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ルミナスは、未来を思い描く

 

「……はい、大丈夫ですよ。」


 指輪を嵌めている手を口元から離すと、私の前方に淡く光る扉が三つ現れる。砂漠を背に光る扉は幻想的で、初めて目にするマナとアルだけでなく、私も思わず見入ってしまう程だ。


「―――ルミナスっ!」


 最初に出てきたのは、アクア様だ。ニコニコと笑顔のアクア様は軽い足取りで私の前まで来ると、隣に立つリヒト様を見て笑みを深める。アクア様とリヒト様が視線を交わしていると、続けて扉からリゼ様とフラム様も出てきた。何度か連絡を取り合っていたけれど、なんだか3人に会えたことが凄く久しぶりな気がした私は、嬉しく思って自然と口角が上がる。


「あら…ルミナスちゃんの言う通り、本当に砂しかないのね…。」


「昔は、緑豊かな土地だったんじゃがのぅ…。」


 リゼ様とフラム様が砂漠を見て、哀しげな声を漏らした。2人は砂漠の広がる光景を、口を噤んで見つめている。初代女王…ルミエールと暮らした日々を思い返しているのかもしれない。


「あれから何百年も経ってるんだし、昔と変わってるのは当たり前だよ。……リゼもフラム爺も、そんな顔してたら皺が増えるよ。」


 隣に並び立ち、覗くように横から2人の顔を見ていたアクア様が「大丈夫、僕が緑いっぱいの土地にするから。」と明るい声を上げた。


「皺は余計よ。」


 リゼ様が自身の頰に手を当て、冷たい視線をアクア様に向ける。女性に皺が増えるなんて言ったらダメだよ! と私は心の中で叫びながらハラハラするけど、アクア様はリゼ様の視線を全く気にした様子はなく、フラム様は杖を持たない方の手で自身の髭を撫で、やれやれといった様子で肩を竦めている。


 昨日…

 村長達にまた来ると言って島を後にした私は、砂漠の土地を魔法で緑豊かな土地に変えてから、再び島に行くことにした。今朝、身支度を整えた後。まず最初に私は魔法を行使する前に、アクア様に指輪を通して話しかけた。ファブール王国の今現在の様子、魔力を借りて大規模な魔法を行使するのは初めてだったから、アクア様の魔力をかなり使ってしまって大丈夫か…念のため確認をした。


『 そっかぁ……僕、そっちに行こうかな。』


 そう言ったアクア様に、便乗するようにリゼ様とフラム様も私たちの所に来ると言って、とりあえずアクア様には陛下に一言いなくなることを伝えてから、こっちに来てもらうことにした。


『 帰りを…待ちきれなかったんだろう。 』


 アクア様達がこちらに来ることに対して、リヒト様が穏やかな声でそう言って私の頭を優しく撫でてくれた。そして少ししてアクア様が、行ってもいい〜? と話しかけてきて、3人がこの場所に来てくれたのだ。


「3人とも…(あるじ)と同じように魔法を使うのか…?」


 私の後ろからアルが、声を潜めて質問してきた。

 にわかに信じられないといった様子だ。「そうだよ。失礼のないようにね。」と顔を振り向かせて声を落として返すと、アルは真剣な表情で一度だけ頷く。


 魔法を使えるのがリヒト様の他にも3人いることを、アクア様達が来る前にアルには説明しておいた。魔人ということは伏せて、4人のことは私に魔法を教えてくれた先生だと伝えてある。


 ………そういえば…アルとリヒト様が喋ってる姿を、一度も見たことないかも……


 2人が何気ない会話をしてる姿を想像していると、前に横並びに立っていた3人のうち、アクア様がくるっと振り向いて私に視線を向けた。


「それじゃあ、早速やってみるよ。」


 小さく首を傾げてアクア様が、ニコッと笑みを浮かべる。「よろしくお願いします。」と言って笑みを返すと、アクア様はやる気に満ちた顔で振り返り、砂漠を見渡しながら腕をブラブラと振っていた。アクア様の頭には、リゼ様とフラム様のように昔のファブール王国の景色が頭に浮かんでいるのだろう。


 砂に膝と両手を付けたアクア様を、私と周りにいる皆は固唾を飲んで見守る。







 けれど……





 砂漠は、一向に変化を見せない。



 私はアクア様の背中と砂漠が広がる景色を交互に見て、範囲が広いからかな? 浜辺の方から変わってるのかな? と疑問に思う。リゼ様とフラム様が顔を横に向けて怪訝そうな顔をしてると、アクア様がスッ…と立ち上がった。


「……ルミナス、ちょっと…こっちに来て魔法を使ってみてよ。」


「は、はい!」


 呼ばれて私は、アクア様の隣に歩み寄る。横目でアクア様を伺うと、砂漠を見つめているアクア様の表情が深刻そうに見えた私は、心に不安が浮かんだ。


 しゃがんで砂の表面に両手の平を付ける。

 瞼を閉じて集中しながら自然豊かなグラウス王国の森を頭に思い浮かべた。


「……だめか。」


 ぽつりとアクア様の、ため息混じりに零した声が耳に入った私は、瞼をそっと開ける。


 ………あれ?


 いつもなら、魔法が行使されている筈だ。でも目の前に広がる光景は何の変化もない。試しに目を開けたまま、セラスチウムの花が一輪咲くのをイメージするけど……何も起きない。


 ………え? なんで? どうして……?


 私が戸惑いを感じていると、アクア様、リゼ様、フラム様、リヒト様の4人は輪になって何やら話をしていた。イアン、マナ、アルの3人は馬車の近くで、状況が分からず、その場に立ち尽くしている。


「ん―…どうしよっか〜。」

「こんなこと…初めてね。」

「30年前に魔法を使おうとした、強い想いが影響してるのかのぅ…。」

「………。」


 リヒト様は顎に手を当てて黙っているけど、3人の会話を拾った私は、立ち上がって輪に加わった。シルベリア領でお父様から聞いたことを、アクア様達には今朝、簡単に話してある。30年前にオスクリタ王国が光の者を狙い、お母様が魔法を使おうとして全てを消し去ってしまったことを……


 民達を虐殺されて目の前で自分の母を殺された、お母様の絶望や悲しみは計り知れない。まるで…今のこの国は、お母様の心を反映したかのようだ。


 アクア様の魔法は生きた大地の上でしか発揮されないなら、この国を蘇らせるには……



 俯き気味に考えを巡らせていた私は、自分の手の平を見つめてギュッと固く拳をつくり、顔を上げると正面に立つリヒト様と目が合う。私の考えていることが分かったのか、リヒト様は僅かに口角を上げて微笑んだ。オッドアイの瞳が優しげに私を見つめ、背中を押してもらったような気になる。イアンに目を向けると、何かを察したのかアルとマナを残して私の側に来ようと歩いてきてくれた。アクア様達3人は互いに意見を出して解決策を見出そうとしてくれてるけど、きっと口には出さないだけで、私が思いついたことに気づいている筈だ。




「私が……この国を、癒してみせます。」




 そう言葉を掛けるとアクア様達は口を結び、シン…と一瞬だけ静まり返る。


「でも、ルミナス…」

「ルミナスちゃん…それは…」

「むぅ…」


 顔を曇らせた3人を見て、私を心配してくれてるのは痛いほど伝わってきた。魔法を使わないように指輪を与えてくれて、今までずっと魔力を惜しみなく私に使わせてくれていたのだから。私の魔法で上手くいくか、実際にやってみないと分からないけれど…お母様が傷つけた大地を癒すことは、私の運命だったのかもしれない。


 目線を落とすと、側に来たイアンが私の指先に触れ、昨夜のように優しく手を握ってくれる。言葉を交わす必要はない。私の気持ちを、イアンは分かってくれている筈だから。


 強く握り返すとイアンの手から温もりを感じて、満たされたような思いになる。ゆっくり手を離して私は皆よりも前に出ると、再び砂の表面に両手の平を付けた。


「る、ルミナス! だめだよっ!」

「待ってルミナスちゃん!!」

「〜〜〜ッリヒト! 何をしておる! そこを退くのじゃッ!」


 アクア様達の、焦り混じりの声が耳に入ってきた。見てはいないけれど、止めようとする3人の前に、リヒト様が立ち塞がっているのだろう。




 明るい未来を思い描く私に、躊躇(ためら)いなんかない。




 しっかりと前を見据えたまま、大地が蘇るように強く想って魔法を行使すると……









 辺りが眩い光に包まれた。










 ………あっ………




『 そうねぇ…壁にぶつかったように感じたわ 』



 以前、リゼ様が教えてくれた言葉が頭を(よぎ)る。これだけ範囲の広い魔法を行使したら自分の身がどうなるか、考えていなかった訳ではない。魔法を行使する度に、魔力が増えるのだから…




 私の魔力は、これ以上増えることはない。





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