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ルミナスは、叫ぶ

 

「………っ……ぁ、アル? ……マナ?」


 唇が震えて、じわじわと胸の中に不安が募る。


「――――アルッ! マナッ!!」


 呼びかけても、2人はピクリとも反応しない。



 パチパチパチパチ。



 子どもが、なにかを讃えるように小さく手を叩く。


 倒れている2人の横を通り過ぎて、こちらに向かって歩いてくる子どもの手元には、先ほどの画面はなくなっていた。

 くるくるとパーマがかった蜂蜜色(はちみついろ)の髪が歩くたびに揺れて、薄い唇は弧を描いている。けれど、髪と同じ色の目は笑っているようには見えなくて、陶器のように白い肌の中性的な顔立ちの子どもは、まるで人形のようだと思った。


( 魔力を増やしてくれて、ありがとう )


 叩いていた手をピタリと止めて、瞬きしない瞳は私に真っ直ぐ向けられている。笑みを絶やさない子どもを見て、私は金縛りにあったかのように動けなかった。


 ………ありがとう ?


 感謝される意味が分からない。


 ………まさか、さっきから頭に響く声は…この子が?


 この声を私は、以前にも聞いたことがある気がする。私が疑問に思っている間に、ザッ! と目の前にアクア様達が並び立った。頼もしく感じるアクア様達の後ろ姿を見つめていると……


「アルとマナに、何をしたッ!?」


 イアンの荒々しい声が耳に入ってきた。

 腰に下げている剣の柄を掴み、警戒態勢でいるイアンは鋭い眼差しを向けている。先ほどの画面が何か分からないけれど、子どもが2人に何かしたとしか考えられない。


( ああ…大丈夫。 邪魔だったから、睡眠状態にしただけだよ )


 なんてことないように返す無機質な声が、頭の中で再び響く。


「この声は…お前か。何者だ? 何故…最高司祭と、同じ容姿をしている。」


 質問を投げかけたリヒト様の重い声に、私以外の皆にも、この声が聞こえているんだと思った。


『 最高司祭 』


 今現在、この世界に教会は存在しない。リヒト様が別空間に閉じこもる前に教会が存在していたなら、何百年も前のことだろう。アクア様達がお揃いのローブを身に纏っていることを、今まで特に気にしたことがなかったけど、教会との間に何かあったのかもしれない。教会で一番立場の偉い人が、10才にも満たない子どもなのか疑問に思ったけど、同じ容姿だとしても今私たちの前にいるのは全く別人物だろう。アクア様達と違い、普通の人間が何百年も生きている筈ないのだから。


( あれ? 気に入らないの? 君達にとって思い入れのある姿にしたんだけど… )


 子どもが両手を大きく広げて、その場にクルリと一回転する。その仕草だけなら無邪気な子どもだ。アクア様達とお揃いの白いローブ姿で、首に身に付けている十字架が付いた長いネックレスが揺れ動く。


( ルミエールの方が良かった? )


 子どもが、ニィイ…と笑みを深める。ピリッと張り詰めた空気を感じた矢先に、私の前に立つ4人が子どもに向かって手をかざしたのが視界に入った。咄嗟に私は、アルとマナを守るように光魔法でバリアーを張って、アクア様達から放たれる魔法の巻き添えにならないようにする。




( わぁ、僕に魔法を向けるなんて…)




( なんて、浅はかなんだろう )




 ズタズタに体を引き裂くような風も、体を突き抜けるような鋭く尖る水の槍も、灼熱の火柱も、抗うことのできない引きずりこむ闇も……



 全て、無に帰した。



 子どもが何かした素ぶりは一切ない。私の目には、まるで魔法が拒むように消え去って見えた。


( 祈りや懺悔を僕に向かって散々してたくせに…ひっどいなぁ )


 腕を前で組み、口を尖らせてプンと怒っているように顔を逸らしているけれど、一つ一つの仕草が全て演技めいてるように見えるのは、声と動作に一切の感情がこもっていないように感じるからだ。


 ………もしかして、もしかして……


 ドクドクと鼓動が早まる。

 目の前に立つ子どもは、決して逆らうべき存在ではない。


「貴方、は…この世界をつくった、神様……?」


 声が掠れて、途切れ途切れに私は言葉を紡いだ。

 言葉にしてみても、神様が目の前にいることが信じられない。けれど…魔力感知をしてみても、子どもから魔力の反応はなく、アルとマナを一瞬で眠らせて、頭に直接話しかけてくることができるなんて…そんな存在、私には神様としか思えなかった。


「神かぁ……まさか会える日が来るなんて、ね。」

「なんで……っ……なんで、今更……ッ!」

何故(なにゆえ)…儂等の前に現れたのじゃ?」

「ルミナスに何かするつもりなら、神だろうと許さん。」


 アクア様、リゼ様、フラム様、リヒト様……

 私が言った言葉に対して前を見据えたまま、それぞれが反応を示した。驚いてはいるけど、そこまで動揺している様子はない。子どもが何者か、私同様に考えを巡らせていたのだろう。アクア様達は神を信仰していた時代に生きてきた筈だから、実在すると思っていたのかもしれない。


「……かみ……?」


 隣から独り言のような呟きが耳に入って、私はイアンに視線を向ける。イアンは前方に注意を向け続けて、私の(そば)に立ったままだ。私は以前アクア様から神について話を聞いたことがあったし、前世の記憶があるから神に関して多少は知っている。

『 世界 』も『 神 』も、イアンにとっては初めて聞く言葉だから、疑問に思っているのだろう。


( そうだね。この世界を作って管理しているのは僕だから、君達にとっては神になるかな )


 子ども…神様は、手を腰に当てて軽く胸を張る。

 アルとマナが本当に眠っているだけなのか気になる私は、2人を覆うようにバリアーを維持したままだ。


 ………あの外見は私たちの前に現れるために、神様が作り出したの?


 疑問はいくつか残るけれど『 魔力を増やしてくれて、ありがとう 』という言葉に、私は引っかかるものを感じていた。



( 別空間に移動される前に、高めた魔力を回収させてもらうね )



 神様の手元に、半透明の球体状の物体が現れる。

 アルとマナが倒れた時にあったものとは形が違って、手の平に乗るくらいの大きさだ。

 嫌な予感がした私は光魔法で、前に立つアクア様達と私とイアン、全員を覆うようにドーム状のバリアーを張る。神様の動向が分かるように向こう側が見えるようにして、警戒していたけれど………


( アクア )


 頭に声が響き、ほぼ同時にアクア様の体がグラッ…と後ろに傾く。その後ろにいたイアンが頭を地面に打ち付けないように体を支えた。


( リゼ )


 イアンがアクア様を地面に横にしている間に、リゼ様もガクッと膝を地面に付けて倒れた。


「魔力を回収…儂等の、魔力は」


( フラム )


 フラム様が何か納得したかのように声を漏らし、その言葉が途中で途切れ、持っていた杖が手から離れると同時に地面に崩れ落ちる。リヒト様が倒れた3人の名を叫ぶ声が、私の耳につく。


「〜〜〜〜ッ!? やめ……やめてッ! やめて下さいッ!!」


 バリアーを消して、必死に叫ぶ。


「お願いです! どうか話を…!!」


 私が叫び続けても、神様の視線は倒れたフラム様からリヒト様に移り、聞く耳を持たない。

 顔を振り向かせたリヒト様と私は目が合い、私に何か言おうと僅かに口を開きかけ………


( リヒト )


 リヒト様が声を発する間も与えられずに、体が傾く。私が手を伸ばす前に、すかさずイアンがリヒト様の体を支えて地面に下ろした。





 アクア様、リゼ様、フラム様、リヒト様……





 4人の纏っていた魔力の色が、完全になくなった。



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