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ルミナスは、旅を続ける

 

 ………アル……。


 私はアルの頭から足元まで、眺めるように視線を動かす。茶色のマントを羽織ってるアルの足下の地面には大きめの革袋が2つ置いてあって、旅に出る準備万端のようだった。ゆっくりと足を前に運ばせて私の前で立ち止まったアルは、流れるような動きで跪き、頭を垂れた。



「オレは主に(つか)えたい。どうか、旅の同行を許可してほしい。」



 静かながらも、よく通る声が耳に入る。


 頭を垂れたまま微動だにしなく、地面を見つめるその姿は、どこか不安めいていた。私から色よい返事があると確証がないからだろう。アルを見下ろしていた私は、ちらりと隣に視線を向ける。木箱を持つイアンはムスッとした顔をしているけど、特に驚いてる様子はない。昨日手合わせした相手がアルなら、きっとイアンはアルと事前に何か話をしていたのだろう。反対にマナは、にこにこと笑顔でアルに熱い眼差しを向けている。


 ………私、次第かぁ……。


 アルは私を好きだと告白してたけど、そんな雰囲気は地下室の時以来全くないし、もしも拒否したら暗殺者でなくなった今のアルは、自分で死を選ぶのでは…と考えが()ぎる。


「……同行を許可します。」


 そう言葉を掛けると、アルはゆっくりと頭を上げて銀色の瞳と目が合い、私は再び口を開く。


「ただ…貴方が仕えるのは、他に生きる理由が見つかるまでの間とするわ。」


 アルは若干目を見開かせ、虚をつかれたような顔をした。僅かに口が開いて何か言おうとしていたけど、一言も発せずに口を結び、小さく口角を上げる。そんな日は訪れないと言いたげだったけど、アルには視野を広げて私以外にも目を向けてほしいと思った。



「この命を主に捧げ、心からの忠誠を誓う。」



 青空の下。跪いたままアルは、私の手を取ると軽く手の甲に口づけをする。まるで騎士の宣誓のようだと思っていると、唇を離したアルは目線を上げ、決意のこもった眼差しを私に向けてきた。いつから私に仕えたいと考えていたのだろう。周りにいた騎士達が、眩しいものを見るような目で、こちらを見つめていた。



 私が許可を出したことで、アルの同行に反対する人は誰もいなく、イアンが左腕を怪我していたから、馬車の操縦はアルに任せることにした。馬車の中は買い物をして荷物が増えたけど「アルさん、って呼んでいいですかー?」とマナが積極的にアルと交流を深めようと御者台に移り、そこまで狭くは感じない。顔を振り向かせて私に視線を向けたアルは、何か考え込んでいるようだったけど、正面に顔を戻すと「……好きに呼んでいい。」と淡々とした口調でマナ返した。


 ゆっくり馬を前に進めて、私たちは城を後にする。





 …………………





 ……………





「〜〜〜っはぁ!? コイツ、連れてくのかよッ!」


 バルバールが御者台に座るアルを指差して、眉をひそめる。クレアや商会の人たちに挨拶は昨日済ませたから、孤児院に寄ってから王都を出ようと思って今孤児院の庭に馬車を停めている。外にいたリリィに塩と石鹸を渡した後、リリィに手を引かれながら眠たそうな顔をして孤児院から出てきたバルバールは、アルの姿を目にして一気に眠気が吹き飛んだようだった。馬車から降りた私が、バルバールに事の成り行きを説明した途端、怪訝な顔をしてアルを睨みつけている。


 舌打ちしたバルバールは馬車に近づき、アルにやられたと言っていた傷跡を見えるように、両手を掲げた。


「テメェ…いなくなるなら、治療代くらい置いてけよなァ!」


 まるでカツアゲする勢いのバルバールに、幼い子供達に囲まれていた私は、その場で成り行きを見守る。バルバールの強気な姿勢はアルが暗殺者でなくなり、私の下についたと知ったからだろうか。


「……なぜオレが?」


 首をひねるアルに、「……あ?」と声を漏らしたバルバールはダランと腕を振り下ろす。アルはどうやらバルバールに傷を負わせたことを、覚えていないようだった。


「バルバールは酒場で、賞金首のお前を捕まえようとして傷を負ったと言ってたぞ。」


 見兼ねたイアンが、馬車の中から顔を出してアルに話しかけた。それを聞いて思い出したのか、アルは握っていた手綱を離して腰に手を伸ばす。


「受け取れ。」


 ピン、と指で弾いて、光り輝く貨幣が宙に弧を描き、バルバールが顔を上げてパシッ と手の中に収めた。手を開いて満足そうにバルバールは、へへっと笑みを漏らす。お金を受け取ってアルにもう用はない様子のバルバールは、振り返ってハナとリリィ、子供達と一緒にいた私の元に歩いてきた。


「……あ〜〜…その、なんだァ……また、来る時は…上手い酒を頼むゼ。」


 頭を掻きながら私と目線を合わさないバルバールは、上手く言葉が出なくて、なんだか照れているようにも見えた。バルバールなりに別れを惜しんでくれているような気がして、自然と口角が上がる。


「ええ。とびっきり、美味しいお酒を用意してくるわ。」


 そう言葉を掛けると、バルバールはフン、と鼻を鳴らして何故か顔を背けてしまった。男の子が便乗するように菓子をねだり、バルバールの後から出てきたハナが叱ってるけど、城で料理長に沢山お菓子をもらったことを思い出した私は、マナに馬車の中から出してもらって手渡す。昨日食べきれなく、日持ちするクッキーが食べきれない程積んであったのだ。



 バルバールと孤児院の子供たちと別れて、馬車は再び進み出し、私は馬車の中で美しい鐘の音に耳をすませる。城を発ち、広場を通り過ぎた後くらいから鐘楼(しょうろう)の鐘が鳴り始め、それは私たちが王都を出てからも暫く聞こえていた。


 




 私たちは、最後の目的地に向かって旅を続ける。






次話 別視点になります。

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