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ルミナスは、体が竦む

 

「おはようございますっ!」

「おはよう、(あるじ)。」


 皆に食事を配っているマナとアルに「おはよう。」と返して、私は他の皆にも軽く挨拶しながらイアンの隣に座る。目が覚めて昨日の夜も利用したダイニングルームまで足を運ばせたけど、私が最後だったみたいで全員が揃っていた。

 大きなテーブルの上には朝食が用意されている。マナがアルと一緒に用意をしてくれたのだろう。厨房をまだ作っていないのに、スープがあって驚いた私がマナに声をかけると、2人は外に出て火を起こして、スープ作りまでしてくれたそうだ。


「環境が整うまで、無理しなくてもいいよ。」


「アルさんと一緒に作るの楽しかったですよ。マナも、ルミナスさん達の役に立ちたいんです。」


 そう言ってくれたから、食事に関してはマナに任せることにした。アルは火を起こすのが上手だと、マナは本当に楽しそうに話してくれた。厨房を早く作らきゃ…と思いながら、マナとアルに作ってくれたお礼を言って、私はアクア様に視線を向ける。


「魔力は大丈夫ですか?」


「うん、回復したよ〜。」


 好きに使って。と満面の笑顔で言ってくれるアクア様に、私はお礼を言って笑みを返す。マナとアルが椅子に座ると、全員で食前の挨拶をしてパンと温かいスープを頂く。食前と食後の挨拶に最初は戸惑っていたアルも大分慣れたみたいで、全員でやると一体感のようなものを感じた。


「ルミナス、今日は島に行くのか?」


「村長達が住めるように、家を何軒か建ててからにしようか迷ってるんだ。」


「でも島で話した人達以外の若い連中は、島に残りたがるかもしれない。先に行って、話をしてからの方が良いんじゃないか?」


「……そっか。全員とまだ話をしたわけじゃないもんね。」


 イアンと会話していた私は、カタ…と持っていたスプーンをテーブルの上に静かに置く。あの時は自分の考えがまとまらず、逃げるように島から出てしまった。


「んー…国に必要なものって何だろうね。」


「あら。ルミナスちゃんがいれば、それで十分じゃないの。」


「民達の暮らしに畑は必要不可欠じゃのぅ。これだけ土地が潤ったんじゃ…麦と葡萄畑と…」


「フラムは酒が飲めれば良いのだろう。」


 アクア様、リゼ様、フラム様、リヒト様の4人は食事をしながら会話を弾ませている。どことなく楽しそうに見えるのは、4人の雰囲気が明るいからだ。


「ワインとエール、まだありますよ〜。」


 満面の笑みを浮かべて、ワインボトルを手に持つマナがフラム様にお代わりを注ぐ。私はその光景を眺めて手元に視線を移すと、置いたスプーンを手に取って冷めないうちにスープを頂いた。




「島…だっけ? そこに僕も一緒に行きたいな〜。」


 食事が終わった後、アクア様にそう言われて私が承諾すると、リゼ様、フラム様、リヒト様の3人も一緒に行きたいと言って付いてくることになった。見たことない島に興味津々のようだ。

 アルとマナも付いてきたがったけど、イアン以外は影の中から見ていることになった為、2人には留守番を頼む。


「アルさん。ルミナスさん達の見送りをした後は何するんですか?」


「オレは馬の世話を…」


「マナも手伝いますっ!」


 廊下を歩きながら、私は後ろを歩くアルとマナの会話に耳を傾けた。マナはアルと話をしている時、普段よりも声が弾んでいるように聞こえる。


『 オレは(あるじ)に仕える身だ。どんな立場になろうと、国がどこであろうと守る。』


『 マナもファブール王国に住みますっ!』


 一昨日の夜、2人とも今後ファブール王国で暮らすと言ってくれて、凄く私は嬉しかった。村長達を移住させた後はグラウス王国に行って事情を説明するつもりだし、各国の国王陛下にも挨拶しに行こうと思う。


 ………雪が降る前に、三国に行くのは無理かな。


 まだまだ雪が降るのは先だろうけど、シルベリア領にいるお父様とお兄様にも報告に行きたい。やるべき事、やりたい事が私の頭の中に沢山湧いてくる。紙に書き出した方が良いなぁ、と思いながら扉を開けて外に出ると、湖が陽の光を浴びてキラキラと輝いて見えた。自然溢れる光景に、私は感慨深い気持ちになる。


 ………あれ?


 湖の中央辺りには、昨日アクア様が魔法で作った橋が架かったままだ。その橋の上に人影らしきものが視界に入って、私は目を手で擦って瞬きを繰り返す。

 隣から「子ども…」とイアンの呟く声が聞こえたから、私の見間違いではないようだ。ゆっくりとした足取りで橋を渡ってくる子どもに、私は引き寄せられるかのように足を進める。


 突然グイッ! と後ろから腕を引かれて、驚いた私は足を止めて振り向いた。私の腕を掴んでいるリヒト様は、眉をひそめて怪訝そうな顔をしていた。アクア様、リゼ様、フラム様の3人は目を見開いて、固まっている。まるで幽霊でも見ているような顔をしていた。


「どうしたの〜? どこから来たのかな?」


 橋を渡ってきた子どもに向かって、タタッと駆け寄ったマナが話しかけた。身長が低いから、間違いなく子どもだ。口を閉じている子どもに、マナがしゃがんで目線を合わせる。


「お前1人か?」


 アルも近寄って、子どもを見下ろしながら質問を投げかけた。けれど子どもは、何の反応も返さない。




( マナ、アル )




 不意に…直接頭に響くような声がして、私はビクッと肩を揺らした。あてもなくキョロキョロと視線を彷徨わせて、リヒト様が私の腕から手を離していたことに遅れて気づく。


「……え? え? 何っ!?」


「離れろッ!!」


 マナの困惑しているような声と、アルの鋭い声に反応して前方に視線を移すと、地面に座り込んでいるマナを庇うように、アルが立っていた。


 子どもの手元には先ほど無かった、半透明の液晶画面のようなものが二つ見える。手に持っているわけでない。イアンが2人に向かって「こっちに戻れ! 魔法かもしれない!」と初めて目にするものに警戒して声を上げた。


 アルがマナを抱き上げて、こちらに下がろうとしている間に、子どもがまるでタブレットを操作するように画面に指先を当て、






 その瞬間





 まるで糸が切れたかのようにアルが地面に倒れ、アルの手から離れたマナも、うつ伏せに倒れる。





 重なるように倒れた2人を見つめながら……





 私は体が竦んで、何もできなかった。




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