瞼は徐々に閉じていく。白色の光が私を抱きしめた時、とても幸せそうに笑っているように見えた。



( はあ、もういいや。もともと予想していた分以上の魔力は回収できたしね。数百年後……君の子孫達が魔力を増やせることに期待しているよ )



 ドサ…と地面に前のめりに倒れて、頰に草がチクチクと当たる感触を僅かに感じるなか、今度はハッキリと神の声が私に届いた。状況がよく分からないまま、私は最後の力を振り絞るように手を前に出す。




 ………私の……大切な人たち………




 意識が遠のくなか、私は自分のなかに残っている魔力を使い切るつもりで、魔法を行使した。






 ………どうか………






 ……………








 ルミナスは目を閉じて、誘われるように深い眠りに落ちた。





次話 最終話となります。


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