ルミナスは、覚悟を決める
その後カイルは、先ほどサリシアに吼えていた時とは違い、素直に子供達の居場所を話し始めた。
カイルの話では、ニルジール王国の国境寄りにある湖の側に拠点があるようだ。拠点と言っても仮のもので、常に移動をしていて本拠地というものは無いそうだ。
獣人の子供達を攫った後の集合地点のようなものだろう。
盗賊達の人数は三十人ほどで、幌馬車を後三台所有しており、中にサンカレアス王国で仕入れた商品や森で捕らえた動物の毛を剥ぎ取った物を積み込んでカイル達が戻り次第ニルジール王国に、商人と護衛という名目で入国する予定だという話だった。
カイルが本当の事を話したのか疑わしく思ったサリシアだったが、今はそれに賭けるしか子供達を救う手掛かりはないのだ。カイルからの話を聞いた後サリシア、イアン、ルミナスは地上へと出て階段の入り口にいた兵に、気絶している男達とカイルを任せた。
そしてサリシアはレオドル王の元へ出立する旨を伝えに行き、ルミナスとイアンもレオドル王へ共にサリシアと行きたいと願い出た。
ルミナスが行くことにサリシアやレオドル王は難色を示したが、死んでも知らないぞ…と言われながらも、ルミナスが一歩も引かない事から許可を出す。
レオドル王はイアンが付いていく事は別に構わなかったようだが、サリシアの方を見ながら「良いのか?」と問いかけ「……今回だけです。」とサリシアは答えていた。
そしてカイルの処遇だが、話た内容が本当だった場合は命は助けると、ルミナスはレオドル王と約束を交わした。
もちろんルミナスも、あの男たちがした事を許したわけではない。カイルから聞き出す為だったとはいえ、口約束だったとしてもその約束を破るのは躊躇したためであった。
サリシアにスカートでは動きずらい事をルミナスが伝えると、渋々ながらも自分の服一式を貸してくれた。
サリシアとイアンが出立の準備をしている間に、ルミナスは部屋に戻り、置いたままだった食事を急いで食べる。食事をしている場合ではないが、腹が減っては戦はできぬ、という前世での言葉が頭に過ぎったためだ。
服はサイズが少し大きかったが、ベルトで調節し着替えを済ませる。
ルミナスの支度が終わった頃イアンが来て、共に城外へと向かった。部屋に来た時イアンはルミナスに何か言いたげだったが、ルミナスがどうしたのか聞いても結局イアンは何も言わなかった為、その後二人は無言のままだった。
城の外に出ると馬が用意されていて、ルミナスはイアンの馬に跨り、腰に手を回してしっかりと捕まる。最初サリシアは自分の馬にルミナスを乗せようとしていたが、イアンが譲らなかった為だ。
そして昨日城に報告に戻ってきていた、隊の者も合流して国を出立する。
カイルが話していた盗賊達のいる場所は、隊の者達が一泊している村を超えた先にあるとのことで、まず一同は村へと向かうことにした。
ルミナスは移動中、ふとカイルとの会話を思い出す。盗賊の情報を得る為に聞いた際のことを――……
『あなた達盗賊は、どの国から来たのですか?』
『俺は…俺たちは皆オスクリタ出身だ…。あの国は…腐ってやがる…。』
カイルは何かを思い出しながら、歯をギリッと噛みしめ体を小刻みに揺らしていた。
ルミナスがカイルの様子に何かあったのか気になったが、自分の身の上についてはそれ以降話はせず、ルミナスも今は子供達を助けに行く事を優先しようと思い聞かなかったが。
……オスクリタ王国、か…。
……子供達を無事に助けて戻る事ができたら、カイルからもう一度話を聞いてみるべきかな…。他にもカイルの話は疑問に思ったことが色々あったし…
捕らえた男たちが使っていたのと合わせて、盗賊達は馬車を全部で四台所有していたことになる。
カイルは本拠地は無いと言っていた。
移動しながら日々を暮らしていたとしたら、馬や自分達の食べ物だけでもお金は必要だし、金品を強奪して他国に売り払っていても、そこまで儲けられるのかな…。国内で盗みをするのは捕まる可能性が高くて危険だろうし。
資金源は一体どこから…
ルミナスは今考えても仕方がないと、そこで思考するのをやめて、今は振り落とされないことに意識を向けようと腕に込める力を更に強めた。
しばらく進むとサリシアが「それそろ村に着くぞ」と声をかけてきて、遠くに木造の建物と畑がルミナスの視界に入る。
村に入る前で一度止まり、サリシア一人で隊の者達を呼びに行った。
「ルミナスさんは村に残って。」
「……嫌です。一緒に行きます。」
イアンが馬に跨ったまま、ルミナスの方には顔を向けずに抑揚のない声で告げる。
サリシアからではなくイアンから発せられた言葉にルミナスは驚いたが、ここまで来てじっと待ってるのは嫌だった。
ルミナスの気持ちは、ライラを助けようと飛び出した時と同じだ。
「―――ッなんで自分から危険に向かっていこうとするんだよ!弱いくせに…!なんでだよ!」
ルミナスの言葉を聞いたイアンは顔を後ろにいるルミナスに向け、苦悶の表情で叫んだ。
「それでも私は…子供達の所へ行きたいのです。」
「――――ッ俺は!俺は、ルミナスさんが…」
「私に歯向かってきたのだ。根性があるのは認めよう。」
イアンの言葉を遮り、サリシアが隊を後ろに引き連れ戻ってきた。サリシアは後ろにいる隊の一人からナイフを受け取り、ルミナスの前に差し出す。
「これは…?」
ルミナスがサリシアに問いかける。
「お前にこれで戦えとは言わない。これは獲物の皮を剥ぐのに使っていた物で少し錆びもあるが…自分の首に突き立てる分には使えるだろう。万が一捕まりそうになった場合はそれを使って自害しろ。」
「姉上!?」
「ルミナスは何を言っても付いて来るのだろう?私や他の者達からすれば捕まっても見捨てるが、イアンに対して人質となりえる。それでも付いて来るのならば…そのナイフを手に取れ。」
…これを…自分の首に…?
ルミナスはナイフを見てゴクリと唾を飲む。
前世では刃物を使ったことはある。
しかしそれは料理などの日常で使う目的の為だ。
人に向けたり、ましてや自分へと向けるなど…。
「……分かりました。」
ルミナスは少し躊躇したが覚悟を決めて、ナイフを手に取る。その手は小刻みに震えていた。
ルミナスの覚悟をみたサリシアは薄く笑みを浮かべ、イアンもルミナスを村に残すのを諦めたようだ。
ルミナスは受け取ったナイフを腰のベルトに挿して
再びイアンに捕まる。
そしてサリシア、イアン、ルミナスは小隊を引き連れて盗賊達がいる場所へと馬を走らせる。




