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ルミナスは、唖然とする

 

 ずっと馬を走らせるわけにはいかないので、途中川を見つけては休憩を繰り返し、馬は駈歩(かけあし)で進んでいく。



 湖に近くなってきた頃には既に日は暮れて、辺りは闇に包まれ月明かりだけが光源となっていた。

 馬は湖から離れた場所の川辺で木に繋げ、隊の者が数名残り馬を休ませておくことになった。


 そしてサリシア、イアン、ルミナスと隊の者二十五名で湖近くの森で様子をみる。


 大きな湖だったが、火をおこして周りを囲むように座り談笑する者達がいるのがすぐに分かった。

 幌馬車も三台あり人数はハッキリとは分からないが三十人ほどいる。カイルの証言通りだった。



 ここに到着する前に、子供達を救出する作戦を話していた。


 サリシアと隊の者二十名が盗賊達を引きつけ馬車から離し、イアンと残り五名の者で子供達を助け出すことになった。流石にルミナスは戦うことはできない為、ここで待機を命じられる。


 しかし…

 

「フン…あんな雑魚共など私一人で十分だ。お前達はそこで見ておけ。」



 ―――あれ?作戦は?


 ……ルミナスは先ほど話した作戦と、違うことを言いはじめたサリシアに驚く。



「人間共!私に斬られたい奴から来るがいい!」


 ルミナスが驚いている間にサリシアが勢いよく飛び出し男たちの前に出て声を張り上げた。


「…なんだぁ?この女ァ……。」


 男達がサリシアの登場に驚いたが、一人だけ冷静な男がいる。周りの男達やサリシアより一回り体が大きく、きっとこの男が『頭』と呼ばれる人物であろうとルミナスは推測する。


「…両手を使うまでもないな。」


 サリシアは男を見て腰の左右に下げている短剣の片方を抜き、手に持つ。

 それを見て男は、足元に置いてあった大剣を持ち立ち上がった。


「…てめぇら!何呑気に座ってやがる!ぼさっとしてねぇで女を取り囲めっ!」

 男が怒鳴り声をあげ、周りの男達に指示を出す。


 サリシアはそれを見てその場から距離をとり、男達はその周りを囲むように剣を構えながら立った。


「獣人だろぉが相手は女一人だ!全員でかかれっ!」

 男からの声でサリシアを囲んでいた男達が一斉に襲いかかる。



「―――ッ!」

 ルミナスはその光景に息を飲み、叫びそうになるが…


「大丈夫ルミナスさん…姉上はここにいる中で圧倒的に強いから。」


 …隣にいるイアンが落ち着いた声で話しかけてきた。そして結果はイアンの言った通りになる。


 ルミナスにはサリシアの動きが全く見えなかった。男が悲鳴をあげたと思ったら首を斬られ、足首を斬られ、胴を斬られ…次々と男達が倒れていく。



 あれだけいた男達は全て倒れ、血を浴び無傷で立つサリシアの姿だけが残っていた。



「…後はお前一人だな…。」


 サリシアは剣の血を払い、頰についた血を手の甲で拭いながら一人残った男の元へ一歩踏み出す。


 男はサリシアの強さに恐れを感じ後退り、馬車にいる子供を人質にでも取ろうとしたのか振り返り…


 …自分が窮地に立たされていることに気づく。


 ルミナスもサリシアの方ばかりに視線がいって最初は気づかなかった。隊の者達が少しずつ馬車へと向かっていたこと、そして自分の隣にはイアンしか残っていなかったということを…。

 隊の者達はサリシアの独断行動にも何も言わなかった事から、もしかしてサリシアの行動に慣れているのかもしれない。


 隊の者達とサリシアに挟まれ男は「チッ!」と舌打ちし片手に持っていた大剣をすかさず両手で持って、サリシアの方へと向かっていった。

 大勢より一人のサリシアを倒し、突破口を開こうとしたのか分からないが、それは無謀な行いだった。


 サリシアは体を捻り、振り上げてきた大剣を横に交わす―――ことはせず、真正面から男の剣を自分の持つ短剣で受け止め動きを止めさせた。


「―――なッ!」


 男は驚愕の表情を見せる。それもそうだろう。体も男の方が大きく、剣も大きい。両手で渾身の力で込めた一撃を受け止められるとは思わなかった為だ。

 それは男よりも、サリシアの剣技と腕力が遥かに優れているためだ。



「この程度で私に向かってくるなど…死んで後悔するのだな。」


 サリシアは地を蹴り瞬時に男の懐に入り、首へと短剣を突き刺す。

 サリシアは剣を引き抜き横へと体を移動させ、男はそのまま前のめりに倒れ二度と動くことはなかった。


 ルミナスはその光景をただ唖然としながら見ていることしかできなかった…。


 …サリシア王女って、こんなに強かったんだ…。


 剣同士の戦闘を実際に見るのは、これが初めてだ。

 ルミナスからみたら男は強そうに見えたのだが…サリシアの強さは正に圧倒的だった。



 馬車の方では隊の者達が三人の子供達を探しており、男達を全て無力化したことからイアンとルミナスも馬車へと向かった。

 馬車の中には沢山の荷物が積んであり、子供達は一つの馬車に一人ずつ手足を縛られて横たわっていた。

 二人目が馬車から出てきて、助かった事に安堵し泣いている子供の姿に、ほっとしていたルミナスだったが…


「サリシア隊長!来てください!この子の様子が…!」


 …と三人目を出してあげようとしていた隊の者が子どもの異変に気付き声をあげた。

 サリシアがその声でこちらに向かい、ルミナスもその子の側に寄る。



「―――ッこの子の体温が熱い!熱を出してる!」

 ルミナスが子供の体に触れて様子をみる。


 サリシアはその子の近くまでくると「そんな…ッ!ラナ!おい!しっかりしろ!」と叫んでいた。

 サリシアの様子から、この子供とは顔見知りのようだった。年齢は三歳ぐらいで兎の獣人の子供は、吐いたのか衣服が汚れていた。ぐったりとしていて、サリシアの呼びかけにも反応はない。



 ――まさかこの子ずっと放置されていたの?


 ルミナスは愕然とするが、医療の知識を持たないルミナスは対処方が分からない。

 隊の人に飲み物を用意してもらい、子供の口に含ませようとするが、子供は飲むこともできない。


 いくら獣人が身体能力が高いといっても、まだ幼い子供の状態にこのままでは危険だとルミナスは判断する。


「――ッ医者は?医者はどこに行けばいるんですか!?」


 ルミナスは子供を抱き、サリシアに問いかけるがルミナスの後ろにいたイアンから答えが返ってくる。


「ルミナスさん、医者はこの国には城にしかいないんだ。姉上や隊の人達でも多少の怪我なら診れるけど…。」


「―――そんなッ!」


 ……ここから城まで大分距離があった。子供の体力が持つか分からない。


 ルミナスは何か打開策がないかサリシアの方を見るがサリシアは「ラナ!ラナ!」と子供の名前を呼び続け、取り乱している。先ほど男達と戦っていた時の冷静さはどこにもない。


「その子はもう助からないよ…。」


 ――――助からない?


 イアンの言葉がルミナスの胸に刺さる。


 この世界は前世の薫が暮らしていた時代に比べると、病院があるわけでもない。医者も貴重で数が少ない。

 子供がここまで重症化している状態は、この世界では死を意味する。

 周りの人達もそれが分かっているのか、沈痛な面持ちでこちらを見ていた。



「………ま…」


 微かに声が聞こえた。


「ラナ!」

「ラナちゃん!」


 サリシアとルミナスが声をかけるが、意識を取り戻さない。ルミナスには「まま」と聞こえた。



 ――――助けなくちゃ!



ルミナスがそう強く想った、その瞬間…



…辺りが眩い光に包まれた。



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